第22話 僕がいるって忘れてない?
ジャンヌは拡声器を使わずに大きな声を出すことにしたようだ。
「これより第88回新人戦を開会する! 学生諸君、今日までの努力を全力で相手にぶつけて最高のパフォーマンスを見せろ! 以上だ!」
力強い開会宣言を手短に済ませたジャンヌは本部席まで移動する。
校長の話が長くて貧弱な学生が貧血で倒れるなんていうテンプレは起こる暇もなく、戦闘コースの1年生達に気合が入った。
ジャンヌの後にルールや注意事項を説明するのはポールの役割だ。
ポールとしては面倒だから他の先生に任せたいところだが、同学年の担任教師の中で一番軍の職位が高いのはポールだったからこれは他の教師には任せられないのである。
彼は見るからに怠そうな態度のまま必要事項の説明を淡々と行う。
1日目と2日目に共通するルールは意図的に人を殺すような真似を禁止すること、場外に落ちたら負けであることだけだ。
刃引きされた武器ならば使っても構わないし、身体能力を向上させる薬も恒常的に能力値が上昇する物ならば3日前まで使っても構わない。
ただし、何があっても自己責任という誓約書にサインした以上自分の面倒を自分で見なければならない。
意図的に殺すのは禁止されていても、殺された本人の不注意が原因で死ぬことだってあるのだから注意が必要なのは間違いない。
それはさておき、早速新人戦ペアの部が始まる。
ペアの部は午前の予選と午後の決勝トーナメントの形式で行われ、A~Dの4つのブロックでそれぞれ予選を勝ち上がったペアが決勝トーナメントに進む。
B1-1で例えるならば、クラスに所属する5ペアの出場するブロックがばらけても1ペアだけ決勝トーナメントには進めない訳だ。
ちなみに、予選の組み合わせは以下の通りとなった。
Aブロックはシルバ&アルペア。
Bブロックはサテラ&メイペア。
Cブロックはソラ&リクペアとタオ&ウォーガンペア。
Dブロックはヨーキ&ロックペア。
つまり、Cブロックではソラ&リクペアとタオ&ウォーガンペアのどちらかが敗退することになる。
「シルバ君、Aブロックの予選もう始まるよ」
「わかってる。アルの準備はばっちりか?」
「勿論」
「それなら良いんだ」
Aブロックに出場する学生達が石畳のフィールドに集まる。
審判は進行役とは別でB1-2の担任教師が担う。
「Aブロック、始め!」
開始の合図がされた直後、B1-2以下4クラス全てのペアがシルバとペアを取り囲む。
「ふむ、共闘は根回し済みか」
「悪く思うなよ主席。質で勝てないなら量で挑む。これが頭脳戦ってやつだ」
「
「観念しろ」
「ヒャッハー!」
B1-5のペアが我先にとシルバに攻撃を仕掛け出す。
「馬鹿! 先走んな!」
「もう遅い。包囲は無駄に終わった」
シルバは殴りかかって来たB1-5のペアの後ろに回り、首トンをお見舞いしてあっさりと戦闘不能にした。
抜け穴ができてしまえば包囲の意味がなく、シルバとアルは空いた穴から包囲を脱出した。
「こうなった以上しょうがない。やっちまえ!」
「僕がいるって忘れてない?」
フィールド上の敵がシルバにばかり注目しているため、ムッとした表情のアルが<
その結果、B1-2~B1-4の3つのペアがあっさりと落とし穴に嵌ってしまう。
「そこまで! Aブロック勝者、シルバ&アルペア!」
シルバ達の予選はあっさり片付いてしまった。
「アル、ナイス。疲れてないか?」
「ううん。全然平気だよ」
シルバとアルはハイタッチしてB1-1の控え席に移動した。
Aブロックが想定よりも早く終わってしまったが、教師陣によるフィールドの修復が済むとそのままBブロックに移った。
「Bブロック、始め!」
「B1-1を囲め!」
「遅くてよ」
サテラが矢を放った先にはB1-2のペアがいた。
「そんなもん当たらないぞ!」
「手を抜いてるんだから当然だよ。メイ」
「任せて! よいしょっ!」
メイは矢を避けて油断しているB1-2のペアと距離を詰めて
そのスイングに命中してB1-2のペアは仲良く場外に吹き飛んだ。
そうなってしまえば指揮官がいなくなってから、残りのB1-3~B1-5は慌ててサテラとメイを狙って子攻撃を仕掛ける。
ところが、サテラに矢で牽制されて近づけない。
