怠惰な悪辱貴族2巻発売記念SS(サポート限定)

  『大事なお知らせ』

 このたび、怠惰な悪辱貴族2巻が発売しました! 紙、電子ともに既に発売しておりますので、Amazonや書店でお買い求めくださるとありがたいです('ω')ノ

 連載開始時期に関しましては未定ですが、予定しておりますのでもうしばらくお待ちを。


 また、コミカライズが9月5日に開始します!

 web連載になりますので、皆様もご覧になられます。

 またご報告いたしますので、その際はよろしくお願いします。


 では、エヴァ・エイブリーの夏休み②をお楽しみください。


 ――――――――――


 安心安全のユース街、海水浴が盛んで、貴族から人気の街。


 だがノブレスはそんな街なんて作らない。

 

 原作では様々な分岐点が存在する。

 もちろんこの景色が綺麗なユースにも、裏のルートが存在した。


 それは――とてもとても難易度が高く――。


「あら、私の勝ちね」


 エヴァは知っている。この世界が美しくも腐っていることを。

 平和で安全な街なんて、国なんてないことを。


 その裏には腐った奴らが大勢いて、どれだけ人を苦しめているのかわかっている。


 そんなユースは賭け事が盛んだ。

 明るい内は家族連れが海水浴や食事で楽しむ。夜は大人がギャンブルに興じる。


 もちろん表向きはクリーンだ。

 争いもないし、卑怯なこともない。


 だが大金がかかっていれば別だ。


 安心安全のユース、とはいえカモは見過ごさない。


「また勝ちだわ」


 エヴァは天才である。


 それは何も戦闘に限ってのことではない。


 彼女は全てが最強である。


 もし彼女が音楽を極めようとすれば、おそらく生涯語り継がれる音楽家になるだろう。

 もし彼女が医療を極めようとすれば、おそらく世界中で大勢が救われるだろう。


 それが例え、如何様イカサマだらけの賭け事でも、彼女には勝てない。


 ほんの小さな綻びを、エヴァは見逃さないから。


「あら、どうしよう。また勝ってしまったわ」


 サイコロを振り続けるエヴァは、五つのダイスの全てを⑥の数字を出し続けていた。

 これは店からすればありえない出来事だった。


 だがエヴァは決して如何様に対し、如何様を使用しているわけではない。

 ほんの些細なサイコロの重心と機微で、最高を叩き出している。


 このままでは破滅する。

 ユースの裏の顔は、そう判断した。


「エヴァ様、少しよろしいでしょうか? 一日の換金できる金額が決まっておりまして、一度来てもらえますでしょうか? お飲み物をお出しします」

「もちろん構わないわよ」


 綺麗な黒服に呼ばれると、エヴァは上機嫌だった。


 これから起きることがどんなことかはわからない。

 だが何よりも訪れてほしいのは、困難。


 けれどもそんなことは起きたことがない。


 だからこそ期待している。次こそは――と。



「――で、能力者ギフテッドって知ってる?」


 それから数十分後、地面には男たちが転がっていた。

 全員が屈強な体格で、魔法や剣術に優れた男たちである。

 

 その一人の背の上で、エヴァは足を組んでいた。


「……あ、あんたもしかしてエヴァ・エイブリーか?」

「あら、こんな幸せそうな街で私のことを知ってくれているなんて光栄だわ」

「……ああ。ってことは、それを教えたら見逃してくれるわ?」

「そうね。でも、換金はしてもらおうかしら。せっかくだし、楽しかったから」

「……わかった。能力者ギフテッドは地下闘技場にいる。奴は突然現れて以来、ずっと勝ち続けてるんだ」

「ふうん? で、それはいつ開催してるの?」

「今日だ。良かったら案内しよう」

「話が早くていいわね。ありがとう」

「で、頼み――」

「はいはい、手を出さないでねってことでしょ。もうわかったから。悪人ってみんな同じことを言うのよねえ」

「……すぐ手配する」


 エヴァは大金を換金してもらうと、送金を頼んだ。

 それは彼女の故郷の国、そしてある団体に。


 気まぐれに彼女は善意もする。


 もちろん、本当に気が向いたときだけだ。



 ユース街の中心地下に、秘密の闘技場があった。


 そこに表には決して出ることのない腕利きの連中が名を連ねている。

 剣、魔法、何でもありの戦闘バトル

 

