024 まあ、たまにはこういうのもいいか
『どうしたヴァイス! その程度で首位だと!? ぬるい環境で楽しんでるんだなァッ!』
『クッ――【
俺は、空中に飛ぶと、カルタのおかげで習得できた
上下左右、重力に逆らいながら壁を蹴り、ミルク先生に近づいていく。
流石の先生でも、どこから放たれるかわからない斬撃には苦労するはず――。
『曲芸に実力が追いついてないな』
『な――』
だがミルク先生は、あえて瞬歩で距離を詰めてきた。
俺が攻撃を放つ前に牙突――額を狙って容赦なく。
なんとか寸前で回避するものの、体勢を崩してしまい、壁が崩壊、追い打ちで思い切り蹴りをいれられた。
地面に叩きつけられたところを、更に追い打ち。容赦がない。
『まだ私は、お前の師であり続けれるみたいだ。ヴァイス、お前は強い。だがもっと自分だけの
薄れゆく意識の中、なぜか俺は笑っていた――。
いい匂いがする。
……女の香りだ。
純白のシルクシーツ、ベッドで目を覚ますと、隣で天使のような寝顔で眠っている女性がいた。
すうすうと寝息を立てている。
甘い匂いを漂わせながら、肌を露出させて無防備に眠っている。
「これが、氷姫のシンティア……か」
指先で頬を撫でると、んっ、と声を漏らす。
ノブレス学園では、俺とリリス以外に心を許している所をまだ見たことがない。
美貌は学校一、それのせいか、たとえ俺の婚約者だとわかっていても、隙あらば彼女にちょっかいを掛ける奴も少なくはない。
もしくは俺がシンティアに冷たい態度を取っているのを見て勘違いし、勝算ありだと思っているのか。
……これでも心から信頼しているんだがな。
「……おはよう、ヴァイス」
「ああ、おはよう」
ゆっくり瞼を開けたシンティアが、透き通るような声で言った。
先日から俺は、屋敷に戻ってきている。
とはいえこれは一時的な帰宅だ。
お披露目会、タッグトーナメントで好成績を残した者だけに休暇が与えられた。
だがD級の奴らは学園に残っている。
これはC級以上の特権だ。
とはいえのんびりする為だけに戻ってきたわけじゃない。ファンセント家の事業を確認したかったからだ。
その前にミルク先生と手合わせをしたのだが、見事にやられてしまった。
魔法ありのルールでやればまだマシだろうが、純粋な剣術でミルク先生を圧倒できるようにならないと……エヴァ・エイブリーには未来永劫勝てないだろう。
それにアレンの奴も強くなっている。
俺は、焦っているのかもしれない。
「また怖い顔してる」
「……考え事をしてただけだ」
「じゃあ――今だけは何も考えないで」
そう言いながら、シンティアはゆっくり顔を近づけてきた。
唇が触れ合い、口内で舌が交わり合うと、俺の頭が真っ白になっていく。
一つわかったことがある。
……男ってのは単純だな。
――――
――
―
浴場で汗を流し、湯から上がると、リリスが着替えを用意して待っていてくれた。
気配察知で、朝からずっと傍にいたことは知っている。
だがシンティアは婚約者だ。それはわかっていると思うが……。
「お気になさらず、私はヴァイス様と
「あ、ああ……」
非常に重たい単語のような気がするが、まともに考えるのは良そう。
それと最後に「いつでも肉叩きは可能ですよ」と、言っていた。まともに考えるのは良そう。
「そういえば、ゼビスを見かけないな」
「古い弟子に会いにいくと言ってました。いつもより嬉しそうな顔でしたよ」
「弟子? そんなのいたのか?」
「らしいですね。誰かまでは教えてくれませんでしたが」
ふうん、と答える。
元騎士団長なのは知っているが、そんなサイドストーリーは聞いたことがない。
とはいえ、あえて書いていない裏設定があることはめずらしくもなんともない。
けだが……妙に気になるのはなぜだろう。
てか――。
「なに見てんだ」
「いえ、美味しそうだなと思っていただけです」
俺はまだ服を着てない。
リリスの視線は、下腹部に向けられている。
ちなみに、ヴァイスは――デカい。
ナニカを言う必要はないだろう。
そう、ナニカでわかるからな。
「咥えてもいいですか?」
「……シンティアの許可を取ったらな」
「はい!」
何でこいつはいつも元気なんだ……。
それから俺は昼食を取った後、事業の資料に目を通した。
数ヵ月放置していただけで粗がたくさんあったので、これからたまに連絡は入れないといけないことが分かった。
また、父上からの伝言があった。
俺が下級生を首位で独走していることを知ったらしく鼻が高いそうだ。
花も送られてきたが、だったら会いに来てくれればいいのに……。
全ての用事が終わり、日課の魔法訓練をしながら、また考え事をしていた。
ミルク先生は『武器を増やせ』と言っていた。その意味をずっと考えていたが、答えは出ていない。
今俺は、四属性に加えて闇と光、そしてミルク先生仕込みの剣術がある。これ以上にもっとってことか?
……わかんねぇ。
気づけば深夜、ゼビスは帰ってこず、なんだか寂しくなった。
自室に戻ると、そこにはシンティア、そして――リリスが立っていた。
二人とも素肌が見えるほどの透明な服を着ている。
曲線滑らかな腰つき、引き締まった身体だが、女性特有の愛らしい部分はしっかりと強調されていた。
「…………」
「お疲れ様、ヴァイス」
「今日は帰る予定じゃなかったのか?」
「あなたの疲れを癒すのは、婚約者である私の役目ですわ」
「……で、何でリリスも?」
「はい、許可を頂きました!」
「……え?」
「リリスさんは、私たちの大事なパートナーです。ヴァイスが喜ぶことは、私の喜び、それに私も、リリスさんのことが好きです」
ふうんと素っ気なく答えるも、俺の心臓は静かに脈打っていた。
冗談のつもりだったが、シンティアは本当に俺のことが好きらしい。
人間は誰だって自己中だ。
シンティアが他の男に触れられるのを想像すると嫌だが……。
その逆は――。
「ヴァイス、何も考えないでいいから……ね」
二人はゆっくりと、俺の腕を掴んでベッドに誘導する。
似ているようで、まったく違う香り。
ベッドで横になると、さっそくシンティアが俺に顔を近づけてきた。
甘美な香りと、柔らかな唇、濡れた舌先が絡み合う。
同時に、リリスは俺の下で、失礼しますと言った。
ノブレス学園の理念は飴と鞭、ああ、でも今は、飴をもらい過ぎてる気がする。
だがその時、
あったな――武器。
「ヴァイス、何も考えちゃダメ」
まあでも――たまにはこういうのもいいか。
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