062 選択
「
身体に巻きつけられた植物の弦、土属性だろうか、上手く魔法と絡めて利用している。
下級生の後半ともなると、オーソドックスな魔法だけじゃなく、独自に練り上げた術式が増えていく。
それがまたこのゲームの難易度を上げるのだが、面白くもある。
だが俺は――魔力を漲らせて全てを弾き飛ばす。
「……な、なんだと!?」
「仕組みは面白いと思うぜ。――じゃあな」
容赦なく叩き潰し、リングを三つ奪い取る。だがリリスの時と同じく、とどめは刺さない。
こいつがまたどこかでリングを集めれば、俺に回ってくる可能性があるからだ。
終盤は美味しい。今まで必死に集めていたリングをまとめて奪える。
だが下級生といえども、厄災を乗り越えた
今の奴も原作では一度も日の光は当たっていないが、明らかに強い。
あァ、最高だ。
残り時間は詳しくわからないが、そう長くはないだろう。
リリスを倒した後は大勢と遭遇し、俺はリングを30個も所持していた。
リングは数が増えると勝手に縮小していくので楽だ。重さも魔力で軽くしているのだろう。
ジャラジャラとうっとおしい事になると思ったが、そのあたりは考えているらしい。
また、原作でなかったことが追加されていた。
それは、リングに微力な魔法が付与されていることだ。
香りづけのように四大属性がほのかに。それによって、火属性を持つ人は火リングが見つけやすくなる。
公平を期す為に万遍なくみたいだが、これは決して生徒に楽をさせるわけではなく、むしろ逆、かなり性格が悪い。
本来は分け隔てなくリングが見つかるはずが、そうではなくなる。
するとどうなるか?
さっきの奴みたいに、一人が多く見つけるのではなく、探している途中で生徒同士が遭遇しやすくなる。
きっと、ミルク先生の悪知恵だな。あくまでも俺たちを戦わせたいのだ。
道中アンデットモンスターとも遭遇しているが、今の俺にとっては大した強さじゃない。
時折、阿鼻叫喚は聞こえるので、苦労している奴は大勢いるんだろうが。
そしておそらく、俺はかなりのリングを独占している。
きっと原作以上にリングゼロが出るはずだ。
明確な数字はわからないが、ミルク先生念押しするということはかなりのポイントが減ると予想される。
おそらく何人か退学者が出るだろう。
少し残念に思うが、選別は大事だ。雑魚が増えると次の厄災時の足手纏いになる。
仲間は必要だが、強くなきゃ意味がない。それがよくわかった。
それからグールと遭遇、粉々にした瞬間、少し離れた場所で複数人の気配に気づく。
そのうちの一人は、よく知った奴だった。
……さて、どうするか。
▽
「お前ら、そっちに回れ!」
「いいぞ! クソ、なんだこの魔物……めんどくせえ!」
「へへっ、バカめ! オリン、そこは通れないぞ!」
男が三人、他クラスとも合同ということもあって見覚えはない。
腰にはリングが一つずつ。
「ああっ、う……」
数の不利もあってオリンは追い詰められ、地面に倒れこむ。
おそらく罠を仕掛けていたのだろう。オリンが足を踏み入れた瞬間、土が柔らかくなり沈み、そして固くなった。
単純な手だが、暗闇の中ではかなり有効だ。
「ピピピピル!」
倒れたオリンの前に、小さなリスが立ちふさがる。
男子生徒たちはそれを見て笑み浮かべた。
「ははっ、使役できるってもこの程度じゃなあ?」
「結局、才能はあるけど努力はできないって奴じゃね?」
「違いない。じゃあなオリン、悪く思うなよ」
そして男子生徒たちは、オリンに剣を切りつけようとした。
だが驚いたことに、リスは凄まじい速度で動いた。
その場から姿を消し、俺しか見えないほどの高速移動をして、一人の生徒の顎に――頭突きした。
「――なっ……・」
「おい、おい!? 大丈夫か!?」
「クソ、てめえ何しやがるんだ!」
「ピピピ!」
だが残りの奴らもバカじゃない。
すぐにリスを魔法で束縛させた。
