第88話 シルバ君、女心をもっと勉強して
シルバが会場に戻って片付けはスピードアップした。
食器を食堂に返却してテーブルや幕を撤去すれば訓練室は元通りだ。
後は発表で使った
学生会室に戻って来たことでOBOG会が終わったと実感したロウは両手を挙げた。
「終わったぁぁぁぁぁ!」
ロウが騒がしい時はいつもイェンがツッコミを入れるのだが、今はイェンも大きなイベントが終わった解放感からかロウに寛容な気持ちになっていてツッコまない。
エイルはここで学生会長として一言あるべきだと思って口を開く。
「皆さん、本当にお疲れ様でした。今年は特に注目を浴びており大変だったのは間違いありませんが、皆さんが協力してくれたおかげでOBOG会を成功させることができました。ありがとうございました」
何事もなくとエイルが言わなかったのは最小限の被害で押さえたもののトラブルがあったからだ。
ポールが嫌がらせをするだろうと予想した3人はやはり嫌がらせをした。
それでもシルバ達がその嫌がらせに対処したことにより、被害を最小限に抑えられたのは間違いない。
「いやぁ、嫌がらせしてくる連中よりも俺はシルバに驚かされた。殿下に気に入られるとかヤバいだろ」
「確かに。殿下はシルバ君のことをかなり気に入ってたと思う」
「ハンバーガーの話から色々盛り上がったんですよ」
「わ、私ももっと雑談ができるようにならないと来年が大変なことに・・・」
シルバの発言を受けてメアリーはプルプルと震えた。
メアリーが来年のことを気にしている理由だが、それは彼女が今のところ次の学生会長の最有力候補だからだ。
今が4年生のメアリーは学生会について理解が深く、学生達からもメアリーがエイルの後継者になるのだろうと思われている。
仮にメアリーが次の学生会長になったとすれば、当然次のOBOG会ではメアリーがイベントの司会進行や活動報告をしなければならない。
エイルが自信家という訳ではないが、少なくともメアリーはエイルよりも自分に自信がない。
今日のイベントを思い出しても、参加者のOBOGとの雑談は自分から話を振った回数よりも周りがメアリーに話を振ってくれた回数の方が多い。
これはメアリーを助けてあげなければとOBOG達の庇護欲がそそられた結果である。
エイルは美人だが小柄なメアリーのように庇護欲がそそられるタイプではない。
自分には自分の良さがあると理解できずにエイルを真似することだけに執着すると、将来的に失敗してしまう可能性は否定できない。
「まあまあ。メアリーちゃんはちっちゃくて可愛いからなんとかなるよ。今日も皆さん優しくしてくれてたじゃん」
「ちっちゃいって言わないで下さい」
「そうだった。胸は大きいもんな」
「先輩最低です」
「ロウ、メアリーを元気づけようとするのは良いことですがセクハラはいけません」
「虫は一度死んだ方が良い」
メアリーとエイル、イェンからロウに向けられる視線はとても冷たかったが仕方のないことである。
しかし、ロウの発言のおかげでメアリーが今感じなくても良い緊張感は吹っ飛んだ。
それがロウの狙いだったとはいえ、セクハラは安易に選択すべきではないのは間違いない。
エイルはロウとメアリー、イェンが言い争ういつもの光景を見て安心した結果、突然どっと疲れを感じた。
ふらついたエイルを素早く移動して倒れないように支えたのはシルバだった。
「会長、大丈夫ですか?」
「すみません。重要な役目を終えたら気が抜けてしまったみたいです。マッサージをお願いしても良いですか?」
「わかりました」
学生会室には仮眠用ベッドが1つだけある。
普段は使われないが、イベントの準備で忙しくて誰かがベッドを持ち込んだことがこのベッドがあるきっかけだ。
そして、このベッドはシルバがマッサージできると明らかにした後、寝ながらマッサージする時に使うようになっていた。
座っている者にマッサージするよりも寝そべっている者にマッサージする方が全身に対応できる。
エイルが俯せになってから、シルバは早速マッサージを始めた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「会長、あんまり出ちゃいけない声が出てます」
