250 ちゃんと少年

 魔法使いの杖は、ノブレス・オブリージュの中でも高価な武具だ。

 その理由は明確で、希少価値が高いからである。


 魔力値の高い木を削ったあと、特殊な加工を行うが、どれだけ腕のいい鍛冶屋でも、工程中に杖から魔力が消えていくこともある。


 高い技術力だけではなく運まで必要なのだ。


 もちろんこの世界も原作と同じ。


 カルタがいつも手にしている杖は、ざっとみても大金貨5枚はくだらないだろう。

 わかりやすく言えば、王都で一軒家を買えるくらいか。


 ただ彼女のだけが特別で、普通はある程度、手ごろなものを持っている。

 人によってはシエラの鎌のように刃をつけるものもいるが、術者の魔力や能力が高くないとすぐ壊れてしまう。


 俺はファンセント家の杖を持っているが、そもそも飛行魔法がうまく扱えないと魔力効率に難がある。

 単純な移動用と割り切れば問題ないが、いつどこで襲われるか分からないこの世界では使いどころも限られる。


 だがそれでもこの世界において大勢が憧れる魔法の杖。


 その最大の理由は――。


「……ファルコンニューバージョン2000か。新作が出たとは知らなかったな」


 カッコイイからだろう。

 老若男女問わず魅了する形、デザイン、飽きのこないこの洗練されたフォルム。

 

 希少価値が高いからこそ得られる快感もある。

 俺は興味ないが、大衆はそういうのが好きだ。


 まったく、何がいいのかわからないな。


「シンティアさん、ヴァイス様って意外にもこういうの好きなんですね」

「みたいですね。でも、杖を眺めている彼は少年みたいで素敵ですわ」


 俺たちは、街で一番大きなお店に来ていた。

 魔法の杖が壁に並んでいて、先端に特殊な加工、魔力増強の宝石が埋め込まれていたりする。


 ノブレス魔法学園でも魔法の杖の持ち込みは当然可能だが、基礎能力を上げることが目的なので個人武具の所有には厳重な審査が必要だ。

 俺が使っている魔法剣は報酬なので特別だが、それぞれ面倒な審査を終えている。


 しかしこの手触り……いいな、非常にイイ。


「……欲しい」


「確かにシンティアさんの言う通り、少年みたいな目してます」

「全部買ってあげようかしら。お店ごと買うのもありかもしれません」


 最新型にはデメリットがある。

 それは、戦闘耐久力が低い事だ。


 こういった大きな店の杖は、魔素力の高い国内での運用を考えられている。

 敵と戦いながら使う可能性も考えると、俺たちには合わない。


 せっかくリリスに調べてもらって申し訳ないが、次だ。


「行くぞ、シンティア、リリス。違う店にいこう」


 そう言いながら、店を出る。


「ヴァイス様、また入口で止まってますね」

「可愛いです。全部の杖をプレゼントしたいですわ」

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