オリンは目を瞑っていたが、魔力を流し込み、リスを操作していたのだろう。
一流の使役は、魔物を自身の身体のようにも動かせるし、自動でも動かせる。
将来のオリンは、どんな魔物も使役できるようになるだろう。
そして死を前提として、魔物となって突撃することもできるだろう。
更にそれは身体能力の高い個体、もしくは空を飛ぶ魔物でもだ。
これほど恐ろしい特攻はない。まあ、オリンがそこまでするかはわからないが。
「クソ、オリン、お前は試験終了まで眠ってろ!! 退学になれクソが!」
そんなオリンに無情にも剣を突き刺そうとする――。
が。
「――――え、あ、え、ヴァイス君!?」
「いい見世物だった。サーカスには入場料を払わなきゃな」
「え? サーカスって……」
今のはただの冗談だが、よくみるとこいつらは俺がリングを奪った男性生徒たちだった。
原作でオリンはこんな所で退学にならない。
だが俺のせいで改悪したのだろう。
ただそれでも弱ければオリンが死ぬのは仕方ないと眺めていた。
だが、あれほどの才能の
「な、なんだよヴァイス! なんで助けるんだ! お前……もしかしてオリンのことが――」
「…………死ね」
俺はいつもより力を入れ、一人を倒した。
訓練服でなければ確実に死んでいたであろうオーバーキル。
うめき声も上げずに倒れこむ。
お前……変な噂を流したら殺すぞ?
「ク、クソ! つ、強いんだから弱い者いじめなんてするなよお!」
「はっ、面白い返しだな」
今までの相手は気絶まではさせなかったが、今の俺は滾ってる。
こいつらが眠っている間にアンデットにやられて死のうがしったこっちゃねえ。
むしろそのほうが変な噂を立てられずに済むか。
――死ね――。
「ピピピル!」
「……あ?」
するといつのまにかリスが魔法を破って、最後の男子生徒の前で盾になっていた。
寸前で剣を止める。後数センチ遅かったら、このリスは真っ二つになっていただろう。
しかも俺の
こいつは魔物だ。死体も残さず、粉々に散っていたはずだ。
てか――。
「なんでこいつらを守る? お前はやられるところだっただろうが」
「……その人まで気絶しちゃうと、三人とも死んじゃう」
ああ……オリンが一番人気だった理由はこれだ。
損得勘定なんてこいつの頭にない。
アレンは己の正義の為に動いている。
その倫理観はあくまでも人間で、その為なら手段を問わないだろう。
悪人なら迷わず叩き切るはずだ。
だがオリンは違う。
命を狙われていたというのに、その事は既に頭からないのだろう。
……ったく。
「
俺は手を伸ばす。オリンは驚いた顔で土から這い出ると、はあはあと息を整えた。
「……変わらないって?」
「気にするな」
原作でも最初は賛否があった。いや、否のほうが多かったか。
お人よしキャラってのは案外好かれない。
どちらかというと自己中で、躊躇がない奴のほうがいい、それが最近の価値観だ。
だがそれをぶっ壊すほどの善をオリンは持っている。
そんな希少生物は、このノブレスでも珍しいからなァ。
けどまあ――。
「おいお前、全員分のリングを寄越せ」
「ひ、は、ひは」
「殺すぞ?」
「は、はいいいいいい」
こいつらはおそらく退学になるだろうが、そんなことはしったこっちゃない。
持っている分は全部もらう、当たり前だ。
「ヴァイス君、容赦ない……」
「あ? 文句あるか?」
「え、へへ、でも、ありがとう」
俺は全てのリングを回収した。
二人気絶しているが、一人でも起きていれば死ぬことはないだろう。
後は――。
「オリン、リングを全部よこせ」
「え、えええ!? な、なんで!? 助けてくれたんじゃないの?」
「同室のよしみとリスの見学代で助けただけで、そこまで優しくはない。お前なら残り時間で一つぐらい探せるだろ」
「ふぇええ……わかった」
涙ぐみながらいそいそと腰に手を当てる。
そして差し出されたリングは、驚いたことに10個だった。
「……多いな」
