066 試験終了
「デビ?」
「……とりあえず静かにしとけよ」
こいつが役に立つかどうかは後回しだ。
すぐに外に出たが、洞窟のそばで光ったものが見える。
なぜ気づかなかったのか、いや、あれだけ急いでいたので気づけるわけがないか。
しゃがみ込むと、大量のリングがでてきた。
その数なんと20個だ。
ここは山の頂上付近、俺は
この場所に来るには相当な偶然、もしくは俺たちのように空を飛べるやつだけだ。
さすがのカルタも飛行魔法なんて目立つようなことはしないだろう。
……このリング置いたのは……消去法でミルク先生か。
リングをばら撒くのが面倒になってまとめたのが目に浮かぶようだ。
「わ、すごいね、おめでとう!」
そしてリングを見つけた俺に、オリンは嬉しそうに笑顔を向けやがった。
ったく、こいつの頭には欲なんてないのか?
「……半分はお前のだ」
「え、ええ!? なんで!? いいの!?」
「当たり前だろ」
いくら俺でも人の手柄まで奪う気はない。
デーモンを使役できたのはこいつのおかげだ。
そして俺はリングを手渡す。試験の残り時間もあとわずかだろう。
しかしオリンは、なぜかリングをジッと眺めていた。
「何みてんだ?」
「……これだけあれば、誰かに分け与えることができるかなって……。だって、退学になる人がいるかもしれないでしょ?」
はっ……バカだ。
如何にもこいつらしい考え方だが。
「そうだとして、なぜお前がそこまでする必要がある? みんなに好かれたいのか?」
「……違う。ボクが特待生になれたのも、ここまでこれたのも、時間があったからなんだ。だから、みんなも時間があれば強くなれると思うから」
はっ、いかにもオリンらしい返しだ。
まあどう使おうかオリンの勝手だ。
俺が口を出す権利はない。
「勝手にしろ」
「……ねえ、ヴァイス君、お願いがあるんだけど」
「あ?」
「使役を教えたあげたお礼に……さ?」
「あ?」
「セシルさんに……さ?」
「ああ?」
そして――。
「はい、どうぞー。一個だけね」
「やったあああ! オリン、マジでありがとう!」
「はい、次の人ー」
「いっしゃああ、助かった……」
洞窟の前、オリンはバカみてえな笑顔で、ポイントが少なく、退学になるかもしれない奴らにリングを手渡していた。
バカすぎる。無意味すぎる行為だ。
しかも俺に、セシルを探してほしいと頼みやがった。
こいつ、こいうときはずけずけとお願いしてくるな。
「突然現れたら、
「……オリンには借りがあってな」
ま、ここで貸しを作っておくのは悪くない。
デーモンの扱いを知るにはオリンが必要だ。
今後のことを考えれば、安い買い物だと判断した。
「それで、その……魔物なに?」
「デビ?」
「……デーモンだ」
「デーモン?」
セシルが指でつんつんすると、デーモンはなぜか嬉しそうだった。
こいつが男か女か知らないが、愛想はいいらしい。
「ねえ、ヴァイス君どう?」
「……こいつもゼロだ」
「ありがとう!」
そしてオリンは、俺をウソ発見器に使いやがる。
リングには魔力が付与している。
……このお人よしが。
今は笑顔振りまいてるが、帰ったら俺が死ぬほど呼び出してやるからな、覚悟しとけよ。
「はい、これで最後だね」
「オリン、マジありがとう!」
だが最後までリリスは現れなかった。
彼女は満足に動けないはず。とはいえプライトは人一倍高い。
そして――。
『制限時間、5、4、3――』
魔法鳥のアナウンスが流れる。
結果だけみれば俺は間違いなくトップ。今期も首位は確実だろう。
だがさすがに俺も疲れた。
「え、えええええええええええ!?」
その時、オリンが叫ぶ。
見てみると、手元にあったはずの大量のリングが、一つもない。
このバカもしかして――。
「お前もしかして全部あげたのか?」
「……そうみたい……」
『2、1、0――。リングは自動収集しています。時間を過ぎてからの取得はカウントされません。中庭に集合お願いします』
そして、魔法鳥のアナウンスが終わりを告げた。
……バカが。
▽
「いやー、マジできつかったな。服がボロボロになっちまったぜ」
「今までで一番過酷だったかも……疲れた……」
「あらそう? 私は楽だったわ」
中庭に移動すると、ゾロゾロと下級生たちがやってくる。
アレン、デュークは苦戦したらしく、リングが五つ。
驚いたことにシャリーは十つ。
といっても、魔法罠は魔物と相性がいい。精霊の力を借りればどんな属性の魔力リングもわかっただろう。
もしかしたら、俺の知らない古代魔法具の可能性もあるが。
「ヴァイス、どうでしたか?」
シンティアも五つ。さすがだな。
「ああ、まあまあだな」
「デビビビ?」
「……この魔物は?」
「後で説明する」
全員に聞かれるのはちと面倒だな。
つか……こいつ、俺の隣にずっといるんじゃねえだろうな?
