113 障害物競走

 続く先輩たちの2000メートル走は流石ノブレスだった。

 戦闘力という点において俺が負けていると思うことは殆どないが、魔法基礎力については素晴らしく高い。


 魔法を詠唱したり、手足に漲らせるのには時間がかかる。

 それは魔力総量と関係なく、技術の問題だ。


 魔力の淀みがない場合は、無駄に消費することなく浸透する。

 その為、100%の力が出せるということだ。


 体育祭、ただのイベントかもしれないと思っていたが、かなり勉強になることが多い。

 ココの防御魔法のように原作ではわからない部分を吸収できる。


 ちなみにエヴァは飛行魔法で一位。シエラも一位だった。

 エレノアは走るのとかは苦手らしく遅かったが、まあ速さが売りではない。


 といっても、男子生徒全員の目が釘付けだったので、ある意味ではぶっちぎりの一位ともいえる。


「いやあ、エレノア先輩凄かったなあ! 何とはいわないけどさ」

「ああ、間違いない。一位だよ、もう総合一位」

「ポイントがどうなるのかと不安もあるけど、最高なこともあるもんだな」


 これも、先輩の力か……。


「ヴァイス、どうされましたか?」

「何もないよシンティア」


 多少の冷気を感じつつ、体育祭は進んでいく。


 ポイントの変動はもちろんあるが、基本的には今までの訓練の成果、授業の成果を出せばいい。

 

 そして次はまた俺の番だった。

 人数が少ない分、何度も回ってくる。


 シンティアに応援されながらも前に出る。


 障害物競争だ。しかしノブレスでは、もちろん普通のものは出てこない。

 レース上のとてつもないものや何もない空間を眺めながら、前に出る。


「負けないよ。ヴァイス」

「私もだ。ヴァイス殿」

「はっ、俺に勝てると思うのか?」


 横に並んだのはアレンとトゥーラだ。

 どこか似てるものを感じる。

 多分、壁とかあっても突撃するタイプだな。


 トゥーラはチームだが、ポイントは別だ。

 味方でも、敵と変わらない。


『それでは、ノブレス障害物競走スタート!』


 ドンっと全員が飛び出す。

 一番早かったのはトゥーラだ。剣術に鍛錬を費やしていたこともあって、反射神経がいいのだろう。

 続く並走しているのは俺とアレン、後ろに下級生二人。


 初めに現れた障害物は、なんと疑似魔物だ。


 デカいオークで、姿形は真っ黒だ。

 おそらくクロエ先生だろう。召喚術を見せてもらったことがある。


 トゥーラが斬撃で一撃、アレンと俺は閃光タイムラプスで破壊した。


 このくらい俺たちに何の問題もないが、後ろの下級生は手こずっている。

 はっ、おそらく俺たちのせいで難易度が上がってるんだな。


 だが強さのインフレは、ゲームの醍醐味みたいなもんだ。


『先頭にトゥーラ、ヴァイスとアレンが続きます!』


 実況の声にやや苛立ちを覚えるが、最後に勝てばいいだけの話だ。


 次に待ち構えていたのは、結界魔法だ。

 閃光タイムラプスで切ろうと思ったが、条件が地面に書かれている。


 無理やりは禁止とココの文字。

 つまり丁寧に術式解除しないといけない。


「……マジかよ」


 これには、俺とアレン、トゥーラが同じようなことを呟いた。


 だがこれも必要なことだ。

 無理やりに破壊してはいけない場合もある。まあ、爆弾みたいなものだな。


 手のひらを結界にかざすと、ゼリーのようなぶよぶよの感触が手に触れる。


 それから目を瞑り、解析を行う。


 術式はいくつも重なるカギみたいなものだ。

 それを一つ一つ丁寧に解除し、解いていく。


 次の瞬間、俺の目の前の結界が、ガラスが割れたような音を響かせて解除した。


「ぐぬぬぬ……斬りたい……」

「――よし!」


 どうやらトゥーラは苦手らしく、かなり困っていた。

 しかし俺の後にアレンが解除に成功する。


 あいつもこういうのは苦手だったと思うが、さすがに研鑽を積んできているみたいだ。


 しかしリードしているのは俺だ。


 最後に待ち構えていたのは、空高くの箒に括りつけられたリングをゲットすることだった。


 俺は急いで不自然な壁アンナチュラルを詠唱するが、アレンはカルタの飛行模倣で空を飛ぶ。


 ズルだろ……。


 だがこの勝負は妨害ありだ。

 

 もちろんそれに気づいているトゥーラが、まず仕掛けて来た。

  

「ハアアッ!」


 見えない斬撃が、俺とアレンを真っ二つする勢いで向かってくる。

 体育祭の体操服にも、訓練服と同じ術式が組み込まれている。


 だが露出が多い分、それよりも軽度だ。

 つまりダメージはでかい。


 はっ、いいね。最高だ。


 俺とアレンは、ほぼ同時に防御シールドを詠唱した。

 丁寧に、それでいてしっかりと。


 そして驚いたことに、トゥーラは見えない斬撃を俺たちに攻撃を与えようとしていたのだろうが、その残った部分が、箒を真っ二つに切った。

 トゥーラは落ちてきたリングをゲットすると、嬉しそうに走る。


「ふふふ、やったぞ!」


 ――やるなあいつ。


「負けない!」


 俺とアレンは、二人で下降していく。

 飛行魔法は卓越した技術だが、それは空を飛ぶときだけだ。


 下がっていくのはそこまで難しくない。


 そしてトゥーラがゴールしそうになったとき、アレンはシンティアの氷で地面を凍らせた。

 そのままトゥーラが滑りそうになる。


「おおおおお!?」

「はっ、卑怯じゃねえか」

「勝つためだ!」

「ああ――その通りだな」


 俺はデュークの身体強化スケールアップを二倍で重ね、更に不自然な壁アンナチュラル高速移動ファストムーブを乗せる。


 おそらく今までで一番のダッシュだ。


 そして更にアレンに魔法糸マジックレストを付与した。ほんの少ししか効果はないだろうが――。


「――くっ」

「はっ、じゃあな」


 だが驚いたことにアレンは最後に凄まじい速さを見せた。


 追い抜かれることはなかったが、俺の予想に反した動きだった。


 ……ったく。


 だがそれでも俺が――一位をゲットした。


「赤チーム一位、ヴァイスファンセント。白チーム二位、アレン、赤チーム三位、トゥーラ・エニツィ」


「はあはあ……ヴァイス殿、早すぎるぞ!」

「はあ……負けちゃったか……」


 しかしそこまでの差はなかった。

 これがもし、誰かから攻撃を守る為なら、アレンは何倍も早く動けていたかもしれない。


 色々と考えさせられる体育祭だ。

 俺はもっと精進しないといけない。


「はっ、残念だったな」


 次の騎馬戦は、何でもありのルールで、更に三学年合同。


 上級生からエレノアが出るだろう。


 俺は今まで彼女とまともに戦ったことはない。


 あの腐食の手は、おそらく最強クラスの攻撃力。


 ちらりと視界を上に向けると、ボードにチームポイントが記載されていた。


 今のところ、俺たち赤チームが少し有利だが、そこまでの差はない。


 ここでがっつりとポイントを頂くとしよう。

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