第42話 先生、バナナは主食

 翌日のホームルームでシルバ達B1-1の学生はポールから合同キャンプの話を聞くことになった。


「全員しっかり聞いとけよ? 面倒だから2回も同じ説明はしないからな? 来週末だが、1年生の全クラスには合同キャンプに参加してもらう。それはクラブの先輩連中から話は聞いてるんじゃないか?」


「先生、脅されるだけ脅されましたが詳しくはわかりません」


「私も同じです」


 ポールの質問に対してどの学生も酷い目に遭ったという話だけで具体的な話は聞いていないと答えた。


 シルバも大雑把にしか知らないので、ポールからの詳しい説明を待つ。


「なんだ、みんな愚痴しか聞いてねえのか。それじゃ説明を省略できないな。しょうがない。聞き逃すんじゃないぞー」


 ポールはやれやれと言いながら合同キャンプのルールを説明し始めた。



 ・キャンプは1学年の全コースが絶対に参加する(欠席は原則認められない)

 ・キャンプは1泊2日のスケジュールで行われる

 ・全クラスから籤引きで5人のチームを作り、合同キャンプの間は共に過ごす

 ・学生がキャンプに持ち込めるのは学校支給のリュックサックに入るものだけ

 ・学校から与えられるミッションをクリアした数に応じて報酬を貰える

 ・チームメンバーが誰か失格になったら全員失格になる

 ・巡回する教師に保護されたら失格になる

 ・何一つミッションをクリアできずにキャンプが終わったら補習が待っている



 (なかなかハードな条件じゃないか)


 ポールから合同キャンプの説明を聞いてシルバは苦笑した。


 エイル達が行っていた通り、これはチームメンバーを決める籤引きに全てが懸かっていると言えよう。


「説明は以上だが質問はあるか? つっても答えられる質問と答えられない質問があるけどなー」


「はい」


「ロックか。何が訊きたい?」


「学校支給のリュックサックのサイズってどれぐらいですか?」


「その質問は予想してたんで実物を持って来た。このサイズだ。順番に見てくれ」


 ポールはある程度来るであろう質問を予想していたらしく、準備していたリュックサックのサンプルをクラスの全員が手に取って見れるように回した。


 シルバはアルから回って来たそれを手に取り、容量やポケットの位置等詳しく調べてから次のクラスメイトに回した。


 (俺は武器を使わないからその分食糧を多めに詰め込むか)


 昨日ロウから聞いた話が忘れられなかったため、シルバは食糧を多めに持っていくことに決めた。


 他人から貰った食糧で腹を壊す可能性を潰しておきたいのもそうだが、万が一の時には自分の食糧を渡しても良いと考えているのだろう。


 次に挙手したのはメイだった。


「はい!」


「なんだソラ? バナナはおやつに入らないぞー」


「先生、バナナは主食」


「そうか。はい、次ー」


「質問、まだ、終わってない」


「あれ、そうだっけ? それで、何が訊きたいんだ?」


 ポールの中でソラとリクは食いしん坊のイメージが強かったらしく、ポールはソラの質問を勝手に予想して先に答えたがそれはソラの質問ではなかった。


 ソラがどんな質問をするのか想像がつかなかったため、ポールはどんなことが訊きたいのか質問した。


「場所、どこ?」


「合同キャンプを行う場所を訊いてるのか?」


「肯定」


「ニュクスの森で行う」


 (ニュクスの森ってジーナ達と遭遇した森か。懐かしいな)


