099 ヴァイス・ファンセントの一日
「さて、今日はリンドリア地方の
ノブレス学園の自室、風呂。
共有浴場よりはせまいが、
いわゆる給湯器はないが、汲み上げられた水が、予め構築された熱魔法によって温まる仕組みだ。
そして俺にとって嬉しいのは、稀有ながらこの世界に湯を楽しむ人たちがいる。
入浴剤は、その道楽者たちが作ったこの世界での貴重な嗜好品だ。
サラサラと粉を湯舟に入れると、透明な湯が白く濁っていく。
柑橘系のいい匂いだ。足先から入って、ゆっくりと肩まで浸かる。筋肉痛や腰痛はもちろん、この世界は魔力回復ってのもある。
感覚で例えると、マッサージのような気持ちよさがある。
効力が、身体に染み渡っていく。
「ふう……」
魔族もどきは世界で活発化し、様々な目撃情報がある。
二回目の厄災は近い。
もしかすと、今日の可能性すらある。
だが原作と違って魔族は俺の知らない奴らだった。
既にノブレス・オブリージュは、俺の予想がつかない部分が大半だ。
だが――。
「楽しいんだよな……」
無人島での戦いを思い出す。
殻を破ったセシル、制空権に頭脳で相打ちに持ち込んだシンティア。
原作よりも強くなっているデューク、想像を遥かに超えたシャリー、決して諦めないアレン。
もちろんほかの連中も強くなっている。
日に日に強くなる自分にも楽しい。
どこまで強くなれるのか、そして、これから先どんな未来が待っているのか。
不謹慎かもしれないが、不安とワクワクが入り乱れるこの気持ちは止められない。
だがどれだけ考えてもやる気べきことは同じだ。
強くなる。それも圧倒的に。
「しかしこの入浴剤、1ダース買っておくか」
まあでも、たまには怠惰も悪くないが。
日課の朝風呂が終わると、窓に手紙鳥が到着していることに気づく。
フクロウのような鳥だ。ゼビスが調教したファンセント家のお抱えでもある。
「クルゥ」
「わかってる。エサはやる」
定期的にこうやって連絡を取っている。
事業だったり、細かな世間の動きについてわかったことがあれば知りたいからだ。
どんな小さい事でも教えてくれと頼んでいるが……。
「父上の右足にささくれができたのか……」
いや、これはいらんだろ、と思いつつ、足をケアする道具を買ってあげてくれと頼んでおいた。
そしてその後に続く内容は、トラバ街で悪党が減り、以前よりも治安が良くなっているということだった。
普通に考えればよいことだ。だが俺は不安がぬぐえない。
魔族もどきは、悪人だけに適応される強制的なウイルスみたいなものだ。
原作でも、厄災の後、魔族は人間世界に雷を落とすかのように魔族もどきを増やしていった。
それを止めるすべはない。なぜなら世界中で起きるからだ。
悪人たちに気を付けろといっても無駄だろう。
俺は、ひとまず続けて情報を送るように手紙を返した。
それが終わると朝食だ。
ノブレスでのランクは、もうすぐB級になる。詳しく言えば今はC+。
下級生として快挙らしいが、俺的には遅すぎる。
だがメリットはたくさんある。
たとえば――。
――コンコンコン。
前日に頼んでおけば、朝、適切な時間に飯が運ばれてくることも、その一つだ。
「……美味いなこのフルーツ」
ベッドメイキングも自分でする必要はなく、消耗品も必要な分だけ補充してくれる。
また、家族の記念日に花を送ってくれたり、必要ならば街までの馬車の手配も可能。
といっても、ノブレスに在学しているほとんどが貴族だ。
そこまでのありがたみを感じられるかどうかは知らないが、俺は満足している。
飯を終えると授業だが、今日は休日。
日課の魔法訓練を自室で行う。
基本的には基礎訓練の繰り返しだ。
無詠唱魔法をしているときは、頭の中で術式を描いているに過ぎない。
そしてその術式は,実際に手で行わないと覚えられない。
このあたりはテスト勉強と同じだろう。
そして俺は、戦闘で属性を増やすことを考えていた。
下手に追加属性を使うと、魔力消費が増えデメリットにしかならないので避けていたが、俺も強くなっている。
魔力量を考えると、そろそろ問題ないはずだ。
俺は、火、水、風、地が使える。
個人的にはミルク先生が使う火は火力が高い。だが威力と引き換えに魔力消費が一番多いのがデメリットだ。
水は空気中の水分を使うことで消費は抑えられるものの、シンティアの氷のように変化しないと威力がそこまでない。
風は悪くない。応用が利くし、何よりも威力と消費のバランスが良い。
残り地だ。地形での優位を使えるが、その分限定的な場面が多い。
どれも一長一短だ。少しずつ実践に導入していって調べていくのがいいだろう。
まあ、最初に試すのは決めているが。
基礎魔法訓練を終えると、訓練室で実際に剣を振る。
特別なことは何もない。
考えずに行動できるように、身体に染み込ませていく。
