ノブレス魔法学園

082 最強姉妹

 ノブレス・オブリージュには四季がある。

 

 入学式をした春、過酷な夏が終わり、短い秋が過ぎて冬真っ只中。


 綺麗な白い結晶が、空から降り注ぐ摩訶不思議な季節。


 閃光タイムラプスのおかげで、俺は鮮明で美しい六角形を見ることができる。

 

 降り注ぐ純白のホワイトスノーは、天然の奇跡だ。


 だがこのノブレス学園での白はすぐに黒く、赤くなっていく。

 地面にすりつぶされた綺麗なスノーパウダーが、鮮血に染まっていた。


 闘技場、下級生、中級生が見守るその中で、時期外れの剣魔杯の結晶、いや、決勝戦が行われていた。


 転移魔法を二度と設置されないように魔法の構築が終わり、新任の防衛魔法の先生が着任して、ようやく再開したのだ。


 中心に立つ女子生徒は、カルタよりも小さい背格好、まだあどけなさが残る幼顔、淡いグリーンのツインテール。

 だがその禍々しい魔力は、さすがノブレス上級生というべき畏怖を放っている。


 その手に持つはデカすぎる死神の鎌デスサイズ


 闇属性はこの学園内に二人存在する。


 一人は当然だが俺だ。


 稀有な存在で、世界広しともいえど滅多にお目にかかることのない。


 属性は性格を表す。


 血液型診断のように信憑性はないが、誰もがそれに同意する。


 過去で有名な闇属性を持つ奴らは、すべからず残忍な性質を持っていた。


 そしてその一人の名前は――。


「それで、終わり?」


 巨大なぶんぶんと死神の鎌デスサイズを振り回しながら可愛すぎる笑顔を放つ。

 恐ろしいのは武器や笑顔だけじゃない。


 ぶんぶんぶんぶん、空気を切り裂く音、それに伴って、鎌が消えていく・・・・・


 学年が上がるにつれ、ノブレスでは個性をより重視する。


 誰でも扱える魔法から、一歩踏み出していく。


 火魔法が得意ならば炎へ、風魔法が得意なら遠距離攻撃へ。


 そうやって独自の魔力を練り上げることで、新魔法を編み出す。


 そんな彼女の唯一にして絶対魔法、それは――武器すらも見えないほどただ圧倒的な速度から放たれる一撃――。


「三年間、ご苦労様」

 

 天使のような笑顔にもかかわらず、相対するその鎌が、無情にも歴代最強格とされているデュラン剣術魔法学校の上級生を葬った。


 訂正――ぎりぎり、生きてはいる。


『勝者、ノブレス魔法学園、上級生、シエラ・ウィッチ!』


 悲鳴のような歓声が上がる。

 

「すげえええ……。あれが、ノブレス四傑のシエラ先輩か」

「可愛いと強いは反則だろ」

「それにしても小さすぎないか?」


 下級生たちが叫ぶのも無理はなく、シエラは、ノブレス学園で最強格と呼ばれる一人だ。


 そのトップに立つは、エヴァ・エイブリー。

 もっとも、彼女だけは異質だが。


 ノブレス四傑とは、在校生の中で特に優れている人たちのことで、分かりやすく言えば、生徒が勝手に付けた二つ名みたいなものだ。

 その中の一人が、上級生である、シエラ・ウィッチだ。


 身長は149センチ。だが本人は150あると言い張るらしい。

 ハムスターのような可愛さもあって――ファンが多い。


「シエラ先輩可愛すぎるぅ!」

「魔法写真撮りまくったああ」

「せんぱーい! こっち向いてくださーい!」


 シエラが手を振るだけで、男、女がノックアウトだ。

 

 そして俺の隣では、なぜかいつもはうるさい男が静かだった。

 ええと……なんて呼んでいたか。

 プロテイン? ササミ? ビタミン? ミネラル?


