063 理不尽な化け物

 洞窟の入口に到着したが、明かりは消えていた。

 中から微力な魔力を感じるが、遮られているかのように何もわからない。

 

 やはり原作通り、罠にかからなければ知る由はない。


 この先、足を踏み入れると後には退けないだろう。


 危険度は高い。


 だが俺が行かなければ、まだ発展途上のオリンは確実に死ぬ。

 こうしている間にもその可能性は上がっているだろう。


 それでも俺は見捨てるつもりだった。


 だが、心が、奥底のナニカが、それを拒否している。


 ……どうすればいい。


 ああ……クソ。


 しかしその時、なぜかアレンを思い出す。


 あいつなら……原作を知っていたとしても迷わず行くだろう。


「……バカだな、俺は」


 そして俺は、洞窟の中に入っていった。


 途中で、違和感をくぐった感じがある。魔力ゲートのような、不快なゼリーみたいな感覚だ。

 罠にかかった、そんな感覚に陥った。


 洞窟はそこまで奥行きはない。岩肌がゴツゴツしていて、不自然さは特に感じられない。

 奥から強い魔力を感じる。


 単純なトラップであればまだよかったが、おそらく最悪のパターンだ。


 だが魔物や生物にも当然レベルが存在する。

 あいつよりはマシ、という魔物はいるのだ。


 最弱なんて虫の良い事は言わないが、できるだけ弱くあってくれと願った。


 だが目の前に現れたのは、俺が知っている中でも、最悪・・な上級魔物だった。


 全身が黒く、人型で、両耳は鋭く長い。

 身長は俺以上だ。魔物というよりは、悪魔というべきか。


 個体名は【デーモン】、人間を殺す事が好きで、魔力はあり得ないほど高い。


 属性は闇、俺の攻撃と相性は最悪だ。


「ftgyふjmgめげf?」


 俺に気づいて、デーモンは叫んだ。魔物と違って知恵があるので、何か言葉を話しているように思える。

 奥で倒れているのは、何度か見た事がある女子生徒だった。

 リリスではないことに内心ホッとが、オリンが前に出て守っている。


「ヴァイス君……ごめんボクのせいで――」

「黙ってろ。今はいい」


 俺は隙を伺っていた。先手は大事だとわかっているが、悪魔は何をしでかすかわからない。

 オリンは女子を庇いながら魔力を漲らせた。手の平をデーモンに向けて――放つ。

 驚いたことにカルタほどではないが、大きな魔力砲だった。それでも凄まじくデカい。


 だが悲しい事に、それ・・は魔物に当たらすことなく目の前で散り散りに消えた。

 

 原作通り、不可避バリアがパッシブ状態であるのだろう。


「7hこwwがww!!!」


 そして悪魔は、人差し指・・・・を向けた。

 その先から放たれるのは邪悪な黒い魔力、禍々しい闇が凄まじい速度で細く、強力な力で打ち込まれる。

 

 オリンは、初期魔法の魔法盾シールドで防ごうとするがそんなものでは防げない。


 俺は、オリンを助ける為、前に出ると、闇と光の魔法剣デュアルソードを構えて、閃光タイムラプスで術式を解除し、デーモンの魔法攻撃を破壊した。


「凄い……」

「こいつに魔法は無意味だ。むやみやたらに打つなよ」


「wtぼhさふぁwwtt!」

 

