359

 文化祭、コスプレカフェに向けての作業が始まった。

 もちろん男たちも騎士や勇者といった装いをする。当然、俺はそれぞれの特性に合わせて口を出す。


「どうだ、この勇者の剣! いいだろアレン!」

「確かに似合って――」

「おいササミ、お前は上半身裸でいい」

「え、な、なんでだ!? 普段と違うのがいいっていってただろ!?」

「お約束もあるんだ。考えろ。――アレン、お前は剣を持ってろ」

「え? わ、わかった」


 ったく、外していいところとダメな所も分からない奴らめ。


 教室の机は取っ払って、手作りで装飾品を作っていた。

 これだけ見ると、何らただの学生と変わりない。


 いや、違うな。


 ただの学生か。俺が、特別に捉えすぎている。こいつらにとっては、これが普通だ。

 下級生のときと違って仲の良い男女もいる。


 この行事は俺にとっては通過点。

 けど、こいつらにとっては大事なことか。


 ……ったく。


「ルナ」

「は、はい!?」


 すると、カーテンの近くで突っ立ってる小柄な黒髪がいた。

 シンティアとリリスとは随分打ち解けているみたいだが、まだまだ他の奴らとは距離がある。


 彼女のおかげでココの出し抜けたのだ。もっと胸を張ってほしいが、性格ってのはそう簡単に変わらないだろう。


 ちなみにコスプレは俺の独断と偏見で、シスターとなった。

 奥ゆかしさだが、中身は――。


「ハァハァ、ヴァイスくんか、かわいい……」


 変態だからだ。まあこの辺りも鉄板だろう。

 ちなみに俺は今、シンティアの要望で猫耳をつけられていた。

 これは仮だが、ギャップが良いそうだ。


 よくわからない。俺は元からカワイイはずだ。


 っと、それより――。


「カルタ、セシル」

「どうしたの?」

「はい?」

「ルナに仕事を割り振ってあげてくれ。今回は照明にこだわるつもりだ。彼女の黒球を使ってな。それも計算にいれてほしい」

「え!? 黒球を!?」

「教室の中だけだ。手作りしてもいいんだが、できればお願いしたい。いいか?」

「……もちろん。わかりました」


 こくんと頷くルナ。

 彼女とはまだまだ話したいことが山ほどあるな。

 

 二人なら任せられるだろう。


 シンティアとリリスは先導して教室の改造案を練っていた。オリンはやっぱり女装になる。本人はなんで? という顔をしていた。


 それぞれが順調だ。通常の授業もあるので、放課後はこの光景が続くだろう。


 教室を出て、深呼吸する。


 俺には向きわなければならない課題がある。


 コスプレカフェを一位にする為に、確実に必要なものだ。



 ……これほど恐ろしい言葉があるだろうか。


 だが、これは目玉だ。

 成功すれば勝利は確信したといってもいいだろう。


 ノブレスには、当然だが職員室がある。

 といっても、教員たちのやることは通常の授業だけではなく、闘技場の整備、特殊な魔法試験の準備、性能のテストがある。


 よって、闘技場で何かの魔法テストをしていることはめずらしくない。


 俺は、観察眼ダークアイでミルク先生の居場所を確認し、地下へ向かった。



 ミルク先生は、地下で魔法を人形に放っていた。

 炎と水が混ざることなく手から放たれ、渦を描きながら対象に向かっていく。


 それは、衝撃と共に爆発する。

 

 凄いな……。


 これは水蒸気爆発だ。詳しい科学まで理解していなくても、本質的にわかっている。

 このセンスが、ミルク先生が最強と呼ばれるゆえんだ。


 俺は先生と引き分けた。だがそれは、あくまでも祠への意識を割かせた上で、短期決戦での勝負だった。

 いつか本気の勝負がしたい。 

 それは、きっと先生も思ってくれているはずだ。


「何か用か、ヴァイス」


 気配を消していたはずの俺に気づいていたらしい。

 このあたりもさすがだ。

 そして俺の心臓は震えていた。

 多分、いつもの五倍、いや、十倍だ。


「ここここ、こんにちは」

「どうした? 震えてないか?」

「……気のせいかと」


 落ち着け。俺は何度も死線を乗り越えてきた。

 俺なやられる。


 ――なあそうだろ。ヴァイス。お前ならやれるだろ?


 なあ、答えろよ。


「何を隠してるんだ?」


 俺は、後ろに持っていたものがある。それにまで気づいていたのだろう。

 ふたたび深呼吸、そして――さっと取り出す。


 コスプレカフェを確実な勝利にするためには、目玉が必要だ。


 どれも最高。だが、あれが最高だった、と言わせるのが一番いい。


 ――そう、それは――。


「ミルク先生、学園祭で、このドレスを着てもらえませんか?」


 俺は、ピンク色の鮮やかなドレスを見せた。

 これは、王家御用達の素晴らしいものだ。

 ファンセント家のコネを使って手に入れた、由緒正しきものでもある。


 いつもは男勝りなミルク先生が、ドレスで現れる。


 こんなの、ノブレス魔法学園の連中なら喉から手が出るほど見たいはずだ。

 いや、例え生涯魔法が使えなくてもいい、と思う奴も出るかもしれない。


 だが、簡単に了承するわけがない。


 だからこそ何か勝負を仕掛ける。


 そして、必ず――。


「別に構わないぞ」

「……え? い、いいんですか?」

「行事ごとに参加するのは教員の務めだからな」


 そ、そうか! ミルク先生はこうみえてプロだ。

 なるほど、さすがだ。


 これは勝利間違いない。

 間違いないぞ。


 すると、その後ろで俺はみた。


 エヴァが、メイド服みたいなものを手に持っていることに。


 そして、微笑んできた。


 その後ろでは、エレノア、シエラ、そしてプリシラもメイド服を手にしている。


 そ、そんな……バナナ。まさか、メイドカフェをするのか?


 こんなの原作にはない。

 そうか、俺が改変したのか。


 このままでは負ける――いや、まだあきらめるな

 何か、何か手は――。


「ミルク先生、前半と後半で衣装を替えもいいですか?」

「いいだろう」


 よし、絶対に勝ってやる。


  一位を取ってやる。



 しかし、エヴァのメイド服……か。


 

 途中で抜け出しありだったか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る