第87話 失礼ながら、世の25歳は省エネな反応をしないと思います
シルバと共に戻って来たアルケイデスを見て、ポールは心配そうな表情のまま近づいて訊ねる。
「アルケイデス先輩、シルバは変なこと言いませんでした?」
「ん? なかなか貴重な話が聞けたぞ。シルバは面白いな」
「ハワード先生、アルケイデスさんとはどういったご関係なんですか?」
ポールならば殿下と呼ぶと思ったが、名前で呼んでいるのでシルバはこの2人がどんな関係なのか気になったのだ。
「ポールは俺の1つ下でな。面倒臭がりでやる気のない見た目だが、それに反して高い実力があるから軍学校時代に学生会にスカウトしたんだ」
「色々ありましたねぇ。アルケイデス先輩がしょっちゅう俺に無茶なこと言いましたから」
「・・・ハワード先生って25歳だったんですか?」
「ブフッ」
シルバが自分とポールの関係性よりもポールの年齢にツッコんだことがアルケイデスにとって面白く感じて吹き出した。
「そりゃ俺が25に見えないってかー?」
「失礼ながら、世の25歳は省エネな反応をしないと思います」
「省エネ・・・」
「ククッ、ヤバい。やっぱりシルバ面白いわ」
ポールは省エネと言われたのは初めてだったので反応に困り、アルケイデスはシルバの表現がツボに入ってしまったのか腹を抱えて笑い始めた。
周囲の参加者はここまでアルケイデスがご機嫌な様子を見たことがなかったため、間違いなくシルバはアルケイデスに気に入られたのだと察した。
そこにジャンヌが加わる。
「殿下、シルバを気に入られたようですな」
「おう。変に俺と距離を取ろうとしないし、こいつはこいつで俺とは違う苦労をして来たのがよくわかったからな」
階級的にはジャンヌの方が上だが、皇族のアルケイデスに対してジャンヌは丁寧に話す。
アルケイデスと話すジャンヌは作り笑いではないようで、殿下呼びするのは本人が強く希望しただけで仲は良いらしい。
ジャンヌはシルバがアルケイデスに自分の過去を話したのではと察して視線を送り、シルバはその視線の意味に気づいて頷いた。
アルケイデスに問われて正直に話すしかなかったのだろうとシルバが自分の出自を喋った理由に納得した。
「シルバはまだ1年ながら軍学校でいくつもの影響を与える優秀な学生です。特例でキマイラ中隊第二小隊長に任命されたので、殿下にも何かあったらお力添えいただけると助かります」
「無論だ。俺もシルバがしょうもないことで軍を辞められては困ると思ってたんだ。気が付く範囲でフォローしよう」
「「「ありがとうございます」」」
シルバとポール、ジャンヌが同時に頭を下げた。
ここまでアルケイデスが気に入ったとアピールすれば、シルバを相手に下手なちょっかいをかける馬鹿はいないだろう。
ちなみに、料理を運ぶアルに足をひっかけようとしたヒューゴは顔色が真っ青になっていた。
自分が嫌がらせしようとしたのはシルバではなくアルだけれど、シルバとアルは仲が良いから自分の友人にちょっかいをかける嫌な年上として報告されれば自分の軍人ライフが終わってしまうからだ。
ヒューゴが自分のことをチクらないで下さいと小者全開でガクブルしていたが、やるとすればそれはシルバではなくアルだから祈る相手が別だ。
「それはそうとシルバ、クッキーを開発したのはお前なんだよな?」
「そうです。アルケイデスさんもクッキーがお好きですか?」
「勿論だ。甘い物は頭を使うのに必要なだけじゃない。疲れた心を癒す薬なんだよ」
ここから先、シルバはマチルダと話したようなクッキーの話をポールとジャンヌを巻き込んですることになった。
話が盛り上がると時間というものはすぐに過ぎるもので、気づけばOBOG会も終わりの時間が近づいていた。
「参加者の皆様、宴もたけなわではございますが、時間の都合上お開きとなります。最後にアルケイデス殿下よりご挨拶をいただきたく存じます」
「うむ。諸君、今日はとても楽しい会だったように思う。帝国をあらゆる害から守る我々にとって、日々の業務やミッションは楽とは言えない。だが、それがあるからこそこういった会議は楽しく感じるし、民の笑顔を見て達成感が得られるものだ。今後も諸君の働きに期待する。以上だ」
アルケイデスの挨拶に参加者全員が惜しみない拍手を送った。
彼は継承権争いに参加していないが、それは彼が無能だから参加できない訳ではない。
もしもアルケイデスが参加していたら、第一皇子と第一皇女は協力してアルケイデスを潰しにかかるぐらいには彼は優秀で人望もある。
