第187話 なんでもは倒せないよ。倒せる奴だけさ
ディオスで大騒ぎになれば、当然その話はアルケイデスの耳にも届く。
そうなれば、シルバ達がアルケイデスに呼び出されるのも自然な流れだった。
城の応接室で待機するように命じられてロウはソワソワしていた。
「ロウ先輩、何やってるんですか? 落ち着いて下さいよ」
「あのなぁ、俺は皇太子殿下を軍学校のOBOG会で見かけても話したことはないんだぞ? ワイバーン特別小隊に任命された時に声をかけてもらったことはあるが、それだってほんの少しのやり取りだけだ。今回はそれじゃ済まないだろ?」
「基本的に話すのは俺なんですから、ロウ先輩がソワソワするような事態にはならないと思いますけど」
「ロウ先輩はマルクスさんと夜のお店に行く時は堂々としてるんですから、それと同じぐらい堂々として下さいよ」
「アリエル!? ちょっ、おま、それは駄目だろ!?」
「(人として)駄目なのはロウ先輩ですよね」
アリエルに痛い所を突かれてロウは何も言い返せなかった。
そんな話をしている間にアルケイデスが応接室に入って来た。
「すまん、待たせたな」
「大して待ってませんよ。雑談が終わったタイミングで兄さんが到着しましたから」
「そうか。禁書庫からモンスター学を持って来るのに時間を要したが、あまり待たせてないならそれに越したことはない。シルバ、それにワイバーン特別小隊の諸君、この度は大儀であった」
アルケイデスはシルバ達を労った。
早々に本題に入りたいところではあるけれど、サバーニャ廃坑まで行って帰って来て休む暇もなく応接室に来てもらったのだから、労いの言葉があるべきと思ったようだ。
「いえ、兄さんみたいに書類に埋もれて日夜デスクワークをすることに比べればどうってことはありませんよ」
「羨ましいものだ。皇太子になる前はもっと外を出歩けたんだが。さて、呼び出したのは他でもない。シルバ達が帝国軍のデータベースに存在しないモンスターの死体を持ち帰ったと聞いたから、モンスター学の本に載ってるか確かめておきたいんだ」
「安心して下さい。禁書庫に入らせてもらえるようになってから、俺がちょこちょこ書き足してたでしょう? 今回持ち帰ったレッドキャップとワームもちゃんと書き足してあります」
シルバの発言を受けてアリエルとエイルは驚いていなかったが、ロウはシルバがそんなことをしているとは知らなかったので目を丸くしていた。
「そうか。・・・ふむ、確かに追記してあるな。レッドキャップはゴブリン10体分の強さでワームは動植物だけでなく石も喰う巨大蚯蚓か。シルバ達は問題なく倒せたようだが、他の軍人達ではどうだ?」
「両方問題なく倒せるのはハワード先生とキマイラ中隊でしょうね。ワームの方がレッドキャップよりも強いので、レッドキャップだけなら倒せる者もいるでしょう。ただし、レッドキャップもゴブリン同様に複数体で行動することが多いです。その点は注意する必要がありますね」
「戦ったのは3体だったな。それだけでもゴブリン30体を相手にしてるのと変わらないんだから、油断できないのは間違いないだろう。掲示板でロザリーにサバーニャ廃坑の見張りを強化するよう伝えたが、数日休んだ後に再びシルバ達にはサバーニャ廃坑に向かってもらうことになる」
「わかりました。持ち帰るべき死体が多いといちいち帰って来なければならないのが面倒ですね」
シルバはアルケイデスが自分達をサバーニャ廃坑に派遣したい理由を理解しているので、苦笑しながら承諾した。
モンスターの卵を見つけるミッションは継続中だけれど、サバーニャ廃坑にいるレッド級以上のモンスターを簡単に倒してその死体を持ち帰れるのはシルバ達ぐらいだろう。
それがわかっているからシルバはアルケイデスの頼みを聞くのだが、せめて回収した死体をどこかにしまって運べればとシルバが言外に言いたくなる気持ちもわかる。
「そっちは研究部門の連中がミミック素材を使って研究中だ。上手く行かば、見た目よりもずっと大きなものが入るアイテムになるから、シルバ以外にもそう言った要請は研究部門に多く寄せられてるらしい」
「早く完成してほしいものです。そうすれば遠征してたとしてもいちいち帰って来なくて済みますから」