 よしんば不可避バリアを破壊したとしても、闇魔法で身体が覆われているので、生半可な攻撃は食らわない。

 いや、たとえ与えたとしても……だが。


 デーモンは完全にプレイヤーを殺す為だけに配置されている。本来は魔界にしか生息しないはずの悪魔だ。


 人間界に落とされたの経緯なんて俺たちプレイヤーにとっては知る由もないが、どうせ理不尽な事がこいつに降りかかったのだろう。


 説得も無意味。

 明らかに気が立っている。


 さて、どうするか。


「この子は気絶してるみたい。生きてるみたいだけど、目を覚まさないんだ」

「おそらく眠らされている。使役した魔物はもういないのか?」

「全部やられちゃった。でも、ボクだって戦える」

「そうか。だがむやみやたらに攻撃するなよ。俺が指示する」

「……わかった」


 デーモンは、過去俺が戦った魔物でも最強クラス。


 今はまだ相手は余裕ぶって舐めている。だからこそその隙を見つけて叩く。


 後は……原作通りじゃなきゃいいがな。


 ――【癒しの加護と破壊の衝動】。


 俺は地面に手を置いて、デーモンに異常耐性デバフを与えた。

 その全てが俺加護バフとなって降り注ぐ。

 竜のときほどではないが、禍々しい魔力が身体に注がれていく。


 オリンたちを味方指定してもいいが、耐えきれない異質な闇魔力だ。


 間髪入れず、観察眼と閃光を使用しながら駆ける。


 デーモンは理解不能な言葉を叫びながら俺に手を向け、さっきよりも強い闇魔力砲を放った。


 普通の奴なら防ぐことも視認することもできないだろう。

 だが俺の属性は闇、更に閃光タイムラプスで術式の解除もできる。


「効かねえよ」


 強く握りしめた魔法剣デュアルソード、だが直前でふっと力を抜く。

 オリンから教わったやり方だ。驚いたことに、やはり魔力移動がスムーズだった。


 デーモンから奪った魔力が変換されて、禍々しい魔力が剣に宿る。

 更に光で薄く覆うことで、闇に対する攻撃力が倍増した。


「gyhがwじょあw」

「何言ってんのかわかんねえよ!」


 不可避バリアで受け止められるが、構わずに叩き切る。

 ガラスが割れたような音が響き、そのままデーモンを叩き切る。


 黒い血が勢いよく飛び散り、返り血が俺の身体に付着する。


 後ろのオリンが喜びから叫んだのがわかった。


 デーモンはその場で悲痛な叫び声を上げながら苦しみ、そして倒れこむ。


「凄い、ヴァイス君!」

「急げ、出るぞ!」


 だが俺は有無を言わさず声を掛けた。

 オリンは驚きながらも気絶している女子生徒を抱える。


 三人で外に出ようと洞窟の外に向かうが――。


「え、出れない……。これは、結界!?」

「……やっぱりか」


 原作通りだ。


 最低最悪の罠。もしかしたらと思ったが、どうやらノブレスはやはり甘くないらしい。


 こういった場所は一度入ると決して抜け出せない。


 だが俺にコンテニューは残されていない。


 閃光タイムラプスで確認してみたが、プログラムのエラーコードのような羅列が表示された。

 術式の解除は不可能。


 だがどこかに綻びがあるはず。

 それを見つけないと――。


「ヴァイス君、後ろ!」

「――ちっ」


 後ろから、さっきより倍以上も強い闇魔力砲が放たれる。

 寸前で回避するも、壁にぶち当たり、とんでもない轟音が響く。

 しかし壁は破壊不可能らしく、傷はつかず、逆に破壊して逃げ出すこともできないとわかってしまった。特殊な魔力できているのだろう。


「ghじくぁぐぁたww!!!」

「な、なんで……こいつは生きてるの……」


 オリンが怯えている。こいつは――。


不死身・・・だからだ」


 だが倒さないと道は開かれない。

 しかし何度でも復活する。


 唯一の脱出方法は【死】。


 原作でも死ぬほど叩かれていた。


 こんなクソみたいな展開イベント、そして悪魔を出すんじゃねえよと。


 当時は俺も思っていた。同じように怒りをぶつけて書き込んだくらいだ。


 だが俺は今までのことを思いだす。


 本当に……倒せないのだろうか。


 俺は負けイベントをクリアし、不可能とされていた竜を討伐、剣魔杯をも優勝した。


 ノブレスは理不尽なクソゲーだ。だが最高に面白い。


 なら……隠されたクリア方法があるはずだ。


 俺がすべきことは一つ。


 それを見つけるまで、何百回でも何千回でもこいつを倒せばいい。


「かかってこい不死身クソ野郎。何度でも地獄に突き落としてやるよ」


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