第65話 これがシルバ君です
シルバはソッドの後に続いて第一訓練室の中に入った。
ソッドは訓練用の刃引きされた剣を握っており、シルバはいつも通り何も武器を手にしていない。
「聞いた話ではレッドを含むモンスターを10体以上ソロで倒したんだって?」
「まさかあんなにモンスターが出て来るとは思いませんでしたよ」
「そうかい? ロウの話じゃ自分とアル君がいなくてもシルバ君だけでなんとかなりそうだったって聞いたけど?」
ソッドの言葉を聞いてシルバは通路にいるロウにジト目を向ける。
ロウはシルバと目を合わせないように別の方向を向いて鳴らない口笛を吹いた。
「買い被り過ぎですよ。俺は自分にできることをしたまでです」
「ふむ。まあそういうことにしておこう。さて、楽しい楽しい模擬戦の時間だ。どこからでもかかって来て良いよ」
「参ります」
シルバはソッドと何度か模擬戦をしている。
シルバの使う【村雨流格闘術】は珍しいが慣れてしまえば実力者なら防げるだろう。
そうであるならば、今回は今までとは違う立ち上がりでもしてみようとシルバは移動方法を変えた。
ただ走って距離を詰めたり攻撃しながら距離を詰めるのではなく、ソッドの呼吸と自分の呼吸のタイミングを合わせて意識の隙を突いて接近する。
「弐式雷の型:雷剃!」
「なっ!?」
油断していたつもりはなかったが、それでも不意を突かれてしまったソッドは驚いた。
もっとも、驚いても剣に雷を付与してシルバの斬撃を完全に防いでみせるのだが。
シルバもシルバで最初の一撃だけでソッドを倒せると思っていなかったため、攻撃してすぐにソッドの呼吸に合わせて動きつつ次のチャンスを窺っている。
タネを見切れない今、防御に回っていては同じことを繰り返すだけだと判断してソッドが攻撃を仕掛ける。
「今度はこっちの番だ」
そう言ってソッドは雷を帯びた斬撃を連続して放つ。
シルバはソッドの呼吸に合わせて動いていたことにより、ソッドがどこを狙って攻撃しているのかを素早く見切ることができた。
どこに攻撃されるかわかればシルバにとって避けるのは大して難しくない。
シルバが余裕をもってソッドの連撃を躱すものだから、通路から見ていたキマイラ小隊の3人は目を見開いた。
「小隊長の攻撃をここまで綺麗に躱しますか」
「やるじゃねえか」
「すごいねー」
「これがシルバ君です」
3人の反応を見てアルはとても誇らしげに言った。
「シルバ君が強いとは聞いてましたけど、本当にソッドさんと渡り合えるんですね。ロウよりも強いんじゃないですか?」
「お、俺は正面から戦うタイプじゃないんだよ」
エイルの素朴な疑問にロウは痛い所を突かれたので返答に詰まった。
通路で見ていたアル達の感想は戦闘に集中しているシルバには聞こえていない。
ソッドの呼吸の隙を見つけてシルバは次の攻撃を仕掛ける。
「弐式光の型:光之太刀!」
右手を大太刀を形成した光が覆って抜刀術の要領で振り抜く。
「良い! 実に良い!」
ソッドは若干反応が遅れたけれど、シルバの攻撃を嬉しそうに弾いてみせた。
「壱式氷の型:砕氷拳!」
相手との距離が近い状態で前方の広範囲に向けた技を発動すれば、体捌きだけで全てを避け切るのは難しい。
だからこそ、ソッドは雷の壁を自身の正面に展開してシルバの攻撃を防いだ。
「壱式雷の型:紫電拳!」
シルバは壁を壊すつもりで紫電を纏わせた拳を正面に突き出す。
「ここだ!」
その瞬間を狙ってソッドが壁の左側から飛び出して剣を素早く突き出すのを繰り返す。
「參式光の型:仏光陣!」
技名を唱えた直後、シルバの手の動きに応じて背後に大仏の幻覚が現れた。
ソッドがこの技を警戒して自分の攻撃をキャンセルして後ろに跳んだため、シルバは怯んだソッドに攻撃を仕掛けられず、再びソッドに呼吸を合わせた。
通路で観戦していたエレンは指折り数えて驚いた。
「シルバ君は3つも属性に適性があるんですね」
「シルバ君はまだまだこれからですよ」
エレンに驚くのはまだ早いとアルがドヤ顔で言った。
ソッドは益々楽しくなっており、気分が乗っていることで彼の動きは更に良くなった。
「ギアを上げるぞ!」
緩急をつけたステップでシルバの周りを回って隙を狙い、少しでも攻撃できそうなら雷を纏わせた剣でシルバに斬りかかる。
「參式雷の型:雷反射!」
