230 原作通り
とはいえ対戦を
まさか手を出すとは思わなかった。
「今のは殴る必要があったんですか?」
「ははっ、面白い事を言うね
「前にも言いましたが違います。俺は、品性の話をしているだけです」
「本当にファンセント家の長男、ヴァイスか? 君の事は調べさせてもらった。奴隷は好きだっただろう。品性の話をするなら、君のメイドのリリス・スカーレットの過去をキッチリと清算したほうがいいんじゃないのか。可愛い顔をしているが、彼女のおかげで泣きを見たものは大勢いる。僕が一人一人教えてあげようか?」
的確にネチネチと針をつついてきやがる。
俺がここまで揺さぶれるのは初めてかもしれない。
だが奴が言っているのはどれも過去。
更にヴァイスにいたっては俺であって俺じゃない。
現在で戦えばいい。
しかしこいつの態度はやはり俺を敵視している。
腹の探り合いをする前に、まずは立場を明確にしておく、ということだろう。
そこで、セシルが口を開く。
「ニールさん、私たちは言い合いに来たんじゃありません」
「だろうね。僕も怒ってるわけじゃない。むしろ、聡明な君たちから連絡をしてくれて嬉しいとさえ思っている」
「嬉しい?」
「僕の話はあとでいい。それで、用件は何だ?」
俺とセシルは使えるクズ認定されてるってことか。
ハッ、相変わらず偉そうな奴だ。
そこで話しは本題に入る。
「奴隷についてです。非合法の国での奴隷化を進めている意図を聞きたくてきました」
俺たちの問いかけに、いつも余裕ぶっているニールの表情が少しだけ変化した。
色々と考えた結果、シンプルに直球を投げかけることにしたのだ。
プライドの高い悪が、どう答えるのか。
「……面白いな君たちは」
「どうなんですか? ニール先輩、奴隷の兵隊でも作ろうと思ってるんじゃないんですか?」
「ハハッ」
俺の問いかけに、プリシラから微量な魔力が出る
奴隷紋は主人に対して悪意を感じると身体が反応するという。
そのとき――。
「その通りだよ」
……なんだと?
「僕は戦闘用の奴隷を大勢従え兵士を作ろうとしている。奴隷紋はいい。感情を抑制し、行動を制限し、リスクなく世界を牛耳る事が可能になる。勘違いしないでほしいのは、人を苦しめようと思ってるわけじゃない。有能なものが人の上に立つのは当然のことだ。世の中には、使えないクズが大勢いるからな」
「……つまり、王になりたいと?」
「それに近いだろう。クズが上に立つと誰もが幸せになることはできない。苦汁を舐める者がどうしても存在する。世の中の方向を正しくしたいだけだ。その為の犠牲はどれだけ払っても構わないと考えてる」
その言葉、その物言いは、まさに原作通りだった。
ニールは悪だ。
だがしかし性根のねじ曲がった奴ではない。
ある意味では正義感が突き抜けているとも言える。
よくある創作物での悪は、無意味にその力を誇示したり、更にはご都合主義の為、ただ世界を破滅に追い込もうとする。
だが普通はそんなことをする奴は殆どいない。
悪とは、もう一つの正義なのだ。
以前、俺とアレンが衝突したように、ニールもまた別の視点で物事を見ている。
こいつなりに良い世界を作ろうとしているのだろう。
実際、爵位の元で生まれたおかげで成功している奴はごまんといる。
当然、ニールの言う使えないクズも。
そいつらを失脚させ、ニールが思う優秀な人材をトップに立たせる。
そして理想郷を作る。
その為には壁があるだろう。その為に無敵の兵士を作る。
それが、こいつの完璧なプランってことか。
「君たちだから話した。僕は、本気だよ。エヴァにも賛同してほしいと頼んでいるが、なかなかイエスをもらえなくてね」
ニールの目は、とても純粋だった。
どこかでアレンと似ている。
原作でアレンとニールが対話をすることは殆どない。
だがようやくわかった。
あいつがニールと衝突する本当の理由が。
根本は同じなのだ。
ただ、やり方がまったく違う。
ニールがただの悪なら簡単に叩き潰すだけで話しは終わる。
だがそうじゃない。
こいつは、こいつなりに考えている。
俺が今ここでこいつを討つ理由はないし、たとえそうしても無意味だ。
なぜならまだこいつは、何もしてないのだから。
原作での事が頭によぎる。
次に質問を投げかけたのは、セシルだった。
「……有能なものが上に立つという事を否定するわけではありませんが、歴史上成功したことは殆どありません。更に下を締め付けることになりかねないと思います」
「そんなの承知の上さ。だが僕はやり遂げる。どれだけの犠牲を払ってでも。――想像してみてくれ。旗を振るのは僕じゃなくていい。例えばそうだな、ミルク・アビタス。彼女が王都の実権を握れるほどの側近騎士になったとしよう。世界はどう変わる? セシル・アントワープ、君が発言権を持つ秘書官としてこの世界をよりよくしようとしたら、どう変わる? ヴァイス、君の婚約者であるシンティアが王女になれば、明日ご飯も食べられない子供たちはどう変わる?」