昼過ぎになるとあらかじめ用意していた弁当で食事を取るか、食堂で日替わりをいただく。
それが終わるとまた訓練、夕方は共同風呂に入る。
大きな湯舟は、それだけで気持ちがいいからな。
「湯道のヴァイスだ」
「みんな、ちゃんと身体洗ったか?」
「……もう一度洗いに行こうぜ」
部屋に戻ると、次は座学の勉強をする。
もし読みたい本があればこの時間に読む。
一番頭が休めているのか、知識が入りやすい。
今日は、ギンデアン族とリアウン族の戦いの歴史を学んだ。
過去の文献から得られるものは大きい。
まあもちろん、どうでもいいこともあるが、ノブレスにいる以上は仕方がない。
夕食はシンティアとリリスと食べることが多い。
彼女たちも俺と同じような1日を過ごしていると言っていた。
「今日は唐揚げ増量中か……ありだな」
「私はこのパスパスタにしますわ」
「私はカリーラメーンにします!」
ノブレス特有の訳の分からない名前は、いつも笑える。
この時の食堂はいつも賑わっている。
アレンたちもセシルたちも、よく同じ面子でご飯を食べている。
「お姉ちゃん、まーーだーー?」
「今考えてるのよ、もう少し待って。うーん、ポポル揚げも美味しそうね……」
もちろん、上級生たちの姿も。
無人島の後もそうだったが、誰も試験での恨みつらみは言い合わない。
俺がこのノブレスで一番驚いたことかもしれない。
夕食を終えた後の食堂は賑やかで、自由室はあるが、大体ここが遊び場となる。
先生が来たらもちろん怒られるが、それもまたヒヤヒヤしていいのだろう。
「これで詰み、ね」
「……負けました」
「ふふふ、でもかなり強くなったわ。ファンセントくん」
ちなみに俺はまだ、セシルにバトル・ユニバースで勝ったことはない。
そしてもちろん、隣にシンティアがいるので、大丈夫大丈夫。
すべてが終わると自室に戻って就寝するか、読んでいる本があれば続きを。
試験の内容や、剣に納得できていないときは訓練室へ行くこともある。
だが身体を休ませるのも修行の一つだ。
それは、ミルク先生から強く言われている。
特に来週は
正直、優勝しなかったほうが良かったんじゃないかと思う
ったく、ノブレスってのは退屈しないイベントが目白押しだ。
そして――。
「デビ、寝るぞ」
「デビビッ」
最近、部屋にいる時はデビを召喚している。
ペット代わりというわけじゃない。
普段から召喚に慣れておけば、戦闘時での魔力消費が小さくて済む、というオリンの教えだ。
だからあいつはリスを常に従えている。あいつも、常に考えている。
なのでもちろん――眠るときはデビと一緒だ。
「デビビッ! デビビッ!」
「尻尾を振るな。黙って電気を消してこい」
「デビッ!」
「今日は寒いからな、こっちへこい」
「デビ♪」
まあでも、モフモフは嫌いじゃないが。
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【大事なお願い】
第四部が大体七万文字くらいで、もう少し続けようかなと思ったのですが、無人島バトル・ロイヤルで思ったよりも文字数が増えたので、これでキリよく『第四部』を終了にしようと思います!
今回は、ノブレス魔法学園での生活に密着できた章となったので、それもまとまりがあってよかったかなと思います(^^)/
シエラやタユノアといった上級生が登場し、短いながらもココ先生、そして強くなったみんなを見せられたかなと思いました。
続く『第五部』では『四人』の待ち合わせから始まります。
まだあまり『魔族』の部分にはまだ触れられていませんが、第五部では触れていきたいなと思います(いつも言ってるかもすみません)。
今のところ『幕間』を挟む予定はありませんので、そのまま次章となります。
特に章が変わったから何というわけではありませんが、新たな気持ちで楽しんでいただけたらなと思います。
また、書籍化に関してですが、改稿を引き続き頑張っております。
いずれ、ヴァイスたちのイラストがみなさんに届けられるようになるのを楽しみにしています(出たら買ってね!!)。
それでは、いつも応援コメントやイイネ、レビュー、ありがとうございます!
精一杯楽しんでもらえるように頑張りますので、これからも応援のほどよろしくお願い致します(^^)/
【最後】にお願いがあります!
既にしていただいている方が多いと思うのですが、トップに戻っていただき、フォロー、そして、☆☆☆を入れて頂けないでしょうか(^^)/
もし想いがありましたらレビューなども頂けると嬉しいです。!
読者様、いつもありがとうございます(^^)/
どんなに短くてもコメントなどもらえると嬉しいです(^^)/
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