怠惰な悪辱貴族2巻発売記念SS(サポート限定)

 『大事なお知らせ』

 このたび、怠惰な悪辱貴族2巻が発売しました! 紙、電子ともに既に発売しておりますので、Amazonや書店でお買い求めくださるとありがたいです('ω')ノ

 連載開始時期に関しましては未定ですが、予定しておりますのでもうしばらくお待ちを。

 

 記念SSとして、サポート限定で公開していた『エヴァの夏休み』を公開します。

 全2話となりますので、翌日にまた公開します。


 それではよろしくお願いいたします('ω')ノ


 ――――――――――


 エヴァ・エイブリーは暇を持て余さない。


 退屈が嫌いで、怠惰が好きで、何よりも新しいものが好き。


 それは人間でも、食事でも――事件でも。


 彼女が一つの場所に留まることは殆どない。

 ノブレス魔法学園もただの通過点だった。


 ――ヴァイスが現れるまでは。


 そんな彼女も夏休み《エスターム》に入った。


 故郷は好きじゃない。


 好きな思い出と嫌いな思い出がありすぎるからだ。


 そんな彼女がトラバ街で暇を潰していた時、面白い話を聞いた。


「ふーん、それ本当?」

「は、はいいいいいい」


 エヴァは苺を頬張りながら、地面に倒れている男の頬をヒールで踏んづけていた。

 周囲には血だらけの男たちが倒れている。

 全員が高額の懸賞金がかかっており、憲兵ですら取り締まることのできなかった名の知れた連中だ。


 ヴァイス・ファンセントがこの街に来たと耳にしたとき、真っ先に街から出た鼻の利く連中でもある。


 だがエヴァは突然やってきた。

 まるでそこにいたかのようにアジトの中で座っていたのだ。


 鼻歌を歌って、何か面白い事でもないかなと優雅に見張りを拷問しながら。


「それ、どこの街?」

「ユ、ユースです! だ、だから命までは!?」

「ふうん。ユースか、そういえばまだ行った事がなかったなあ」


 エヴァは冒険者の資格を持っている。

 それもミルク・アビタスと同じS級ランク。


 理由はただ一つ、悪人をどれだけ捌いても罪に問われないから。


 正義という言葉は、エヴァの辞書にない。

 あるのはただの好奇心。


 そして彼女は微笑んだ。


 面白い話を聞いた。

 

 暇潰しからワンランク上の暇潰しを教えてもらい、ご機嫌だった。


「ふふふ、じゃあ行こうかな」

「は、はい、で、でしたら私が船を出します! 今日でも、明日でも!」

「船はちょっと興味ないかな。酔っちゃうのが嫌だしねえ」

「で、でしたら馬車はどうでしょうか!? 少し時間はかかりますが陸路――がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 エヴァは嬉しそうにヒールで男の頬を貫いた。

 ご機嫌そうに。魔力をほんの少しだけ込めているが、いつもより少しだけ抑え気味に。


「ありがとう、じゃあまたね」

「俺の頬が、歯があああああああああああああ」


 彼女は賞金を受け取らない。

 金なんてなくても欲しいものが手に入るからだ。


 通報もしない。エヴァに狙われた殆どが自首をする。


 罪を償わない限り、いつ彼女の遊び相手になるのかわからないから。


「――じゃ、いこっかな」


 エヴァは武器は持たないが、唯一魔法の杖を持っている。

 だがこれは長距離用で、国と国を移動する際に使う特別なものだ。


 如何にエヴァといえども、飛行魔法は精神をすり減らしている。

 

 故にカルタがどれだけ才能を持つのか、それは本人すらもわかっていない。


「びゅーんっ」


 精巧に作られた箒にまたがると、ふわりと風が巻き起こる。

 次の瞬間高く舞い上がって、エヴァは凄まじい速度で移動し始めた。


「――能力者ギフテッドか、ふふふ、面白そう」


 

『ふーん、それ本当?』

『は、はい! な、なんかユースでめちゃつえええ能力者がいるって! で、そいつはなんか、あれっす、魔法じゃなくて、能力を使ってるって!』

『能力って、どんなの?』

『なんか身動きが取れなくなるって話で……』


「――楽しそう」


 それからほどなくしてエヴァはユースに到着した。

 

 噴水がある場所に降り立つと周囲がざわめき立つ。


 この辺りは貴族が多い。故に飛行魔法がどれだけ稀有なのかを知っている。


 だがエヴァは周囲なんて気にしていない。


 彼女からすれば、嘲笑も憧れも、災難も、意味がないからだ。


「綺麗な所だなあ。とりあえず、悪い人でも探そうかな」


 悪人は情報通だと、エヴァは知っている。


 そして彼女は、夜の街に消えていった。

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