シルバの技によってソッドは迂闊にシルバに近づけなくなった。
ソッドは近づけないならば近づけないなりに対応すれば良いと動作を切り替え、雷を帯びた斬撃を飛ばしては移動するのを繰り返した。
「弐式光の型:光之太刀!」
シルバは右手に大太刀を形成した光を覆った後、回転斬りの要領で全ての斬撃を弾き返した。
「これも防ぐか! それならこれだ!」
次の攻撃をどうするか決めたソッドは剣に付与した雷の面積を広げ、両手剣を雷の大剣のように変えた。
そして、呼吸を整えてからそれを振り下ろす。
「せいっ!」
「肆式雷の型:
シルバは両手に雷を帯びさせると、ソッドの振り下ろした雷の大剣を高速かつ連続で殴り続けた。
それにより、ソッドの剣から雷を塵のように散らすだけでなく、その衝撃波でソッドを後退させた。
「新技か! 凄まじいね!」
「驚いてもらえて何よりです」
ソッドとシルバが笑みを浮かべながら言葉を交わす一方、ロウはシルバの荒々しい攻撃に顔を引き攣らせていた。
「何あれ? まともに喰らったら立ち上がれる自信ないんだけど」
「ロウ先輩、あの攻撃を受ける前提なんですか? ドMですね」
「いや、俺は虐められたい訳じゃないんだ。避け切れる自信がないからそう言っただけなんだ」
「僕だったら壁を自分の正面に大量に用意して逃げますね」
「くっ、魔法系スキルが使えるのが羨ましい!」
ロウはソッドとは違って<
それどころか魔法系スキルも会得していないのでそれが使えるアルを羨ましく思った。
「小隊長と互角に戦える人材を軍学校で遊ばせておくのは勿体ないですね」
「それな。あいつならすぐにでも実戦に投入できるんじゃね?」
「私もそー思うよー」
キマイラ小隊のメンバー3人は自分達の小隊長の強さをよく理解している。
それゆえ、ソッドと互角に戦える学生を軍学校で他の学生と一緒に育てるのは時間の無駄なように感じたのだ。
ソッドはもっとシルバと戦いたかったけれど、模擬戦だけに時間を使っていたら見学ではなくただの観戦になってしまうと判断して剣を鞘にしまった。
「シルバ君、名残惜しいけどここまでにしよう。見学すべきことはまだまだあるからね」
「わかりました。お手合わせいただきありがとうございました」
「いやいや、こちらの方こそ貴重な時間を過ごせたよ。ありがとう」
シルバもソッドも自分と同じぐらいの模擬戦相手がいれば力を高め合えると思って互いに感謝した。
ソッドの後に続いて第一訓練室からシルバが出て来ると、エレンが真っ先にシルバに話しかける。
「シルバ君、貴方はすぐにでも軍学校を卒業すべきです。小隊長と渡り合える力を遊ばせておくのは勿体ないです」
「戦闘面でそのような評価を頂けて嬉しく思いますが、俺はまだまだ学びたいことが多いのでそれはできません」
「学びたいことですか? 一体何を学びたいのです?」
「興味があるのは調合と
「それはまた興味の幅が広いですね」
シルバの言い分を聞いてエレンは驚いた。
戦闘コースの学生は強くなることばかり意識する者が多いため、シルバが口にした内容を学びたいと申し出る者は極めて少ないのだ。
アルはシルバを引き抜かれては困るとフォローのつもりで口を開く。
「僕とシルバ君は会長の妹で調合研究クラブ長のクレア=オファニムさんから調合を教わってます。現時点で4級ポーションまで作れるようになったので、今度3級ポーションの調合について教わる予定なんです」
「興味があるだけでなく実際に調合できるのですね。ふむ、益々早く軍に来てほしい物です」
エレンの言葉を聞いてアルはしまったという表情になった。
それと同時にどうしようと困った顔で自分を見て来るので、シルバはエレンにはっきりと自分の意見を伝える。
「繰り返しになりますが、俺は在学期間にできることを増やしてから軍に行きたいと考えてますので今すぐ卒業とか飛び級は考えられません」
「・・・そうですか。残念です」
エレンは本当に残念そうに言った。
まだ諦めた訳ではないけれど、ここでシルバの機嫌を損ねてその可能性を潰したくないので彼女はひとまず引き下がることにした。
ロウはやはりシルバが注目されたかと額に手をやった。
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