「えへへ、実は暗闇に強い子もテイムしたんだ。離れた場所にいるからすぐに動かせなかったけど」
てへぺろりん、舌を出して右拳を頭にこつん。
……ふ、まだ大丈夫だ。
しかし二匹も同時に使役してたのか。
「俺は行く。次に何かあっても助けないからな」
「わ、わかった。でも、ヴァイス君、噂と違って優しいんだね。びっくりしちゃった」
「殺すぞ」
いろんな意味で早くここから離れよう。
危険だ。
周囲に魔力はない――。
「ぁぅぁぁあああぁあぁぁぁあぁああぁあっっっ」
その時、遠くから女の叫び声が聞こえた。
ふと視線を上げると、山の頂上付近が光っている。
あれは……
俺は急いで
すると、とんでもない魔力を感じた。
「こんな時に……」
あれはエサを捕食するアンコウの光ようなものだ。ノブレス・オブリージュには、時折、プレイヤーを誘う罠のようなものが出現する。
そういった開発陣の遊び心みたいなものを当時は楽しめたが、今はそういうわけにはいかない。
出現場所、タイミングによっても違うが、笑ってしまうほどの
どんな化け物か調べるためには、自ら罠にかかるしかない。
だがほとんどがクリアを前提としていない初見殺しのようなものだ。
命を失う危険性は非常に高い。
特定の状況が出揃った時に現れるのだが、それは原作でもランダムだ。
誰かが、どこかで条件を満たしたのだろう。
「今の声、聞いた!?」
……オリンの奴がいることを忘れていた。
こいつの性格を考えると……まずいな。
「……ああ、魔物か下級生と戦ってるんだろう。放っておけ」
だがオリンは、目をつぶった。
何してる?
「……違う。何者かに襲われてる。――ダメ、危ない。あっ、やられた……」
「オリン……何を見た?」
「使役していた魔物を使って洞窟の中に入った。でも、やられちゃった……。それより、マズイ! 女の子が襲われてる!」
「女の子? 誰だ?」
「わからない。顔までは見えなかった」
その瞬間、俺は――リリスを思い浮かべた。
いや、ありえない。いくらリングが欲しくても、彼女なら絶対に罠になんて引っかからない。
それよりもオリンが覚悟を決めた顔をしていた。
「何を考えてる?」
「……助けに行く」
「……ダメだ。お前も気づいただろう。あの中にいる魔物は化け物だ、行けば死ぬ」
「でも……」
オリンの目は答えていた。必ず行くと。
だが――。
「行かせない」
俺は剣を構えた。こうなれば気絶させてでも止める。
開発陣のお遊びで無意味に死なせるわけにはいかない。
オリンのことが心配なわけじゃない、これは、破滅回避の為だ。
「ヴァイス君、行かせて」
「ダメだ」
これで納得するとも思えない。やはり気絶させるか――。
「ピピン!」
するとオリンは、驚いたことに躊躇なくピピンを使って俺を攻撃してきた。
想像以上の高速移動、そして破壊力だった。
剣で受け止めるが、思わず身体がのけぞる。
「ヴァイス君ごめん、助けてくれてありがとう!」
だがその短い時間を使ってオリンは森の中に消えていった。
追いかけようとした瞬間、左右からアンデットモンスターが襲いかかってくる。
秒速で駆逐するが、空から風を切る音が聞こえる。
向かう先は、当然のように洞窟だ。
「ああ……クソ……」
罠には無数のパターンが存在する。
魔物、異形な生物、突然出現するダンジョンみたいなものだ。
共通しているのは、ありえないほど難易度が高いこと。
もしここでオリンを失えばかなりの痛手だろう。
破滅回避の難易度が上がるのは間違いない。
それでも着いていくありえない。助けにいくなんて、自殺に等しい行為だ。
だが……なんだこの奥に湧き上がる何とも言えない感情は。
俺じゃない、これは……
……クソ。
「……
気づけば俺は、空を駆け上がって洞窟に向かっていた。
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