023 試合終了

『下級生24番、イオーレ・トルス、行動不能、行動不能。ヴァイス・ファンセント、カルタ・ウィオーレにポイントを付与』

『下級生10番、リアン・エマード、行動不能、行動不能。ヴァイス・ファンセント、カルタ・ウィオーレにポイントを付与』

『下級生08番、ミフィス・リグレット、行動不能、行動不能。ヴァイス・ファンセント、カルタ・ウィオーレにポイントを付与』


 初めは順調だったが、流石先輩たち・・・・だ。

 姿を現すことすらなくなっている。


 驚いたのは、アレン、シャリー組が予想以上に先輩を食っている・・・・・こと。


 原作ではすぐにやられてしまうはずだが、シナリオを壊すと面白い事が起きるもんだな。


「カルタ、残り時間は?」

「後、20分くらい。生存ポイントを考えると終わってもいいくらいだけど」


 このデスマッチタッグでは、ポイントを得ても、誰かにやられてしまえばポイントがごっそり取られるシステムだ。

 それもあって、隠れているやつが多くなっている。


「そんなことすると思うか?」

「ふふ、わかってる」


 【観察眼ダークアイ】で探してもいいが、あれは魔力消費が多すぎる。

 今残ってる面子を考えると、温存しておきたい。


「ヴァイスくん、私が空から視るよ・・・

「……じゃあ、甘えようか」


 ふっと微笑んだカルタは、杖に跨って魔力を漲らせる。

 飛行魔法といっても、鳥のように揚力で飛ぶわけじゃない。


 正しくは、重力に逆らう魔力を高低差に応じて放出をし続けるのだ。


 身体が少し傾いただけでも、魔力の操作はすさまじいほど変化する。


 俺がせいぜい空を飛べるのは、数メートルくらい。


 だが、カルタは――。


「行ってきます」


 次の瞬間、高く飛びあがった。


 努力していることは知っているが、それにしても圧倒的な魔法センス。


 空を制する者が戦場を制すというが、この世界においてもそれは同じだ。

 魔法を遠距離に飛ばすのは精度は下がるし威力も落ちる。


 重火器がないこの世界において、空は圧倒的なアドバンテージだ。


 カルタは上空を旋回し、隠れている奴らを視る・・


 俺の【観察眼ダークアイ】は魔力を感じ取っているが、基本的に動きを感知している。

 だが彼女の目は、俺のと違って精度が桁違いだ。


 たとえ対象がジッとしていたとしても魔力を感じ取る。


 山育ちで覚えた特技だと言っていた。まあ、知っていたが。


 そして彼女は誰かを見つけたみたいだが、俺に顔を向けた後、首を振った。

 それから名前を言った。

 声は聞こえないが、口の動きで、誰だかわかった。


 最後に逃げよう、と言っているが、俺はそれを無視して、真っ直ぐに駆けた。


 ――面白い。


 二分ほど高速移動していると目の前に現れたのは、この学園で一番有名な女だ。


 隠れるつもりもないのか、涼しい顔で小鳥と戯れている。

 今やこの森は戦場だ。だが彼女・・はまるで、優雅に散歩しているみたいだった。


「あら、あなたが噂のヴァイス・ファンセントくんね。魔力ですぐわかったわ」


 銀髪のストレートヘア、透けるような乳白色の肌、西洋の人形を思わせる端正な顔つき。

 原作では誰も勝つことのできなかった、最強の学園トップ。


 負けイベントには、相応にして強いキャラクターが存在する。


 それが、彼女だ。


 別名、真のラスボス、公式チーター、原作破壊女、ゲーム史上始まって以来のバグ。


 ゲームプログラマー曰く、流石に”やり過ぎてしまった女神”。


 中級生ながらノブレス学園のポイントを首位で独走、あまりの強さに、原作では自ら学園を辞めるという理不尽な退場を余儀なくさせられたほどだ。


「お会いできて光栄です。――エヴァ・エイブリー先輩」

「うふふ、有名なあなたにそう言ってもらえると嬉しいわ」


 残り時間は10分もない。


 全力だ。


 出し惜しみはしない。


 不可避領域バリア観察眼ダークアイ、【癒しの加護と破壊の衝動】――。


 ――――

 ――

 ―


『試合終了、試合終了』


 時間が飛んだ感覚だった。


 一瞬のように感じた。


 はっ、ははっ、はははっ、おもしろい、おもしろい、おもしろい。


「なかなかやるじゃない。まさか魔法・・を使わせられるとは思わなかったわ」

「……よく言いますよ。手加減してたくせに」

「だってフェアじゃないでしょ? あなたは大勢と戦ってきた後なんだし」

「そうですか、じゃあ次は本気でやりましょう」

「ふふふ、そこまで上がって・・・・きたらね」


 その時、カルタが上空から降りてきた。

 おそるおそる近づいた後、エヴァを見ながらビクビクしている。


「ヴァイスくん……大丈夫?」

「ああ、俺はな・・・


 視線を外に向けると、木々が倒れて、地面が抉れている。

 至ところから炎が上がっていた。


「……私ね、この学園に飽きてたの。もうやめようかなって。でも――気が変わった。もう少しいることにするわ。あなたのこと気に入った。――ヴァイスくん、またね」


 そう言い残し、エヴァ・エイブリーは、颯爽と去っていく。


 いくら疲れていたとはいえ、俺は全力だった。

 それでも、俺の刃は彼女に届かなかった。


 ……おもしろい。


 俺はとんでもない改変をした。彼女はこの試験の後、学園を辞めるはずだった。


 だが、これでいい。


 まだまだやれる。俺はまだ、上を目指せる。

 

 その時――。


『最終時間ギリギリでポイントの移動がありました。リリス・スカーレット、シンティア・ビオレッタが行動不能、シャリー・エリアス行動不能、よって、アレンに全てのポイントを付与します』


 魔法鳥のアナウンスが流れた。


 俺は驚いて声をあげそうになる。


 リリスもシンティアも、原作より遥かに強くなっている。

 いや、強すぎるくらいだ。


 そもそもシンティアは余裕で卒業ができる強さを持っていた。現時点のアレンが勝てるはずがない。


 それなのに、アレンが二人に勝った?


 ……はっ、ははは、ははは。


 なんだこれ、面白い。


 笑いが、止まらない。


 ああァ、やっぱり、俺はこのゲームが好きだ。


 いや、この世界が好きだ。


 だが確信した。

 俺はまだまだ強くなれる。


 シナリオを超えたシナリオで、この世界を制覇クリアしてやる。



 ヴァイス・・・・、お前も楽しかっただろ?


 ◆


 三学年タッグ戦。


 ヴァイス・ファンセント、撃破数24人、上級生8、中級生7、下級生9。

 カルタ・ウィオーレ、同上。


 シンティア・ビオレッタ、撃破数16人、上級生2、中級生5、下級生9、生存ポイントなし。

 リリス・スカーレット、同上。


 アレン、撃破数20人、上級生4、中級生5、下級生11。

 シャリー・エリアス、同上、但し生存ポイントなし。


 デューク・ビリリアン、撃破数10人、上級生1、中級生3、下級生6。

 セシル・アントワープ、同上。



 エヴァ・エイブリー、撃破数29人、上級生25、中級生0、下級生4。

 タッグなし。



 ───────────────────


【大事なお願い】


仕事をしながら合間で執筆をしています!

『面白かった!』『次も楽しみ!』

そう思っていただけたら


ぜひとも、作品のフォロー&評価の【☆☆☆】で応援をお願いします!

モチベーションの向上に繋がります!

よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る