326 大群②(カルタside)

 セシルさんは事前に予想していた。

 この場所の特性と、この試験そのものが意味するもの。


 それは――厄災だ。


 私たちは今、疑似的な厄災と戦っている。

 祠は重要な人物、先生たちは魔族、そして未知の生物――魔物。


 広大な土地で、さらに何が起こるか分からない命がけの戦い。


 もう少しで凄まじい戦いが幕を開ける。

 

 だけど私は、不謹慎かもしれないけれど、ワクワクしていた。


 自分の力を、最大限に試せることが。


 深呼吸して、跨っていた杖から降りると、その場で浮遊する。

 そして、背中・・に魔力でくっつけた。


 ずっと考えていた。どうして私は、杖に跨って空を飛んでいるのだろうか。


 確かに魔力の制御に杖は必要だし、魔法の常識ではそうだ。


 でも、本来は身体にさえ触れていればどこでも関係ないはず。


 頭ではわかっていても、心が拒否するとイメージがブレる。


 ――だけど大丈夫。私なら制御できる。


 みんな強くなっている。ヴァイスくんも、アレンくんも、セシルさんも。


 だけど私も――誰よりも努力してきたと胸を張っていえる。


 魔物が大勢押し寄せてきた瞬間、凄まじい速度で地面に下降していく。


 以前私は、シンティアさんに杖を折られてしまった。

 魔力制御を失って堕ちていくことしかできなかった。


 けれど今ならそうはならない。


 みんなが強くなっている。新しい技を覚えたり、編み出したり、弱点を補ったり。


 私も負けてられない。


 一番得意で大好きな飛行魔法を、もっともっと自由なものにしたい。


 いずれは、杖なんて必要ないくらいに。


「私が先頭で大勢を引きつけながら戦う。オリンくんは、使役してから次の祠へ!」

「――わかった! 凄い……」

「トゥーラさん! よろしくお願いします!」

「任せてくれ! 流石だなカルタ」


 オリンくんに声をかけた後、私は、サイクロプスの群れの合間を縫いながら、魔力砲を放っていく。

 倒す必要はない。弱らせるだけでいい。


 それなら、オリンくんが大勢を味方にしてくれる。

 トゥーラさんが、やっつけてくれる。


 ――ヴァイスくん。


 私はもう弱虫じゃない。


 誰よりも先頭で戦っているよ。




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