313 先手

 教師陣の姿が完全に見えなくなって数分が経過したころ、魔法鳥が空を旋回し始めた。

 これは始まりの合図だ。


『――それでは、作戦通りにお願いします。説明していた通り、四つの――』


 最初の作戦はセシルが伝えてくれた。

 部隊を四つに分けて、まずは祠を見つける。


 ココがどれだけの防御を覆っているのか、展開しているのか。

 規模や大きさ、更には残りの祠への距離まで。


 人数は圧倒的だ。荒野は広いが、こっちのアドバンテージはデカい。


「試合開始、一分前、一分前!」


 アレンが、シャリーが、デュークが気合を入れていた。

 カルタ、トゥーラ、オリン、セシルもだ。


 ルナはシンティアとリリスと話している。


 俺も静かに目を瞑った。


 試合が始まれば最後まで駆け抜けるだけだ。

 休むタイミングなんてもうないだろう。


 分析も考察も死ぬほどした。


 ミルク先生に、教員たちに、俺は勝つ。


「試合開始、十秒前、十秒前!」


 ふうと息を吐く。


 だがそこで俺は、何とも言えぬ感覚に襲われた。


 小さな違和感。そして、ミルク・アビタスという最強の冒険者の去り際の微笑み。


 俺はいつも口酸っぱく教えられていた。


 ――先手を取れと。


 だが今回は祠を守る戦い。


 攻撃と守備が分かれているようなもの。


 ……だが、本当にそうか?


 本当に、ミルク先生は――。

 

 そのとき、俺はセシルに顔を向けた。

 思い切り叫ぼうと。


「セシル――」

「ファンセントく――」


 だが驚いた事に、彼女も気づいたらしい。


 全身に鳥肌が立つ。


 この魔法鳥のカウントダウンは――ただのスタートじゃない。


 攻撃の――合図だ。


『みんな、急いで上に飛んで――』

「お前ら、飛べ!!!!!」

「――試合開始、試合開始!!!」


 俺とセシルの言葉で反応できたのは、中級生では半分くらいだった。

 もちろんアレンたちもだ。


 シンティア、リリス。下級生では、ベルクとメリルも。


 直後、遥か奥から、とてつもない威力の刃が飛んできた。

 トゥーラの一刀両断を遥かに凌駕する大きさ、それも目で追い切れないほどの速度。


 砂埃をあげながら到達した魔法の刃は、大勢の生徒の訓練服を一撃でぶち壊した。

 中には防御を唱えたものもいるが、全員が叩き潰されている。


 魔法は距離が遠ければ遠いほど威力が下がるし、精度も下がる。

 遠くに視線を向けても教員の姿は見えない。


 一斉に、脱落者の名前が流れていく。


 これをやろうと言い出したのは、間違いなくミルク先生だろう。


 いや、最強の冒険者。


 ミルク・アビタスか。


 ハッ、おもしろい。


 今日ばかりは敵だ。全力を、出してやる。


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