疲れの滲み出た声がエイルから漏れ始めたので、シルバは苦笑しながら言外に我慢してほしいと頼んだ。
唐突に女を感じさせるような声を出されるのも困るけれど、これはこれで年頃の女性が出して良い声ではないだろうというのがシルバの判断だ。
ライトによる
(寝ちゃってるけど起こさなきゃ不味いよな)
学生会室で寝たままのエイルを放置する訳にはいかないから、軽く肩でも叩いて起こそうかと思っていたところでいつの間にかシルバの隣にアルが立っていた。
「シルバ君、会長にエッチなことしちゃ駄目だからね?」
「全くそんなこと考えてなかったんだけど」
「そうだよね。もしもエッチなことをするならマッサージの時点でやるもんね」
「アル、ロウ先輩に毒されてないか?」
「・・・そんなことないはず。それとシルバ君は女心を勉強してね」
「ん?」
アルが何を言いたいのかいまいちピンと来なかったのでシルバは首を傾げた。
とりあえず、アルの発言について考えるのを先送りにしてシルバはエイルを起こす。
「会長、マッサージは終わりましたよ」
「んん~」
妙に色っぽい声に戸惑うシルバだが、隣のアルが容赦なくエイルの肩を強請る。
「会長、起きて下さい。こんな所で寝たら風邪ひきますよ」
「・・・いつの間にか寝てしまったようですね」
アルに起こされてからゆっくりと起き上がったエイルは大きく伸びをした。
「体の疲れはマシになりましたか?」
「はい。シルバ君のマッサージでかなり軽くなりました。やっぱりすごいですね」
「疲れを翌日に残すと目覚めた時に気分が良くないですから、ちゃんとやりましたとも」
「ありがとうございます。今日はもう寮の部屋に戻って早めに寝ることにします」
エイルがもう退室すると言い出すと、他のメンバーも急いで退室の準備を進めてエイルが学生会室の施錠を行った。
学生会室の外で解散となり、シルバとアルは学生寮の自分達の部屋へと戻った。
シルバとアルは順番にシャワーを浴び、シルバがシャワーを浴びて出て来たところでアルがシルバにお願いする。
「シルバ君、僕にもマッサージしてほしいな。最近肩凝りが酷くてさ」
「そうだっけ? 3日前にマッサージした時は全然凝ってなかったぞ?」
「シルバ君、女心をもっと勉強して」
「そんな難しいことを言われてもなぁ」
シルバはアルの言い分に苦笑した。
「会長のマッサージをしてた時、シルバ君は普通だったけど会長はそうじゃなかったのって気づいてた?」
「そうなの?」
「そうなんだよ。そもそも、会長はもう成人した女性なんだよ? そんな人が知り合いとはいえシルバ君に体を触って良いっていうか意味を考えてほしいね」
「・・・あぁ、あぁ」
一度目のあぁはその理由を理解し、二度目のあぁはどうしたものかと思って溜息混じりのものだった。
アルに好意を寄せられていると理解しているシルバだが、エイルからも同様に思われていると知って反応に困ってしまったのだ。
孤児院にいた頃は恋愛要素なんて皆無であり、異界にいる時は生き残って強くなることだけを考えていたからそれどころではなかった。
今はアルから恋愛的意味で好きと言われて意識するようになったけれど、まだまだシルバの恋愛偏差値は底辺レベルである。
「今後は誰でも安易にマッサージなんてしちゃ駄目だよ? 特に女性陣。シルバ君のマッサージは気持ち良いから虜になる人が増えたら困る」
「いくらなんでも誰彼構わずマッサージするつもりはないってば」
「ふーん。それじゃあシルバ君は会長と僕を同じぐらいに見てるんだね。どっちにもマッサージするし」
「全く一緒って訳じゃないぞ? アルの方が付き合いは長いし」
シルバが困ったように言うとアルが言い過ぎたと思って謝る。
「ごめん。ちょっとムキになっちゃった。頑張って次からはもうちょっと抑えるよ」
「できるなら頼む」
そのシルバの言葉にはアルがこの先もエイルに対抗心を燃やすに違いないという確信が込められていた。
シルバがどちらとくっつくか、もしくはそれ以外の選択肢を選ぶかはまだまだこれから決まる話である。
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