態勢を崩したタイミングでメイが近づいてスイングすれば、Bブロックの予選で立っていられたのはサテラ&メイペアだけとなった。
「そこまで! Bブロック勝者、サテラ&メイペア!」
Aブロックに続いてBブロックも短い時間で片付いてしまった。
これには観客席にいた戦闘コースの上級生達もざわついていた。
「マジか。今年のB1-1はすごいな」
「包囲が包囲になってないぞ」
「入学して1ヶ月でこの練度ってヤバくない?」
「シルバがB1-1の実力を引き上げてるんじゃないか?」
B1-1について上級生達はシルバがB1-1の実力を引き上げたと推測したが、それは正しいと言えよう。
シルバ&アルペアが強いのは明らかだから、個々の実力で追いつけないならば連携でその差を埋めようと切磋琢磨した結果がこれである。
予選はCブロックへと進む。
Cブロックにはソラ&リクペアとタオ&ウォーガンペアが出場予定であり、この2つのペアを包囲してB1-2以下4クラスのペアが量で勝負するのは厳しい。
彼等がどのような手に出るか観客席で上級生達が見守る中、審判が開始の合図を告げる。
「Cブロック、始め!」
「タオとウォーガンから潰せ!」
「タオに薬を投げさせちゃ駄目よ!」
「全員突撃!」
「戦いは数だぞ!」
ソラ&リクペアよりもタオ&ウォーガンの方が倒しやすいと判断し、B1-2以下4クラスが合同でタオ&ウォーガンを狙って駆け出した。
ソラとリクからすれば、黙ってみていてもタオとウォーガンの戦力を削ってくれるのだから静観するのが賢い選択だ。
しかし、2人が黙って見ているなんてことはしなかった。
「真剣勝負、邪魔」
「邪魔者、排除」
ソラとリクがタオとウォーガンが行動に移る前にそれ以外のペアをフィールドから叩き落した。
「邪魔者、いない」
「正々堂々、勝負」
「負けませんよ」
「タオ、ガンガン攻撃してくれ。守りは任せろ」
Cブロックは早々にB1-1同士の対決になった。
タオがウォーガンの後ろから薬品の入った瓶を投げる。
それがソラとリクに届かずその目前で地面に落ちて割れた。
これはタオが非力だからそうなったのではなく、タオがわざとソラ達の前で瓶が割れるようにしたのだ。
割れた瓶から白い煙が発生して風の影響でそれがソラ達の方に向かっていく。
「なんとなく不味い。リク、警戒頼む」
「ソラ、吹き飛ばして。警戒は任せろ」
2人はタオが意図的に瓶を自分達の前方で割ったと判断し、その煙を吸ってはならないと思って行動に出た。
ソラが自分の槍をグルグルと体の前で回して煙を吹き飛ばしたのだ。
この煙は眠り薬でまともに吸い込むと寝てしまう効果がある。
タオの作戦は眠り薬によるソラ達の無力化だったが、それはソラの対処によってあっさりと撃ち破られてしまった。
「そんなことまでできるんですか・・・」
「タオ、どうするんだ? 次の手はないのか?」
「あるけど投げたら跳ね返されそうです」
「跳ね返されたらどうなる?」
「爆発します」
「それは止めてくれ。爆発とあいつらからお前を守るのって大変だから」
タオの爆発する薬品の威力はウォーガンも練習に付き合っていたから理解している。
それを自分が受けて耐えるぐらいならやりようはあるけれど、ソラ達の攻撃を凌ぎながら爆発からタオを守るのはウォーガンも自信がなかった。
結果として、タオは棄権を選択した。
「そこまで! Cブロック勝者、ソラ&リクペア!」
タオが棄権したことで会場からブーイングが起きるかと思いきや、ソラが吹き飛ばした煙が一部観客席の方に飛んで行ってしまった。
そうなれば、薬の効果で最前列に座っている上級生達が寝てしまうまで大して時間はかからない。
タオの薬が強力であることが明らかになり、ブーイングが起きることはなく拍手でCブロックの予選は終わった。
最後のDブロックだが、展開はAブロックやBブロックと同じでヨーキ&ロックペアを包囲しようとした他4つのペアが包囲を簡単に崩されてそのまま各個撃破となった。
午前の予選は教師達の想定していたタイムテーブルよりも明らかに早く終わってしまったが、それは仕方のないことだろう。
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