「そうだな。ワームとレッドキャップがいなければそのまま探索を続けてほしかったところだ。シルバ、ワームを倒した先に禁書庫の本にお前が記したモンスターはいると思うか?」
「いると思いますよ。横穴は普通のルートよりも出て来るモンスターが強いです。閉じられてた道が開かれた訳ですが、そこにどれだけ昔からモンスターがいるか誰も調査できていないので正直未知数ですよ」
横穴がどこまで伸びているのかわからない以上、今までの割災でエリュシカに流れ着いてしまったモンスターがどれだけいるかわからない。
シルバは異界でマリアと共に数多くのモンスターに出会っており、エリュシカで見るモンスターの種類の少なさに驚いている。
もしもサバーニャ廃坑が強いモンスターに乗っ取られでもしたら、あそこを中心にスタンピードが発生してもおかしくない。
『どんなモンスターがいてもご主人とレイがいれば大丈夫だよ』
「なんでもは倒せないよ。倒せる奴だけさ」
「レイは頼もしくてシルバは慎重だな」
ドヤ顔のレイは頼もしいし、安請け合いしないシルバも慎重だがそれはそれで安心して任せられる。
アルケイデスはこのコンビなら大抵のことはなんとかしてくれそうだと感じた。
その後、シルバ達はレッドホーネットの巣の欠片に付いていた卵が孵り、研究部門の軍人が女王ポジションの個体の刷り込みに成功したことを知らされた。
もう少し話を詳しく訊きたいところだったが、アルケイデスに次の予定が入っていたため報告会はこれで終了した。
アルケイデスが応接室を出て行ったらロウが大きく息を吐いた。
「ふぅ、疲れたぜ」
「ロウ、貴方は喋ってなかったじゃないですか」
「喋ってなくても緊張するんだよ。話を振られたらどうしようとか、自分の態度が不敬だと思われてないかとか気になって」
「ロウ先輩、一応皇族な俺を前に色々やらかしてる時点で不敬罪にされてもおかしくないんですから、今更気にしてどうするんですか?」
「そうだった・・・」
実は第三皇子だったシルバの前でロウはそこそこしょうもない発言を繰り返している。
その時点で不敬罪と断定されてもおかしくないけれど、シルバは今までの発言でロウを不敬だと思ったことはない。
だからこそ、気にするのは今更じゃないかと指摘するのは当然のことだった。
城の応接室を出た後、シルバ達は解散してそれぞれの家に帰った。
次にサバーニャ廃坑に向かうのは3日後だから、休憩したり3日後の遠征の準備に時間を充てたりするのだ。
シルバは自室で許可を貰って禁書庫で写したモンスター学の本を読んでいた。
レイはシルバの膝の上で丸くなって寝ており、部屋の中はとても静かだった。
(あの横穴、最低でもレッド級モンスターしか出て来なかった。奥に行けばブラック級ばかりかもしれないから注意しないと)
レッドキャップは単体で考えればレッド級モンスターであり、ワームはブラック級モンスターだ。
横穴の奥に進めば進む程強いモンスターがいると仮定すれば、シルバー級モンスターが出現しないとも限らない。
ちなみに、今のレイはまだ子供だけど戦闘経験を積み重ねて強いモンスターの魔石も取り込んでいるから、シルバー級に相当すると考えて良い。
レイと同格のモンスターがいるかもしれない場所に行くのだから、シルバが用心してモンスター学の本を読み直すのは何もおかしくないだろう。
その時、ドアをノックしてアリエルがシルバの部屋に入って来る。
「シルバ君、お邪魔するよ」
「アリエル、どうした? 3日後が怖いのか?」
「僕はシルバ君となら地獄にも足を踏み入れる覚悟があるから平気だよ。それよりも、サバーニャ廃坑の横穴で卵を産んでそうなモンスターがいないか質問したくてね」
(だよね。アリエルが精神的にタフなのは知ってた)
アリエルに怖いのかと訊いたものの、正直それはないだろうなとシルバは思っていたら案の定だった。
「廃坑や洞窟を生息地とする卵生のモンスターか。虫型と爬虫類型が多いから、可能性としてはこのページからここのページまでに書かれたモンスターかな」
「あっ、このモンスターは良いかも。卵が見つかると良いな」
アリエルは早速従魔候補のモンスターの情報を見つけて機嫌を良くしていた。
それから3日後、シルバ達ワイバーン特別小隊は再びサバーニャ廃坑に向かった。
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