「何だあの悪魔……ちょっとかわいくない?」
「しっ、ヴァイスに殺されるぞ」
「でもすげえ魔力感じないか?」
そしてその場にリリスの姿はなかった。
まさか――。
「……遅れました」
そのとき、ゆっくりと森から現れたのは、リリスだった。その手にはリングが一つ。
よろめきながら今にも倒れそうだ。シンティアが駆け寄り、回復魔法を唱える。
……さすがだな。
「リリス、よくやった」
「えへへ、褒められるのは嬉しいですね。――次は、負けませんよ」
セシルの問いかけに応えなかったのは、俺と対等でいたかったからだろう。
リリスは常に俺のそばにいる。何かあったとき、一番危険なのは彼女とシンティアだ。だからこそ俺は厳しくしていた。
彼女が退学になってもいいと思えたのは、ある意味、危険な目に合わせたくないという気持ちからだ。ファンセント家の屋敷に戻れば、リリスが危険な目に合うことはグッと減る。
それなのに俺の都合で、危険な未来を共にしていいのかと。
だがリリスはちゃんとわかっている。
それでも、俺のそばにいたいと思ってくれている。
これで……よかったんだな。
「それにしてもヴァイス様、強すぎですよ。私、結構頑張ったんですからね」
「ああ、わかってる」
「ふふふ、私も見たかったわ」
シンティアは俺たちの会話ですぐに察したらしく、怒るわけでもなく微笑んだ。
俺とリリスは真剣勝負をした。結果がどうであれ、遺恨なんてない。
その気持ちは、ちゃんと二人にも通じている。
本当にいいい奴らだ。
そしてミルク先生が前に出る。
「よくやったお前ら。ポイントの詳しい集計は後日だ。夕食を用意している。明日は昼まで寝ていいぞ」
鞭が終わればご褒美だ。このあたりはノブレスの良いところだな。
「やったああああああ」
「最高だあああ」
「俺はもう寝たい……」
実際このシステムは本当に強い。
あのミルク先生が天使に見えてしまうからな。
そして――。
「驚いたことにリングゼロはゼロ人、そして退学者もゼロだ。想定ではもっと出ると思っていたが、よくやったな」
するとミルク先生が振り返りざまに俺を見た。
悪魔の姿を確認しても驚かない所をみると、もしかして……戦ったのか?
だがそうなると結界から出られないはずだ。
俺の知らない脱出方法があるのか?
……気になるな。
「ふう、疲れたああ」
俺の後ろでオリンが、ほっと胸を撫で下ろす。
カウントダウンが終わる時――。
『オリンっ!』
『え!?』
俺は、リングを一つだけ投げ渡した。
『ヴァイス君……』
『バカが。ったく、お人よしもたいがいにしろよ』
どれだけポイントを失うのかは知らないが、
オリンは特待生に上がったばかりでそこまで多くない。退学の可能性はかなり高かっただろう。
だがそうなると俺が困る。
将来、魔王との闘いを見据えてな。
だが本当にこれっきりだ。
後はもう何があっても助けない。
俺にこれだけの仕事をさせたのは、後にも先にもこいつだけになるだろう。
この貸しは死ぬほどデカいぞ。
「オリン、お前のリングがゼロなら退学だったぞ」
「え、ええ!? 良かった……」
そしてミルク先生が、そのタイミングで心を見透かしているかのように言った。
……あぶねえ。
「えへへ、ヴァイス君、ぶいっ」
「…………」
オリンは屈託のない笑みを浮かべて、俺にぴーす。
やっぱり助けたのは失敗か?
そのとき、シンティアが急いで俺たちの間に入る。
どうやらリリスもある程度回復したらしい。
「さて、行きましょう。夕食を食べましょうね、ヴァイス。よそ見してはいけませんよ、ヴァイス」
「あ、ああ」
「ヴァイス様……その……私との闘いはどうでした?」
「強かった。てか、いつあんな技を覚えたんだ?」
「幼い頃ですよ。えへへ」
「……はい?」
明日はチュコの街を見学だ。
修学旅行といっても、下級生の場合は一泊二日しかない。
短いと思っていたが、内容が濃すぎるな……。
「そういえばヴァイス様、その魔物はどうしたんですか? お顔の横をパタパタ飛んでますけど」
「……また説明する」
飯を食ったら昼まで豪快に寝よう。
今回ばかりは、俺も怠惰を貪りてェ。
「デビビビ?」
おい……こいつも寝るよな?
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