249 お買い物デート

 ウィザード、という国に俺たちは来ていた。

 貴族と冒険者の二つの顔を使い分けることができるが、今回はどちらでもない。

 

 その理由は、強者の湯を探す為の情報収集がしたいからだ。


 入国は貴族として、国内では冒険者として振舞う。

 これが一番面倒がない。


「ほう、結構栄えてるな」

「魔法使いの街、とも言われているらしいですわ」


 シンティアの言う通り、街は魔法で溢れていた。

 当たり前のように杖で空を飛んでいるヤツがいる。


 カルタと違って速度もゆっくりだが、魔法結界のおかげらしい。

 この国の中では特殊は魔力が施されていて、魔素が安定しやすいとのことだ。


 主に生活魔法を向上させると原作では書かれていた。

 最新設備のノブレスと違ってまだ発展途上、湯を沸かすにも一苦労するはずが、魔法のおかげで、ってことだろう。


「なんだかワクワクしますね。そういえば前から思ってたんですけど、シンティアさんは、魔法の杖を使わないのですか?」

「一応ありますわよ。――ほら」


 そういうと、シンティアは何でもない所から杖を出現させた。

 これは、シエラも使っているが、魔力を一定消費することで出し入れができる。


「ただ、私の場合は小回りが利くほうがいいですから。以前は使っていましたが、戦闘が激しいと邪魔になることが多いですし」

「なるほど……でも、飛行魔法で移動の時とかはいいですよね?」

「もちろん、その場合は使っています。といっても、魔力消費を考えると馬車のほうが効率も良いですですが」


 熟練した魔法使いは、杖を移動用として持っていることが多い。

 俺が使うなら走るほうが燃費がいいだろう。


 飛行魔法はそれほどの卓越した技術が必要だ。


 しかしエヴァも長距離移動は杖に乗っていた。

 とはいえ、便利なのは間違いない。


「だったら買うか? リリス」

「え、私のってことですか?」

「ああ、すぐに必要かどうかわからないが、いずれ使えるだろう。俺は持ってるが、新しいのが欲しいと思ってたんだ」

「欲しいです! あ、でもお金足りるかな……」


 ポケットからカワイイお財布を取り出し、お金を数えるリリス。

 ファンセント家からの給与も支払っているが、ノブレス魔法学園は当然だが無給だ。

 家柄のない彼女にそこまで金はないだろう。

 最も、冒険者としての仕事をメインにすれば違うだろうが。


「何してんだ?」

「え、ええと、やっぱりやめとこうかな……と思いまして……」

「俺が買ってやる。金には困ってないからな」


 当然リリスは断るが、強めに押し切るとお礼を言った。

 まったく、いつも世話になってるのはどっちだと思ってるんだ。


 そして、シンティアが少しだけ羨ましそうにしてた。

 いや、かなり羨ましそうだった。

 買ってほしいのではなく、その事実が羨ましいのだろう。


「シンティア、お前もだ」

「……ふふふ。でしたら、ヴァイスのは私が買いますわ」

「それなら意味がなくなるだろ」

「そんなことありません。気持ちが大事なのです。ねえ、リリス」

「はい! お気持ちが一番大事です! なら私は! ええと……いいお店を探してきます!」


 どういうことだ、と思った次の瞬間、リリスは高速移動で道行く人にお勧めの魔法箒店を尋ねていた。

 物おじしなくて愛想のいい彼女だからこそなせる業だ。


 ものの数分でいくつかの候補を調べ上げ、提案してくれた。


「ビーランド街が良いらしいですよ! いくつも並んでるらしいです!」

「ならそこへ行くか」

「リリス、ありがとうですわ」


 強者の湯は森の山奥と書かれていた。

 魔法杖を購入した後は、ならし運転でもしてみるか。


 

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