……俺は騙されない。
こいつの言っていることは絵空事だ。
そんな事できるわけがない。例え理想に近づいたとしても、多くが犠牲となる。
それが正当化する理由にはならない。
だが……セシルの顔がほんの少しだけ揺れ動いているのがわかった。
彼女は生来魔力が少なく、それにより苦しい思いをしてきた。
魔力絶対主義の世の中を変えたいと願ったこともあると作中でも書かれていた。
自分ならこうしたいのに、という思いが強くあるのだろう。
だが――。
「そんな夢みたいなことを考えてもしょうがないでしょう。ただのエゴだ。戦闘用の奴隷を多く従えるなんて、人権を無視してる。それだけじゃない。もっと多くの犠牲が出る」
「それくらいわかってる。だがこのままではより多くの人間が苦しむ事は目に見えている。だからこそ、今なんだ。わかるだろ?」
「その過程が今ですか? 満足に後輩とゲームすることも許されないと?」
俺は鋭く言い放つ。
だがその答えは、無情にもプリシラが放った。
「ニール様の悪口は許しません」
恐ろしいほどの魔力。
俺の敵対心を感じ取っているのだろう。
話しはこれで終わりだ。
セシルが最後に言葉を発することはなかった。
◇
「ありがとうございました」
帰りの門の前、プリシラが頭を下げていた。
その所作は丁寧で淀みがない。
馬車に乗り込む際、セシルが声をかける。
「プリシラ先輩、またユニバースをしませんか?」
だがその答えは返ってこず、ただプリシラは黙っていた。
その時、ほんの少しだが手が震えていることに気づく。
……あいつの言っていることは間違ってないかもしれない。
だが俺は納得できない。
それでいい。人は完全にわかりえるわけがない。
「ファンセントくん」
「……なんだ?」
馬車に乗り込んだ後、セシルが声をかけてきた。
正直、なんて答えるのかわからなかった。
だが――。
「ニールさんの考えは間違ってる。プリシラさんも、それをわかってるはず。あんなの許せない」
「……なぜそう思う?」
「ユニバース初めてだっていってたよね。でも、私は違うと思う」
「ああ、でもニールの隣で見ていたんだろう。それなら辻妻が合う」
「それは本当かもしれない。でも、それだけじゃあんなに強くならないよ。それにほんの少しだけど、私と指している時、嬉しそうだった。きっと、私だからこそわかった」
……そうか。
やはりあの震える手は、見間違いじゃない。
俺のやるべきことは決まった。
ニールとの決着の前に、まずはプリシラについて調べ上げる。
作中でも謎が多いまま退場していったキャラクターだ。
原作でもここまで前に出ていなかった。
おそらくこれも改変だろう。
明らかに忠誠心が上がっている。
今はゲームと違って自由に行動することができる。
明確にやることが決まった。
そしてその時、セシルがいつにもなく悲し気だった。
彼女なりに葛藤があるのだろう。
と、思っていたら。
「もう一度……プリシラさんとバトル・ユニバースがしたい。あんなに強いのにもう遊べないなんて、悲しすぎる。――あ、勘違いしないでね!? 私が遊びたいからってわけじゃないからね!?」
頑なに否定するセシルは、どうみても駄々をこねる子供だったのは言うまでもない。
まあある意味、原作通りか。
――――――――――――――――
あとがき。
ニールの正体が徐々にわかってきたところで終了です。
悪、といってもノブレスの悪はバカではありません。
さてどうなるでしょう。ニールは、どう動くのでしょう。
ちなみに明日は5000文字くらいなので、二日続けてボリューム満点でお送ります!
次回は割と衝撃的というか、物語が一気に動きますのでお楽しみに!
カクヨムコンの最終日、文字数も10万文字を突破しました!
どのキャラクターも魅力的に駆けているので是非みてみてください!
【異世界ガイドマップ】5.0★★★★★(57894件) を手に入れたので【クチコミ】を頼りに悠々自適な異世界旅行を満喫します
https://kakuyomu.jp/works/16817330669743197880
また、最終日で以前投稿した【異世界恋愛】の【短編】を投稿させていただきました。
1万文字で完結しており、なろうの上位にも入った作品なので内容には自信があります。
是非見てもらえるとありがたいです。
幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
https://kakuyomu.jp/works/16818023212800219516
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