312 ピリついた空気

 試験の前のピリ付いた空気が好きだ。


 全員が気合と魔力を漲らせて、今までの訓練の成果を出そうとしている。


 特に中級生は多くの試験を乗り越えてきた。上級生との戦いで何もできずに堕ちた奴もいるだろう。

 だからこそ次こそは必ず、と。


 しかしそれは俺が一番思っている。


 アレンに美味しいところを取られたのだ。


 我慢はできても、身体の疼きは抑えられない。


 ミルク先生、ダリウス、ココ、クロエ。

 誰が相手でも、俺の全てを出し切ってやる。


「私たちの姿が消えた後、魔法鳥が試合の開始を叫ぶ。それが、スタート・・・だ」


 最後、ミルク先生がそう言った。

 クロエの転移魔法は温存するらしく、とてつもない速度で走っていった。


 なるほど、教員も本気だということか。ありがたい。


 だがほのかに笑っていた気がする。


 ……おそろしいな。


「ヴァイス先輩っ!!!」

「……なんだ」

「頑張りましょうね! めちゃくちゃ動くんで指示お願いしまっす!」


 いつものようにバカ元気なベルク。

 だがま、頼りにはなるか。


「セシルの指示通りに動けばいい。下級生を纏めろよ」

「うぃっす! あ、でも俺よりメリルのほうが……」


 そういいながら少し申し訳なさそうに視線を向ける。

 優等生のメリルが、下級生に指示を出していた。


 なるほど、まだまだ負けてるんだな。


「頑張れよ、お前も」

「はい! 今回、めちゃくちゃ活躍するんで! もしよかったなと思ったら、また手合わせしてもらませんか!?」

「なら結果で見せろ」

「はい!!!」

 バカでかい声はうるさいが嫌いじゃない。

 意気揚々とメリルに絡んでいって、頭を思い切り叩かれていた。


 ハッ、女に尻を拭かれるとは、あいつもまだまだ――。


「ヴァイス、ルナさんへのプレゼントは喜んでもらえたみたいですね」

「はい。とても喜んでもらえたみたいです」

「どうして敬語なのですか?」

「……なんとなく」

「ヴァイス様はモテモテです!」

「リリス、それは今じゃない」

「はい!」


 さて、気合も十分だ。

 

 ――デビ、お前の力を見せるときが近づいてきた。


 ――楽しみだなァ?



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