第159話 敬虔な信者たる私がどうしてそれを偽れるでしょう?

 何度か盗賊団を討伐したシルバ達だったが、やって来るのは無名かほんの少し名の知られた盗賊ばかりだった。


「歯応えのない奴等ばっかりだな」


「そう言いますけど既に6つも盗賊団を潰してますよ?」


「エイルさん、この程度なら被害額はたかが知れてます。ロウ先輩じゃないですけど、もう少し大きい盗賊団を潰さないと成果としてはいまいちです」


「まあまあ。国民にとっちゃ盗賊なんて等しく危険なんだから漏れなく潰そうぜ」


 ロウとアリエルは物足りなさそうであり、エイルはこんなに盗賊団が集まっていることに驚いていた。


 シルバは物足りないとは思っていないが、帝国内をスッキリさせるには大きい盗賊団を潰したいとは思っている。


 それと同時に盗賊には大きいも小さいもないから、きっちり倒さねばならないとも思っていた。


 今までレイは粛々とシルバの指示に従って盗賊を倒していたが、何かの気配を感じ取ってピクッと反応した。


「キュ?」


「レイ、強い奴でも来た?」


「キュウ」


 シルバの質問にレイはその通りだと頷いた。


 レイのその反応は要注意だから、シルバ達は警戒度合いを強めた。


 それから10秒も経たない内に複数の足音がシルバ達の耳に届いた。


 その足音は慌ただしく走るものではなく、落ち着いているように聞こえた。


 今までにシルバ達と遭遇した盗賊団はいずれも走っていたが、足音が近づいて来る盗賊団達は歩いている。


「取りに行かせた盗賊団が1つも戻って来ないのは不自然ですね」


「倉庫に向かう道中で何かあった訳でもないところからして、トラブルは倉庫で起きたのでしょう」


「何があっても呪いの武器だけは回収しますよ。あれはディオニシウス帝国軍に渡してはなりません」


 倉庫の入口からレイが反応した盗賊団の姿が見えた瞬間、シルバは先手を打った。


「肆式:疾風怒濤」


「がっ!?」


「ぬぁっ!?」


「ぐは!?」


 シルバが放った面で捉える乱打により、先頭にいた者達が殴り飛ばされた。


 ところが、その後ろを歩いていた者達は巻き込まれることなく躱してみせた。


 この動きだけで目の前の盗賊団は今までの盗賊団とは別物だと判断できる。


「帝国軍が既にこの倉庫まで来てたとは驚きました。それと、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュを持っても無事でいられる者がいたことも驚きです」