 もういい、デュークだ。


「はぁー、すげえな。あれが噂のシエラ先輩か」


 感嘆な声を漏らし、めずらしくただただ驚いていた。


「脳が筋肉化しているお前でもあの凄さがわかるのか」

「ああ、正直ビビってるぜ。華奢な腕かとおもいきや、すげえ引き締まった筋肉が詰まってやがる。どうやって育ててるのか知りたいぜ」


 訂正、いつもと変わらん。


 だが脳筋肉の言う通り、シエラはとんでもない腕力をしている。

 だがそれは魔力でも何でもなく、彼女の生来の素質。


 あの速度も、そこから生み出されているのだ。


「しかしあれでヴァイスと同じ闇属性ってのは怖いな。あの鎌恐ろしすぎないか」

「なに言ってるんだ?」

「え? 何がだ?」

「シエラは確かに闇っぽいが、あいつの属性は風よりの光だ。死神の鎌は、生徒が付けたあだ名にしか過ぎない」

「はあ? あれが光!?」


 そう、シエラは光だ。

 残忍な性格ではなく、他者を思いやる心を持っている(らしいが知らん)。


 なのになぜあんな武器なのか、それは、彼女の出生に関わっている。


 そして――闇は――。


「では、大将戦、エレノア・ウィッチ・・・・、デュラン剣術高等学校から、ギブリア・オルソ!」


「……ウィッチ?」


 デュークが首を傾げる。……こいつは何も知らないな。


「あいつらは、姉妹だ」

「へえ、そうなのか!? そういえば、そんなことを聞いたような……」


 エレノアはシエラと違って身長が大きい。だがオドオドしていて、まるでカルタのようだ。

 髪色は薄いピンク、肩を震わせながら前に出る。


 シエラに背中を押されていた。


「なんか、はタイプが全然違うんだな」

「はあ……お前は、マジで何も知らないんだな」

「え?」

「エレノアが妹で、シエラが姉だ」


 そしてエレノア・・・・は――。


 俺は、観察眼ダークアイで、彼女たちの会話を読む。


「エレノア―、絶対勝ちなさいよー」

「で、でも……相手強そうだし……」


 ギブリアは、体格が二メートルは超える巨体の男だ。

 恵まれたその体躯から繰り出される攻撃は、デュークを上回るほどの威力。


 だがデュラン剣術の上級生になるとそれだけじゃない。


 魔法を上乗せすることで、ただの力任せじゃない攻撃となる。


「お前が噂のエレノア・・・・か、殺してやる」


 相手も随分と気合が入っているらしい。


 そして試合がはじまる。エレノアは怯えながらも素早い動きでギブリアの攻撃を回避していく。


 闘技場は相当な防御魔法で覆われているが、ギブリアの大剣は術式を無効化する魔法が乗っているので、地面が砕け散る。

 対魔法特化に適したデュランの個性を生かした戦術だ。


 それに速い、防御力も相当なものだろう。


「お、お姉ちゃん、勝てないよー!?」

「ちょこまかと逃げ回りやがって!」


 エレノアは防戦一方だった。いや、逃げの一手という感じか。

 だがすでに勝敗は決している。


 それを見ていたデュークが、少し悲しそうに声を漏らす。


「あちゃー、ってのには驚いたが、きつそうだな」


 ああ、そうだな。


 あの程度の奴が、エレノア・・・・に勝てるわけがない。


「はっ、姉のチビと違って、お前はダメみたいだな。死ね、エレノア!」


 その瞬間、エレノアの怯えが――消える。

 振りかぶられた大剣、だがエレノアは、それを片手で受け止める。


 手に纏うは、どす黒い――闇。


 そう、彼女こそが、稀有な闇属性を持つもう一人。


「……お前、お姉ちゃんのこと、バカ・・にしたな?」


 そして――重度のシスコンである。

 

「へ? は?」


 右手で掴んだ大剣がメキメキと音を立てる。

 彼女の能力は、両腕に漲る腐食・・


 魔法も、剣も、彼女の闇魔法の前では形を成さない。


 それが、姉を愛しすぎてしまった彼女の歪な属性。


 姉を傷つけた相手は、誰であろうと殺す。それが、闇たる所以。


 ――と、設定で書かれていたが。


「シスコンは怖いな……」


 俺も素直な感想がこもれ出る。


 大剣を腐食でぶち壊したエレノアは、ギブリアに掴みかかると、馬乗りになって顔面をボコボコにしはじめる。腐食が付与されているので、彼女の前で防御魔法はすぐに崩れていく。

 白い雪が赤く染まり、シエラは「いけいけーエレノア―」と軽い言葉で応援している。


 周囲は止めることができない。

 なぜならギブリアは、降参とはいってないからだ。いや、言えないだけだが。


 こうなるとギブリアの魔力が漏出し、気絶するまで眺めるしかない。


「あなたごときがッ! お姉ちゃんをッ! バカにしてッ! いいわけッ! ないよねッッ!」

「あっがあっやめっああ――」


 聞こえるのは、拳の音と、シエラの軽い応援。



「いけー、いけー、優勝だー」



 ああ、これが、これこそが、ノブレス・オブリージュ新学期の始まりだ。


 ───────────────────


【大事なお願い】


始まりました第四部! 気づけば30万文字を超えていてびっくりました。

そして戻ってきました学園編。


何ともまあノブレス・オブリージュらしい幕開けになった気がします。


最近サポート向けの記事を書けていないのですが、ギフトたくさんありがとうございます! 

引き続き本作をよろしくお願いしますっ!


仕事をしながら合間で執筆をしています!

『面白かった!』『次も楽しみ!』

そう思っていただけたら


ぜひとも、作品のフォロー&評価の【☆☆☆】で応援をお願いします!

モチベーションの向上に繋がります!

よろしくお願いします!

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