114 騎馬戦

 ノブレス体育祭の騎馬戦は普通に帽子を取るだけじゃない。

 体術と魔法を駆使した戦闘といっても遜色がないだろう。


 ただし身体にダメージを与える攻撃は禁止とされている。


 赤チームと白チームの対抗戦、エヴァは出ていないが、エレノアはかなりの脅威だ。


 ちなみにこっちで目立っているのはシエラだ。


「さあ、勝つわよー!」


 体重が軽い分、下に負担がなくて有利かもしれない。

 しかし体操服が似合うな。


 支えるのは三人で、そこは普通と変わらない。


 男子と女子は分かれている。シンティアが上で、リリスが支えているみたいだ。

 対する敵にはアレン、デューク、オリンやエレノアがいる。


 ルール自体は頭の上の帽子を取ったものの勝利だが、そう簡単にはいかないだろう。


 さて――勝つぞ。


『それでは、ノブレス騎馬戦、試合開始です!』


 スタート同時に、まず俺は下の同級生に声を掛けた。

 まっすぐに進めと。


 名もなき下級生(名前はある)だが、数々の試験を乗り越えた勇敢な奴らではある。


 俺を信頼してくれているらしく、そのまま敵の大群に突っ込んでくれた。


 それに気づいた同チームが、同じように前に出る。

 だが俺と並走していた班がいる。


 それは、シエラだ。


「ヴァイ! 勝つわよ!」

「ああ、当たり前だ」


 シエラにとってはお遊びに近いかもしれないが、負けず嫌いなところは俺と似ている。


 チーム同士がぶつかり合った瞬間、魔力が乱れ合う。

 俺は閃光タイムラプスを使って攻撃を回避、そして白チームの帽子を奪い取る。


 下の支えてくれている奴らとの連携も重要だ。

 風魔法が飛んできたりもするが、不可避領域バリアの術式を変更し、周囲を囲っている。


「うおおお、アレン、やっちまえ!」


 土台になっているデュークの勢いが凄い。ちょっとズルくねえか?

 まあ、これも作戦か。


 そして驚いたことに、ものの数十秒で相当数のチームが減った。


 だが俺とシエラ。

 シンティア&リリス。

 アレン&デューク。

 エレノア、オリンチームは残っている。


「エレノア、負けなさい!」

「そ、そういうわけにはいかないよおっ!?」


 そのとき、シエラvsエレノアが始まる。

 シンティア&リリスvsオリンも。


「負けませんよ、オリンさん」

「ボクも負けない!」


 そして俺は――。


「ヴァイス、今回は僕が勝つ番だ!」

「ああ、やっちまえアレン!」

「はっ前向き野郎どもが」


 アレンとデュークだ。だがこうなると名もなき下級生(名前はある)では荷が重いだろう。

 いくら俺がうまくやっても、土台での勝負では負ける。


 まずアレンが思い切り右手を振りかぶってくる。

 凄まじい速度だが、俺の目で見切れないものはない。

 あえて寸前で回避し、返しざまに奪おうとするが、そこをデュークが一歩下がってカバーする。


 ここまで刹那の攻防だ。

 魔力を使っているので、凄まじい速さだろう。

 

 あいつらは二人で攻撃と回避を兼ねている。


 それから何度か攻防し合う。あまりの速さに周りからは何が起きてるかわからないかもしれない。


「負けた。私が……」


 すると隣で、シエラの声が聞こえた。

 どうやらエレノアに負けたらしい。


 そうなると残っているのはシンティア&リリスだ。そしてシンティアは、オリンに勝ったらしく、帽子を奪っていた。


 これ以上彼女たちに負担は強いられない。


 ならここで必ず勝つ必要がある。


「アレン、いけえ!」


 するとデュークも正念場だと思ったのが、足を踏み出して前に押し込んだ。

 ぐっと距離が近づくいて、アレンの右腕が伸びてくる。


 俺はあえてそのまま攻撃をかぶせた。

 あいつは、間違いなく不自然な壁アンナチュラルで防ぐつもりだろう。


 デュークのおかげで、まずアレンの攻撃が俺に到達する。だが帽子の寸前、不可侵領域バリアで防ぐ。


 俺のバリアは殺意や脅威によって判断されている。

 ただ今回は触れるだけでも発動するようにしていた。


 しかしアレンはそれでも押し込もうとした。

 一方で俺は、手に風を付与していた。


 到達する前に小さな風を飛ばして、それに術式破壊を融合させている。


 これにはアレンも驚いたのだろう。到達する前に発動していた不自然な壁アンナチュラルが破壊されて、帽子に風が触れると吹き飛ぶ。


「な――!?」

「させるかよお!」


 だがデュークがそれをカバーするかのように足を踏み込んで飛んだ。

 アレンは俺への攻撃をやめて帽子を奪い取ろうとする。


 しかし俺はそれも読んでいた。


 アレンが手を伸ばした先に不自然な壁アンナチュラルを発動させ、奴が受け取るのを妨害。

 その隙に、空いていた左腕で――奪う。


 卓越した魔法技術がなければここまでの攻防はできなかっただろう。


 バレーのときもそうだったが、ノブレスは色々と考えている。


 ただの授業ではなく、生徒たちにいままでの訓練の意味を教えてくれるかのようだ。


 だからこそ最後のイベントなのだろう。


 原作ではなぜこんな最後で気楽な体育祭があるのかと言われていたが、今ハッキリと理解した。


 これは、その為にあるのだと。


「負けた……」

「ま、なかなか良かったんじゃねえか?」


 だがトゥーラから風を教えてもらっていなければ、土台勝負で負けていたはず。

 俺の勝利だが、勝負は僅差だ。


 まあそれも――おもしろいがな。


 しかしその瞬間、隣でシンティアが帽子を取られたらしく、リリスが叫んでいた。


 相手はエレノア、両手にはどす黒い腐食の手が漲っている。


 シンティアの周りには氷の壁が展開されていたが、腐食で溶けている。


 彼女の前には、どんな防御も無意味だ。


 エレノアは俺を見た。


 そして向かってくる。


 これが最後の勝負だ。


「負けないよ、私っ!」


 そして何よりも凄かったのは、揺れているたゆんなのはいうまでもなかった。


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