 合同キャンプの開催場所がジーナとその父であるファルコと出会った場所だと思い出し、シルバは2ヶ月前のことだけど懐かしく感じた。


「他に質問はあるか?」


「はい!」


「ヨーキ、籤引きはこれからやるが結果はキャンプ当日までお預けだからな」


「ポール先生、俺の心を先読みしないで下さい」


「仕方ないだろー。お前みたいな奴の考えてることってわかりやすいんだからさー」


 ポールの言い分にクラスが笑いに包まれた。


 ヨーキが何を質問するか想像できたのはポールだけではなかったようだ。


 籤引きをしたものの、引いた籤はすぐにポールによって回収されたのでシルバ達は自分がどのチームなのかわからずじまいだった。


 終業のチャイムが鳴ってホームルームが終わり、シルバとアルは学生会室に向かった。


 学生会室に入った途端、エイルが何かを察した表情になった。


「シルバ君、アル君、こんにちは。合同キャンプの説明をされましたね?」


「「はい」」


「わかりました。それでは、貴方達は合同キャンプが終わるまで放課後の時間を自由に使って下さい」


「良いんですか?」


 そう言ってくれるのは助かるが、それで学生会の仕事は回るのか心配になってシルバが訊ねた。


「構いません。2人には私達のような後悔をしてほしくありません。しっかりと準備して合同キャンプに臨んで下さい」


「「ありがとうございます!」」


 シルバとアルはエイルにお礼を言って学生会室を出て行った。


 実際のところ、エイルはシルバ達のことだけを考えて自由時間を与えた訳ではなかった。


 合同キャンプについて説明があると、どの学生もそれについて考えるのでいっぱいいっぱいになってしまい仕事が全然捗らないのだ。


 最高学年のエイルは過去にメアリーやイェンが今のシルバ達よりも上の空だったことを思い出したため、シルバとアルには注意するよりも先に自由時間を与えた。


 この対応でシルバとアルから気の利く先輩だと思ってもらえるならラッキーだとも考えている。


 それはさておき、シルバはアルを連れて食堂にやって来た。


「シルバ君、なんで食堂に来たの?」


「ちょっと作ってもらおうと思う物があってな」


「その話、私も詳しく聞きたいな」


「ジーナか」


「あれ、全然驚いてない? つまんないの」


 ジーナが抜き足差し足で自分の背後に来ていたことは気配から察していたので、シルバは突然後ろから声をかけられても全く驚かなかった。


 それがジーナは不満だったらしい。


 ちなみに、アルはジーナの接近に気づけていなかったため、内心驚いていたけどそれを顔には出さなかった。


「人の気配には気づいてた。俺を驚かそうとする学生で気配の殺し方が甘いのは戦闘コース以外だろうから、ジーナだろうなって予想しただけ」


「へぇ。シルバって賢いんだね。戦術コースの学生みたい」


「シルバ君は学年主席だからね」


「なんでアルがドヤ顔なのよ。それで、シルバは食堂で何を作ってもらおうとしてるのかな?」


 ジーナはアルの発言に苦笑した後、脱線している話題を元に戻してシルバに訊ねた。


「合同キャンプに持ってく食糧について食堂の人と相談しようと思ってな」


「うん、お金がチャリンチャリンって鳴る音が聞こえるわ。シルバ、私も一枚噛ませて!」


「やっぱり商魂たくましいな」


「シルバ君、前にも言ったけど女の子にたくましいは褒め言葉じゃないよ?」


「別に気にしてないよ。よく言われるし褒め言葉だと思ってるからノープロブレム!」


 (ほらな? やっぱりたくましいで正解だよ)


 口には出さなかったけれど、シルバはジーナの表現を間違っていなかったと確信した。


 アルも本人がそれで良いならとこれ以上何も言わなかった。


「ジーナの評価の話は置いとくとして、ジーナは合同キャンプで持ってく食糧をどうするか決めたか?」


「うん。腐りやすい物や汁物は避けるつもりだから、黒パンと干し肉の予定」


「それじゃ栄養が足りてないし、腹いっぱいにならないと思わないか?」


「思う。シルバには何か画期的な栄養補給のアイディアがあるの?」


「師匠から教わった携帯食糧を再現できれば栄養も足りるし腹もいっぱいになる」


「何それ気になる」


 シルバの話にジーナは目を輝かせている。


 シルバの話が間違いなく商売に繋がると確信したのだろう。


 ジーナが儲けのために全部バラしてしまうのではと心配になり、アルはシルバに釘を刺す。


「シルバ君、そのアイディアは合同キャンプが終わるまでは広めない方が良いんじゃない?」


「そこは私を信用してほしいな。売り出すとしてもこれのおかげで合同キャンプを楽々乗り切れましたって宣伝文句にしたいからすぐに売り出したりしないよ。というか、命の恩人のシルバが不利になるようなことはしないから安心して」


「アル、心配し過ぎだって。信用できる奴とできない奴ぐらいちゃんと見極められるって。俺が孤児院育ちって知ってるだろ?」


「・・・わかった。シルバ君を信じるよ」


「私は信用してもらえないの?」


「前向きに検討するよ」


「手厳しいなぁ」


 アルの警戒心が強いことにジーナは苦笑した。


 とりあえず、3人は食堂で馴染みのおばちゃんを見つけて声をかけた。

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