 カウントもない。

 敵が降参するか、死ぬか。それだけが唯一のルール。


 エヴァは面倒な手続きを全て任せて、出場登録をした。

 名前はもちろん、エヴァ・エイブリー。


 彼女は偽名を使わない。意味がないから。


 彼女の名が叫ばれると、闘技場は興奮の渦に包まれた。


 裏の住人は、目も耳も鼻も鋭い。


 エヴァ・エイブリーの姿を見たことがなくても、名を知らない奴はいない。

 だがみんなまだ疑心暗鬼だった。

 しかし闘技場で最強格に近い男が一撃で瀕死になり降参したことで、場が一気に盛り上がる。


「うおおおおおおおお、マジのエヴァかよ!?」

「やべえぜ、逃げようぜ」

「次、エヴァに賭けるぜ!」

「マジかよ」


 歓喜、恐怖、逃亡、傍観、それぞれの想いが交差するも、それでもエヴァは決してブレない。


 一回戦、二回戦と数秒で敵を倒し、彼女は能力者ギフテッドを待っていた。

 前回の優勝者は決勝戦になるとのことで、時間をかける必要はなかった。


 続く四回戦を終えたとき、ようやくたどり着く。


「グラビティ選手!」


 エヴァの前に現れたのは、小さな少年だった。

 といっても、ヴァイスと同じくらいだろうか。


 年齢はそう変わらないものの、身長が低い。


「……能力者ギフテッドってあなた?」

「そうだ。ボクは、負けない」


 エヴァは知らない。彼は特別な才能を持つ能力者で、原作では裏イベントのボスのような存在だ。

 妹を守る為に戦う少年、だがそれによって引き起こされる犯罪を見過ごせないアレン。

 ビルフォードタッカーを彷彿とさせる、それが開発者の考えた悲しいストーリーである。


「名前は?」

「グラフ、そう呼ばれてる」

「ふうん?」


『ルールなし、試合開始ッ!』


 グラフは全力で能力を発動させた。エヴァの頭上から黒い塊が出現すると、それが鉄以上の硬度と共に叩き落される。

 今までのグラフは手加減をしていた。人を殺したくはないからだ。

 だがエヴァを見た瞬間、手加減が出来なかった。


 少年もまた、エヴァに怯えていたからだ。


 だがエヴァは軽々しくそれを右手で受け止めた。


 そして笑う。


 面白い、面白い。構造もわからない。術式もわからない。


 これは――面白い。


 エヴァは攻撃を仕掛けなかった。


 グラフの攻撃を、魔法を、視る。視る。――視る。


 そして気づく。


 重力魔法の術式、そしてその構造に。


 満足したエヴァは、ふふふと笑った。


 ああ、この世界はまだまだ知らないことがあると。


 これはエヴァの言う通りだった。

 魔法ではなく、能力ギフトと呼ばれる設定がノブレスでは存在する。

 だがそれは隠されている。世界でも認知されていない。


 ――今はまだ。


 そしてエヴァはなんと、右手を挙げた。


「はい、降参しまーす」

「……なんで手を出さないの?」

「だって、私、かわいい少年は好きだから。それにあなたから嫌な魔力を感じないし」


 そういってエヴァはその場を去ろうとした。

 だが当然、それを許さない連中がいる。


 降参はルール上問題はない。

 だが大勢がエヴァに賭けていた。

 

 それを許さない連中がエヴァを叩くのは当然の考えだ。

 

 今までの敵を瞬殺していたが、それは1v1の話だ。

 更にグラフの攻撃を回避するが攻撃はしない。

 そんな甘い考えを持つエヴァを許すわけにはいかない。


 だがエヴァはご機嫌だった。


 嬉しそうに、そして闘技場の護衛に肩を掴まれそうになった瞬間、エヴァは覚えたての能力ギフトを使用し、その場にいる全員の頭上に黒い塊を出現させた。

 そしてもちろん、悪人だけに叩きつけた。


 それから闘技場は、二度と行われることはなかった。


 ――――

 ――

 ―


「エヴァさん、いってしまうんですか?」

「ええ。それに少年、もうあんな悪い事しちゃだめよ」

「でも、お金が欲しくて……」

「そもそも、なんでここに?」

「……売られたんです。妹は自国で……。突然能力に目覚めて、それで……そのお金を返す為に」

「ふうん。ま、よくある話ね。誰に売られたの?」


 エヴァは好奇心で生きている。

 故に感じたこと、思ったことはすぐに口に出すし、行動する。


「――です」

「そう、じゃあ帰るついでに潰しておくわ。後、船を手配しておくから帰りなさい。追っ手も来ないようにしておくから」

「なんで……そこまでしてくれるんですか?」

「さあ? 何となく」


 エヴァの行動には理由がない。

 好奇心と興味、ただそれだけである。


 本人もわからない。たとえグラフが数日後死んだと聞いても、エヴァはおそらくふうんと一言で片づけるだろう。

 本当にそれだけ、今この少年を助けようとするのも、ただの現象に過ぎない。


「じゃあね、いい能力お土産を頂いたわ」

「え、あうん。またね――エヴァさん」


 それからたった一日で、エヴァはユースでグラフを囲おうとしていた悪人どもを粛清した。

 グラフは自国に戻る船の途中、能力ギフトが消えていたことに気づく。

 

 だがそれでもよかった。自由になったからだ。

 そして妹と再会後、エヴァから大金が送金された――。


「さあて、何か面白い事ないかしら」


 そしてエヴァはまた、魔法の杖に乗って、どこかに消えていく。

 あるのはただ好奇心、それが、エヴァ・エイブリーである。

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