364 主人公野郎

 学園祭まで残り七日を切った。

 コスプレカフェの準備も佳境に入っており、シンティアのコスプレは無事、氷の王女に決定した。

 時間ごとに区切られたイベントでは、氷のパフォーマンスをする予定だ。


 それを興奮気味に伝えたときは「今このムードで、ですか?」と怒られてしまったが。


「ヴァイス様、楽しみですね! 揉まれ放題にならないようにしましょう!」

「そうだな」


 何度繰り返しても、なぜかリリスはこの文言をやめてくれない。

 おそらくだが、ノブレス・オブリージュによる運命なんじゃないかなと思っている。


 とはいえ勝てば問題ない。いや、もしかして勝てばマジで揉み放題なのか?


 ……クソ、俺の脳内からも湧き出てきやがる……。


「ゴブリンキング、アターック!」


 廊下からふと外に視線を向けると、ベルクが、メリルにこん棒を振っていた。

 僧侶のコスプレをしているメリルに、一撃で頭を殴られているが。


「ヴァイス、ちょっといいかな?」

 

 するとそこで声をかけてきたのは、アレンだった。

 ちなみにこいつの頭には金の冠、勇者の予定だ。


 俺が決めたが、誰の文句も出なかった。

 平民出身であるアレンは、既に大勢から認められている。


 俺としては少し腹正しいものの、カフェで勝つためには仕方がない。


 つうか、一体なんだ?


「勇者からの変更を希望か?」

「いや違う。――魔族についてだよ」


 その一言で、俺たちは窓から屋上まで飛んだ。


 こいつの口からその言葉が出るなんてめずらしい。

 ……何か、掴んだのか?


「どうした? 何か情報があったのか?」


 当然だが、俺は未来を知っている。

 しかし今は改変を繰り返し、奴らの行動はほとんど読めない。

 大満月の時のようなイベントは稀で、ほとんどが後手に回ることになる。


 それは、ノブレス・オブリージュというのが魔族だけではない世界規模でアレンにイベントが降りかかることに関係しているだろう。

 今いるこの学園もその一つで、魔王と戦うのは本筋であって常に中心にいるわけじゃない。


 とはいえ、完全制覇には間違いなく必要だが。


「悪いけど何もない。色々調べてはいるんだ。シャリーやデュークと暇があればね」

「はっ、だったら何が言いたいんだ?」

「罠を仕掛けようと思ってる」

「……罠だと?」

「そう。前に奴らが欲しがっていたものがあるでしょ? そもちろん、多くの人に助けてもらう必要はあるかもしれない。それでも、僕は止めたいんだ」


 西では、既に魔族もどきの連中が何度も復活しているらしい。中には有名な奴もいたとか。

 といっても寿命はかなり短く、俺たちが奴らのたくらみを阻止したおかげだろう。

 それでも次々とゾンビのように新しい犯罪者が生まれていく。


 被害者も少なくはない。

 今はまだ対岸の火事だと思っている連中も多いが、いずれはそうじゃなくなるはず。

 アレンはよくわかっている。

 だからこその仕掛けか。


 俺も考えていない訳じゃなかった。しかし、これは改変だ。

 アレンがこの段階で魔族に仕掛けることなんてない。

 常に精一杯で、本来なら今もノブレス魔法学園で必死になっている。

 余裕が出てきているのか、それとも意識が変わっているのか。


「それがどういう事になるのか、わかってるのか?」


 罠を仕掛けるということは、少なくとも囮も必要だろう。

 つまり人がいる。

 こいつが声を掛ければ、もちろんデュークやシャリーも動くだろう。

 俺に声をかけたってことは、シンティアやリリス、他の大勢のことも考えているはず。

 今までは奇跡的に誰も死んでいないし、大きな怪我もない。

 だが魔族は俺が知っている奴らではなく、今は何を考えているのかわからないのだ。

 その状態で罠を仕掛けるとは、こいつらしくない。


「……わかってる。それでも、僕はこの現状を見てられないんだ」

「一介の学生がたいそうなことだな。お前が動かなくても既に大勢が動いてる。それでも、自分のほうが優秀だと言いたいのか?」

「そこまで傲慢な考えをしてるわけじゃない。ただ……ヴァイス、君を信用してるんだ」

「……なんだと?」

「僕は駒でいい。君の手足でいい。でも、志はある。――人を、救いたいんだ」


 恥ずかしげもなくほざきやがって。

 俺は別に知らない奴らがわめこうが死のうがどうでもいい。それこそ、国が崩壊しようがだ。

 しかし魔族もどきの事は気になっていた。

 魔族が何を考えているのかはわからないが、このままでは何かあるかもしれないと疑っている。


 なにもしなくてもアレンは魔王に勝てる可能性は高い。

 それでも被害者はごまんと出るだろうが。


 ……ふん。


「その結果、誰か死んだらどうするんだ?」

「……死なせない。でも、綺麗ごとを言いたいわけじゃない。これは、覚悟だ」


 ハッ、主人公野郎りそうやろうが。


「いいだろう。学園祭が終わったらお前に乗ってやる。だが作戦を決めるのは俺でもお前でもない。セシルに話しを通す。あいつがやらないと言ったら動かない」


 こいつは勘違いしているが、俺には求心力も頭脳もない。

 ただ未来を知っているだけだ。


「もちろんだ。セシルさんには、僕からもお願いする。頑張ろう……なんて、嫌がるのは知ってる。でも、ありがとう」


 はっ、主人公め。お前に何もかも見透かされているみたいで腹が立つ。


 でもま、自ら改変する主人公も悪くない。


 それに魔族どもがどう出るのかも楽しみだ。

 奴らの動向も狙いも全てあぶり出してやる。

 

 するとアレンは、なぜか手をごしごしとハンカチで拭いていた。

 何してやがると思っていたら、手を差し出してきた。


「なんだ?」

「一応、握手したほうがいいかなって」


 …………。


「どこ行くの? ヴァイス? ねえ、ヴァイス!?」


 やっぱり選択を間違えたかもな。



 ただまあ、お前のその冠、悔しいが本物に見えたぜ。


 主人公野郎。


 

 ――――――――――――――

 あとがき。

 更新お待たせしました。現在、更新は不定期なのですが、仕事や精神的には凄く安定しており、できるだけ書きだめしたりしたいです。

 もう少しお待ちして頂けると嬉しいです(/・ω・)/


 『大事なお知らせ』

 新作を投稿しました!

 タイトルは【配信の片隅で、謎の大剣豪が無双している件】です。

 https://kakuyomu.jp/works/16818093081514299201

 面白い作品になっているので、良ければみてほしいです!




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