314 五分前

 生徒たちに魔力の刃が到達する5分前。


 ミルクは不敵な笑みを浮かべていた。

 だがそれを見ながら眉をひそめていたのは、ダリウスだ。


「本当にやるのか? 気が引けるなあ……」

「お前がやりたくないなら私だけでやる。だがこれも生徒の為だ。油断や驕りが如何にクソなのかを、一撃で教えてやれる」

「……そりゃそうだろうけどよお」

「お前がそこまで申し訳ないと思っているのは、大勢がやられるとわかっているからだろう? だからこそだ。心を鬼にしろ」


 辛辣な言葉を投げかけるミルクに、ダリウスは肩をすくめた。

 そのやり取りをみて微笑んでいたのは、ココ。


「いやー流石ミルク先生。教員の鏡ですねえ。私も精一杯頑張らせていただきます」

「ああ、助かる」

「私はこのやり方に賛成できません。一撃で大勢の生徒を倒すのは教育とは程遠いですから。――しかし、面白いとは思います」


 普段は笑みを浮かべないクロエだが、ほんの少しだけ頬が緩んでいた。

 物事を論理的に捉える彼女にとってからしても、ミルクの先手・・は予想外だったからである。


 だがそれが、面白いと。


 ダリウスは自分の頬をパンパンと叩いて、大剣を構えた。

 魔力を漲らせると、ココがパイプを咥えながら笑う。


「相変わらず規格外な魔力だねえ。絶対に戦いたくないねえ」


 しかし先ほどまでと違い、ダリウスは全神経を集中していた。

 ココの声も聞こえていないらしく、ただ静かに遥か先の生徒たちを眺めている。


 それに気づいたミルクが「ふっ」と微笑んで、ココとクロエに声をかける。


「私とダリウスで攻撃を仕掛ける。ココ先生は飛ばした魔力を研ぎ澄ませてもらえますか」

「りょーかいっ。防御不可能な術式を編み込んでおくよ」

「助かります。クロエ先生は――」

「中間地点まで刃を飛ばしたらいいんですよね。了解です」


 ミルクの言葉を遮りながらも、クロエが何を言われるのかを察知して答える。

 それに対しミルクは怒ることもなく、むしろ嬉しそうに魔力を漲らせた。


 ああ、すべてを任せていいんだと。


「ダリウス、私がお前の攻撃に上乗せする。遠慮なくやれよ」


 ダリウスはミルクの問いかけに答えなかった。

 だがより一層魔力を漲らせて返す。


 試合開始十秒前、ダリウスは大剣を思い切り横に滑らせた。

 豪快な体格からは思えないほど洗練された無駄のない動き。


 時間ピッタリに辿り着く計算までしている。


 砂埃がまうと同時に、刃に付着して魔法の刃となった。

 その瞬間、ミルクが刃を研ぎ澄ますかのように上乗せして、ココが術式を遠隔で付与する。


 そしてクロエが両手をかざして、魔法を転移させた――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る