近づきがたい雰囲気はあれど戦う姿は周りを鼓舞し、部下を指揮する姿は凛々しくいつだって部下の士気は高い。
拍手が終わるまで3分程かかり、それが完全に鳴り止んでからエイルは口を開いた。
「アルケイデス殿下、ありがとうございました。これにて学生会OBOG会を閉会いたします。皆様、本日はお忙しいところお集まりいただき誠にありがとうございました」
エイルが連絡事項を案内した後、参加者は次々に会場から退室していった。
階級の高い者から会場を出て行き、5分もすれば会場には学生会とポールだけが残っていた。
「よーし、お前等よくやったなー。今日のイベントではトラブルがなくてホッとしたぞー」
「まったくもう、シルバ君には驚かされましたよ。まさか、殿下と別室に行ってしまうんですから」
ポールの言葉の後にエイルが抗議するような目で続いた。
「いやぁ、ハンバーガーの話で盛り上がっちゃいまして」
嘘である。
これはエイル達には本当のことを言えないのでシルバが別室で話す前に話していた内容を伝えたのだ。
「エイルー、この後片づけだろうけどシルバをちょっと借りて良いかー?」
「はい」
「んじゃ、ちょっと付き合ってくれ」
「わかりました」
シルバはポールに連れられてアルケイデスと話をした部屋に移動した。
「ここに来てもらった理由は他でもない。シルバ、お前はアルケイデス先輩に自分の師匠について話したんだろ?」
「もしかして、会場内でアルケイデスさんと俺の話を聞いてたんですか?」
「言っとくが盗み聞きしたくてしたんじゃないぞ。アルケイデス先輩の機嫌が悪くなった時に素早くフォローできればと思って聞き耳を立ててた」
「他の参加者の会話もあったのに特定の会話を聞き取れるとは流石ですね」
シルバに褒められたポールは首の後ろ側をかいた。
「俺のことはどーだって良いのさ。校長からは詮索を禁ずると言われたんだが、シルバとアルケイデス先輩の話からシルバの師匠がわかっちまったから確かめたい。勿論、答えたくないと言うのなら俺の好奇心は胸にしまっとくが、今後シルバのフォローをするのなら俺も知っといたほうが良さそうなんでな」
「ハワード先生なら別に構いませんよ。誰彼構わず触れ回らないでしょうから」
「触れ回るなんて面倒なことするかよ。つーか、俺が辿り着いた答えがマジだったら絶対に軽々しく言えねえから」
ポールはそのまま自分が導き出した答えを口にするのではなく、あくまでシルバが自分から答えてくれるのを待った。
ポールのような実力者ならば、自分が答えを述べてシルバの反応で答えを確かめることなんて容易くできる。
それでもそうしないのはシルバに自分を信用してもらいたいからだ。
シルバの表情から答えを知るのはシルバから信用を得るどころか不信感を招いてしまう。
そんな事態は避けたいからポールはシルバの口から答えてくれるのを待っているのだ。
シルバもポールにマリアを利用して何かしようとする野心がないことはわかっているため、ポールが黙っている意図も察して自ら口を開く。
「既に予想できてると思いますが、俺の師匠はマリア=ムラサメ本人です」
「・・・やっぱりか。初めて聞いた時は訊き間違いだと思って流したが、【村雨流格闘術】って言ってたもんな」
「その通りです。俺は割災で異界に飛ばされ、師匠に拾われた6歳から今年の4月まで異界でみっちり師匠に勉学も戦闘も鍛えられてました」
「なるほどー。そりゃ強い訳だ。拳者様が直々に鍛えて弱いはずねえもんな。他の学生にない知識や戦闘経験についても納得したわ」
全てのピースが繋がってポールはそうだったのかと感慨深げに頷いた。
予想はしていたけれど、自分の予想と本人から語られる真実では重みが違ったようだ。
「とりあえず、この事実を知ってるのはハワード先生を除いて校長先生とアルケイデスさん、アルだけなので内密にして下さい。公開して俺が師匠の弟子って事実を利用されたくないですから」
「わかってるさ。それにしても、今日のイベントでアルケイデス先輩のお気に入りになれたのはデカいな。あの人が味方なら百人力だ」
「本当にありがたいことです。そろそろ戻っても良いですか? 他のメンバーが片付けをしてるのに自分だけやらないのも気が引けるので」
「真面目だなー。良いぞ」
真剣な話はここまでで終わり、シルバはポールと別れてアル達と合流して片付けに参加した。
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