065 オリン・パステル

 

「オリン、あなたは本当に可愛い子ねえ」


 幼い頃から、ボク・・は女の子として見られることが多かった。

 お母さんとお父さんは、男の子ボクじゃなく、女の子が良かったらしい。


 だからいつもお出かけする時は髪を括ったり、三つ編みをしたり、髪の毛を切ることは許されなかった。


 家は結構お金持ちで、何不自由なく暮らすことができた。


 けれどもボクは本当の意味で自由を感じられていなかった


 両親は、ボクが可愛いと呼ばれることが嬉しかったらしく、そのたびに笑顔だった。


 でも、ボクは男の子だ。もっと、男らしいことがしたい。


 ずっと、そう思っていた。


 家は辺境の屋敷で、貴族だということもあってあまり王都に出向いたりはできなかった。

 座学は嫌いじゃないけれど、ずっとジッとしているのは好きじゃない。


 だから時々、ダメだと言われている森で、魔物・・と戯れていた。


「えへへ、よしよし」


 魔物はすべからず悪なんて言われているけれど、そうじゃない。

 もちろん本質は人間に危害を加えようとするけれど、それは本性じゃない。


 心を通わせることで、お友達・・・になれる。


 これが使役だとわかったのは、随分と後の魔法訓練だった。



「オリンちゃん・・・っ今日も可愛いでちゅね」

「ぎゃっはは、ウケる」


 女の子らしいというのは、いじめの対象になることが多かった。

 少しでも男らしくしようと一人称を俺にしてみたりしたけれど、お母さんに汚い言葉遣いはダメだと言われた。


 でも、私とはいえなくて、僕はいずれ、ボクになった。


「ノブレス魔法学園……」


 それからいつの日か忘れたけれど、魔法の先生から学園のことを教えてもらった。

 基本的に貴族のボクは階段式の学校で、何も行動を起こさなければ人生は決まっている。

 

 抗いたい、そんな気持ちで入学テストを受けた。


 試験は大変だった。座学はできるほうだと思っていたけれど、ボクなんより凄い人はいっぱいいた。

 でも、驚いたことに、魔物を使役できる人はボク以外に誰もいなかった。


 魔法の先生がいつも言っていた。「凄い才能だよ」って。


 元気づけてくれるためだけの嘘だと思っていたけれど、本当だったらしい。


 そのおかげで入学テストは合格、念願の、親元を離れての学園生活が始まった。


 初めての人たちとの会話、距離感、ボクはいつもよりも頑張った。

 だけどやっぱり、女の子だって言われてしまう。


 可愛こぶってると言われることが多いけど、ボクはそう思っていない。


 そしてそんなとき、ボクは目が飛び出そうなくらい、男らしい・・・・を見つけた。


 ――ヴァイス・ファンセント。


 下級生首位、悪名高い貴族、彼を知らない人はいない。


 実際この目で見てみたけれど、同級生にまったく容赦がなかった。


 でもそれが本当に……恰好・・・良かったんだ。


 彼と同じクラスになる為には、もっとポイントを稼がなきゃいけない。

 特待生になるのには並大抵の努力じゃダメだ。


 でもボクは――彼に、追いつきたい。


 ある日からボクは学業を終えると、一人で森へ行くことにした。


 以前、サバイバル試験で使われた【亜種だらけの森】だ。


 ヴァイス君とアレン君が竜を討伐した後、更に人が近寄ることはなくなった。

 

 だけどボクにとっては、最適の訓練場所。


 使役はいくつかの手順が必要だ。魔物種の理解はもちろん、術式の構築、魔力操作、それを全て制限時間内に行う。

 失敗すれば、その魔物は二度と使役できない。


 だからこそ、この森はもってこいだ。

 

 100種類はゆうに超える魔物たちが、お腹を空かせているのだから。


「ギガガガガウ?」

「――かかってこい。全員、使役してやる」


 

 何度か命を失いかけたこともある。

 そのたびに、ボクはヴァイス君を思い出していた。


 媚びへつらうこともなく、ただ圧倒的な力で捻じ伏せていく。


 本当に……恰好良かった。


 そしてボクは特待生に上がることができた。


 厄災時の功績が認められたのかもしれない。


 ああ……頑張ってよかった。


 だけど驚いたことに、クロエ先生だけは、ボクのことを知っていたらしい。


「あまり無茶しないようにしてくださいね」

「え、あ、あは、はい……」


 知っていて見逃してくれたのだろう。とてもいい先生だ。


 修学旅行で初めてヴァイス君と話して、更に同室だと分かった時は、なんだか変に緊張しちゃった。

 

 デューク君も、アレン君も、やっぱりボクを見るとちょっと変な挙動しちゃうけれど、普通に接してくれる。

 そして、ボール勝負の時、ヴァイス君に魔力移動のやり方を教えて、最後に『ありがとな、オリン』と、言ってくれた時はすごく嬉しかった。


 ずっと目指していた人から、認められた気分で。


 続くアンデットモンスターの試験、ボクは絶対に一位になってやると誓った。


『いいものを見せてもらったぜ、オリン』


 けれどもやられそうになって、助けに来てくれたのは……ヴァイス君だった。


 使役を褒められたことが嬉しくてたまらなかった。

 

 ボクが無茶をしても、彼は着いてきてくれて、そしてなんと……デーモンを使役した。


 ありえない、このことがどれだけ凄いのか、ボクには凄くよくわかる。


 ああ、ヴァイス君、ボクは、キミのようになりたい。


 女の子だって言われてもいい、それでも、強くなりたい。


 厄災の時、とんでもなく強い魔物には使役ができなかった。


 だけど違う。

 

 ボクはもっと強くなる。


 いずれはあのだって従えさせる。



 ボクの名前は、オリン・パステル。



 世界で一番の召喚者テイマーになる、男だ。

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