112 体育祭開幕

 体育祭のルール及び組み分けについてはこうだ。


 全学年を赤チームと白チームの二組に分けて戦う対戦方式。


 下級生、中級生、上級生、成績やさまざまな要因で考慮されたチーム分け。

 ポイントは学年ごとで計算されるが、種目によっては合同戦もある。


 プログラムごとに一位から五位まで各チームにポイントが振り分けられ、最終的に合計ポイントの多いチームが勝利。

 ただし最終戦のみ加点方式が異なる。


 試合終了後、勝者チームには活躍に応じて個人ポイントが振り分けられる。


 試合ごとでも個人ポイントに影響する為、勝者チームであっても、最下位を取りづづけると合計ポイントがマイナスになる可能性がある。

 

 また、学年ごとに最優秀賞を決めて、特別ポイントが支払われる。


 つまり一試合一試合を一生懸命にやれ、ということだ。

 強敵はエヴァだが、団体戦である以上、一人ですべて掻っ攫うことはできないだろう。


 しかもアレン隊、セシル隊が敵でさらにエレノアも敵なのはやっかいだ。


 とはいえ、シンティア、リリス、トゥーラ、そしてシエラが味方なのはありがたい。


 だがこれはただの体育祭じゃない。

 魔法使用可能の体育祭だ。

 競技によっては選手への妨害も可能。


 全員が強くなっていることを考えれば、難易度は原作以上だろう。


 チームを勝利に導き、個人種目でも一位を取り続け、学年最優秀賞を狙う。

 真正面から叩き潰す。それが、誰であろうとも。


 今大会でポイントを取れば、俺はB級ランクに間違いなく上がる。

 むしろここで上がっておかないと、在学中にSが取れなくなるだろう。


 今回は、俺の中でも重要な大会だ。


 そして下級生最後のイベントでもある。


 ポイント関係なく、負けるわけにはいかなねえよなァ?


「ヴァイス、任せてください。私は、全力を出します」

「私もです! ヴァイス様!」


 俺の表情だけで気づいたのか、シンティアとリリスが声をかけてくれた。

 バトル・ロイヤルの後、リリスも相当無茶な訓練をしていたらしく、やる気に満ち溢れている。

 

 だがそれは全員だろう。今大会は、今までの努力を叩きつけ合うようなものだ。


「ふふふ、体育祭楽しみだ! 絶対勝つぞ!」


 すると少し離れた場所のトゥーラが、嬉しそうに叫んでいた。

 そういえばイベントを割と楽しむタイプだったな。突然、ポイント制度に放り込まれたというのに、元気な奴だ。


 無駄な組体操や挨拶はほとんどなく、チームで席が分かれる。


 配布された赤リボンを巻こうとしたら、リリスが俺からひょいと取って、頭に巻いてくれた。


「覚えてますか? ヴァイス様が努力をはじめるって言い始めたときも、コレしてましたよね」

「ああ、もう懐かしいな」

「――次は、私が頑張りますから」


 それを横で見ていたシンティアは、とても微笑ましかった。


「さあて、勝つぞ勝つぞ! やるぞやるぞ!」


 あと、トゥーラも笑顔だった。


『第一種目は、1000メートル走です』


 運営は実行委員がいるらしく、実況もしてくれるらしい。

 教員のミルク先生たちも見守ってくれているが、原作を知っている俺からすると不思議な光景だ。


 つうかさすがノブレス、ゼロが一個違うんだが……。


「ヴァイス、頼むぜえ!」

「ヴァイスくん、がんばってね!」


 前に出ると、先輩たちからも声援を送られる。

 こういうのは、合同戦ならではだな。


 俺がまず出場し、他に下級生が四人。


 そしておそらくライバルになりそうな二人が――。


「よおヴァイス、悪いが一位は俺がもらうぜ」

「わ、わたしも負けないよ。ヴァイスくん」

「はっ、俺が一度でもお前らに負けたことがあるか?」


 デュークとカルタだ。


 ……なんか嫌な予感がするな。


 そして横に並ぶと、デュークの筋肉が前よりも増えていることに気づく。

 こいつ……育ててるな。


 いやそれよりも、カルタのたゆんが原作よりも大きくなってないか?


 これも、改変か?

 歩くたびに、たゆるなんて……さすがはノブレス・オブリージュだ。


『それでは、スタート!』


 しかし俺とあろうものが、そんなことを考えていたせいで初速が遅れてしまう。

 ドンっ! と音がした瞬間、カルタのたゆんが揺れてしまったのだ。

 

 クソ、とんでもない改変だ。


 だが一番ずるいのは、カルタは杖に乗っていた。

 二メートルを超えての浮遊はダメだったが、とんでもない速度だ。


 ……ズルすぎねえか?


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 だが一位はデュークだった。身体強化と……なんだあいつ、あんな高速移動を覚えたのか?

 いや、ただの筋肉か?


 よくわからねえがそれよりも追いつかねえと――。


「――不自然な壁アンナチュラル――高速移動ファストムーブメント


 ノブレスの校庭は広く、一周が500メートル。

 俺は視線誘導で目先に魔法を設置していき、その上を通っていく。


 脚力をさらに倍増させる――。


「うおおおおおおおおおおおおおお」

「ま、負けないよ」


 デュークとカルタは同チームだが、あいつらも一位を狙ってるのだろう。

 妨害はなしだ。

 

 俺は思い切り駆け、ついに二人と並走する。


 今のところ僅差でデュークが一位だ。カルタも必死だが、それでも追いつけない。


 しかし――。


「惜しいな。お前らには足りないものがある」


 俺は、風の魔法を詠唱した。体の抵抗が変わって背中から押されるように進み、テープゴールを切る。


 トゥーラとの訓練を得て、使い方がうまくなっているのだ。

 いやむしろ、それがなければ負けていたかもしれない。


『一位、赤チーム、ヴァイス・ファンセント。二位、白チーム、デューク・ビリリアン。三位、白チーム、カルタ・ウィオーレ。四位――』


 結果は俺の勝利。だが僅差だった。

 たゆんのせいで遅れたとはいえ、こいつらもとんでもなく努力してるな。


「負けた……クソ、次は勝つぜ」

「速すぎる二人とも……でも、楽しかった」

「はっ、まあせいぜい頑張れよ」


 このイベント自体は、今までのノブレスの試験で考えると平和かもしれない。

 プールのような定番イベントに、ポイントを掛け合わせたようなものだ。


 しかしみんなの修練が見えるのはおもしろい。


 このまま、全員に勝って見せる。


『一位、赤チーム トゥーラ・エニツェ』


「やったー! 一位だ! 嬉しいな!」


 後、思っていたより、トゥーラが原作よりいい子っぽい。


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