 盗賊団の中で一番偉そうな者がシルバがベルトに工夫してぶら下げた2つの武器を見てそう言えば、シルバは手配者で見覚えがあったので口を開く。


「俺も驚いたよ。本当にウェハヤ盗賊団がカヘーテ渓谷にいたなんてな」


「帝国軍の悪い癖です。少しでも探すのに支障があれば見回りを後回しにするのはね。おかげでゆったりできましたよ、最年少で力天使級ヴァーチャーになったシルバさん」


 シルバ達の目の前に現れたのはウェハヤ盗賊団であり、シルバと言葉を交わしているのはその団長であるウェハヤだ。


 丁寧な口調と小綺麗な服は盗賊らしさを感じさせない。


 バットは偶然祈りを捧げているところを目撃してしまったと言ったが、シルバはその証言に納得できた。


「そうか。戻ったら進言しておくよ。ウェハヤが実はトスハリ教国から送り込まれた密偵だって報告のついでにな」


「ほう」


 シルバが揺さ振りをかけた直後、糸目で微笑んでいたウェハヤの表情がガラリと変わった。


 目はしっかりと見開き、微笑は好戦的な笑みになったのだ。


「どうした? 反論しないのか?」


「敬虔な信者たる私がどうしてそれを偽れるでしょう? 皆さん、この知り過ぎた哀れな仔羊達を生贄に捧げるのです。そして、呪われた武器を回収しなさい!」


「「「・・・「「イェッサー!」」・・・」」」


 ウェハヤが指示を出した直後、全団員が敬礼してからシルバ達に襲いかかった。


 今までは盗賊ムーブしていた全団員が軍人のようにキビキビと動き始めたため、シルバ達はウェハヤ盗賊団がトスハリ教国の密偵と判断した。


「レイ、エイルさんを守れ! エイルさん、撮影お願いします!」


「キュイ!」


「わかりました!」


「アリエルとロウ先輩は各個撃破でお願いします!」


「「了解!」」


 エイルはマジフォンのカメラでウェハヤ盗賊団の戦いぶりをカメラで撮影し、レイはその護衛を行う。


 レイは着々と強くなっているため、ちょっとやそっとじゃ傷一つつけられないぐらいである。


 アリエルとロウは自由に戦えれば下手を打つこともないから、ウェハヤ盗賊団の団員を倒せと言われて早々に近くにいる敵から倒していった。


「君に私の相手が務まりますかね?」


「務まらなきゃ袋叩きにしてるさ」


「良いでしょう。神の御許に送って差し上げます!」


 ウェハヤは双剣を構えてシルバとの距離を詰める。


『シルバ、アタシ達を使うのよっ』


『同意。双剣、格の違い、見せる』


 (その方がウェハヤに対する挑発になるか。無理のない範囲でやってみよう)


 シルバは両手それぞれに熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュを握り、ウェハヤの攻撃を受け流した。


「ほう、肉弾戦だけで戦うと報告にありましたが、ジャマダハルも難なく使いこなすようですね」


「そうだな。お遊び程度でもお前程度ならどうにでもなりそうだ」


「・・・良いでしょう。剣の錆にしてやります!」


 ウェハヤは自身の実力に自信があったけれど、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュを手に入れたばかりのシルバに攻撃を受け流されてプライドを傷つけられた。


 それゆえ、ウェハヤは本気でシルバを殺す気になった。


 シルバには聞きたいことがあったため、余裕があれば生け捕りにしようなんて思っていたが、その余裕はないとウェハヤが判断したのだ。


 双剣を巧みに操った回転乱舞を放ってみたが、シルバはそれを涼しい顔で全て捌いてみせる。


『良いのよっ。その調子なのよっ』


『上々。感激』


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュはシルバが自分達を見事に使いこなしているため、素晴らしいと褒めている。


 適性があるどころかすぐに使いこなしてくれたので、シルバに対する好感度の上昇が天井知らずである。


「チッ、なかなかやりますね。私の回転剣舞を無傷で裁きますか」


「舌打ちなんて教国出身の軍人は品性がないな。新兵からやり直したらどうだ?」


「盗賊生活で気持ちが弛みましたか、ね!」


 片方の剣を素早く振り下ろしシルバに渇尖拳ザリチュでガードさせると、ウェハヤはもう片方の剣を先に振り下ろした剣の上に振り下ろした。


 (剣を使いながらやれるか?)


 シルバはとっさの思いつきで【村雨流格闘術】をジャマダハルでの戦闘に盛り込んでみることにした。


「參式雷の型:雷反射」


 ウェハヤが振り下ろすタイミングに合わせてシルバが技を発動すれば、渇尖拳ザリチュを伝ってウェハヤの体に雷が走る。


 その隙にシルバが熱尖拳タルウィでウェハヤの服を斬れば、斬った場所から発火してウェハヤが苦虫を嚙み潰したようになった。


「おのれ!」


「その技は既に見切った」


「なっ!?」


 ウェハヤが回転剣舞を放つけれど、シルバはそれを見切っており真似してみせた。


 自身が使う回転剣舞だからこそ、シルバの真似が完璧であるとわかってしまう。


 ウェハヤが動揺してしまうのも無理もない。


 力んで最後の一撃を放つウェハヤだったが、シルバはウェハヤの回転剣舞にアレンジを加える。


「參式雷の型:雷反射」


 頭に血が上ったウェハヤは自分が先程引っかかった手に再び引っかかる痛恨のミスをしてしまった。


「隙あり」


 シルバは素早くウェハヤの体を両手のジャマダハルで攻撃し、ウェハヤに火傷と渇きを与えた。


 呪いの武器は使える者が限られるけれど、使える者にとってはとても有用な武器だ。


 体が十全に動かせなくなってしまえば、その後はシルバのワンサイドゲームになる。


 火傷3:渇き7の割合でどんどん追い詰められ、隙だらけになったところでシルバに首トンされればウェハヤは気を失ってその場に倒れてしまった。


『アタシ達の勝利なのよっ』


『勝った』


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュはシルバが自分達を使ってウェハヤを倒したことに得意気だった。


 もしも擬人化できたとすれば、両方ともドヤ顔を披露していたことだろう。


 2つの剣をベルトに引っ掛けた後、シルバはウェハヤの身包みを剥いでから手足を縄できつく縛り、舌を噛んで死なないように布を噛ませるようにした。


 そこまでしてから周りを見てみると、アリエル達もウェハヤ盗賊団を掃討し終えたようだった。


 シルバ達はまた大きな手柄を立ててしまったらしい。

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