150 見たこともない景色
ノブレス・オブリージュが大人気だった理由は、訳の分からないイベントが無数に存在することだ。
バトル、涙、友情、勝利、敗北、苦難。
そして――。
「ひょー! いいねえいいねえ! やっぱ夏は海だよな!」
「デューク、前より筋肉凄くない……?」
「はっ、日々鍛えてるからな!」
「……ふん」
筋肉だ。鍛え抜かれた腹筋、胸筋、背筋、三角筋、上腕二頭筋。
俺とアレンも身体を虐めに虐めぬいている。
ノブレスの最新施設を利用、栄養バランスの良い食事、魔力トレーニング。
だがそれでもデュークは一回り、いや二回りはいい筋肉だ。
夏の日照りと海、砂場を前にしたこいつの身体は、確かに美しい。
……クソ、負けを認めたくねェ。
「ま、俺より成績が低いけどな」
「なんだとてめぇヴァイス!?」
「ははっ、確かにその通りかも」
……よし。これで大丈夫だ。
身体のケアもそうだが、心のケアはもっと大事だからな。
――なあ、
「お待たせ―!」
そのとき、後ろから海まで届きそうな明るい声が響いた。
振り返らずともわかる。シャリー・エリアスだ。
海で泳ぐのは面倒だが、身体が疲れているほうが飯は美味い。
その為に俺は来た。
決して水着が見たいなんてことはない。
ま、少しぐらいは原作ファンとして気になるが。
気だるく振り返ると、まるでゲームのサービスシーンのように女子が横に並んでいた。
シャリーは、純白なフリルのついた水着だ。くびれが綺麗で、明るい笑顔と相まって肌も引き締まってみえる。
「ヴァイス、見惚れてますか?」
「えへへ、新作ですよ! ヴァイス様!」
シンティアは黒いワンピース型の水着。布面積が広くボディ全体をカバーしているが、ありあまるたゆんがいい感じに主張している。
リリスは、ブルーノワンショルダービキニで、片方の肩が露出し、なんかこう、いい感じだ。
「ヴァイス殿、私たちのも見てくれ!」
「トゥ、トゥーラさん!? そ、そんな!?」
「あら、カルタさんは恥ずかしがり屋なのね」
トゥーラはモノキニと呼ばれるタイプの水着を着ていた。前から見るとワンピース型、後ろから見るとビキニに見える水着で、あまり詳しくはないが、たゆんが凄い。
カルタはやはりスクール水着だ。なぜいつもこのタイプなのかわからない。その事に言及はしないが、たゆんたゆんたゆんたゆんが零れそうだ。いや、こぼれている?
セシルは意外にも正統派なビキニだった。ピンク色で、スタイルが凄くいいので足が長い。知的な眼鏡と相対して、いいかもしれない。
そもそも水着にく詳しくないので見せられても困るんだが……。
「ボ、ボクはどうかな?」
その時、理外、意識の外、横から声がした。
オリンだ。
俺とデューク、アレンが急いで首を振る。
どっちだ? という声が思わずでそうだった。
だが以前と同じくラッシュガードを上に着込んでいる。
しかし太ももは白く、まるで筋肉なんてないようなモチモチ肌だとわかった。
……あれ、てかなんでこいつは後から来たんだ?
どこで着替えてた?
「ヴァイス、何を見ているのですか」
「気のせいだ。――ま、全員……いいんじゃねえか?」
俺の一言で、なぜかその場にいたみんなが喜んでいた。
ったく、浮かれやがって。
「アレン……どうかな?」
「いいと……思う」
そして近くでは、シャリーとアレンがいい感じだった。
なんだかムカついたので手に持っていたボール(決して遊ぼうとしたわけではなく、鍛える為に持ってきた)をアレンに投げようとしたが、先に投げられていた。
「いたっ!? デューク、なにすんだよ!?」
「うるせえ! そのくらいで勘弁してやる!」
「ど、どういうこと!?」
まったく、この鈍感主人公前向き野郎め。
「ほらヴァイス、行きましょう!」
「ヴァイス様、ほらほら!」
「……ああ」
まあでも、身体をほぐすに水はいい。
――少しぐらい楽しむとするか。
それから俺たちは、ボールで鍛えたり、水を掛け合って身体をいやしたり、太陽の紫外線に負けないように訓練したりした。
途中、オリンが「暑いなー。コレ、脱ごうかなー」と、ラッシュガードをチラチラパタパタさせていたとき、ついつい視線を向けてしまったのは秘密だ。
すっかり日が暮れ、食事の用意も俺たちだけでやる予定なので海を後にした。
ちなみにデビにも羽を伸ばさせてやった。
ま、楽しかったかもな。
しかし帰り際、デュークが空の曇りを見ながら「なんか雨が降りそうだな」と言った。
確かに曇っていた。一応、使用人たちと手紙鳥で連絡はできるが、大雨の場合は不可能だ。
それはまるで何かを示唆しているかのようにも思えた。
「すごーい。ひろーい!」
「ほう、いい調理器具が揃ってるじゃないか」
屋敷に戻り着替えを済ませた後、調理場で集合した。
今日はノブレスカレーを作る予定だ。
ちなみになぜ旅行の定番でカレーが多いのかというと、分量が適当でも美味しく作れるのと、煮込むことで食中毒のリスクが減るらしい。
魔法冷蔵庫を開けると、食材が軒並み揃っていた。
さすがソフィアの屋敷だ。品を見てみたが、どれもよい物ばかりだった。
「ほう、いいジャガイモだな」
「なんだヴァイス、料理なんかできるのかよ?」
「当たり前だろ。俺を誰だと思ってるんだ?」
「僕も結構料理は好きだなー」
「なら勝負だ。誰が一番うまいカレーを作れるか」
「何でも勝負にする癖あるよな……」
「逃げるのか? デューク」
「なんだとぉ? そこまで言うならビリリアン家特製カレーを見せつけてやるよ!」
「僕もじゃあオリジナルにしよーっと」
そういって俺たちは、カレー勝負をすることにした。
剣と包丁、ナイフの扱いは男のたしなみだ。
しかし想像以上に二人ともテキパキとしていた。
「いいですわね、平和で」
「ですね! シンティアさん」
「ふーん、ヴァイスって意外に料理できるんだ。へー」
「ヴァイス殿、魔法使ってないか?」
「み、みんなの手料理、楽しみっ」
「ボク、食べ比べ好きー!」
「じゃあ私たちで付け合わせでも作ろっか?」
その隣では、女たちも和気あいあいと。
この未公開の映像、ファンディスクにしたら売り上げ凄いだろうな。
いや、落ち着け。今はそんなことはどうでもいい。
「ニンジン――
「おいヴァイスずりいぞ!」
「なるほど、その手が!」
そういってアレンも真似していた。この猿真似やろうが。
出来上がった後は、大きな食堂に移動し、皿に並べていく。
食べ比べする為に三つのカレー。
俺は元の世界の定番カレー、デュークは肉だらけの男カレー、アレンは野菜だらけだった。
騎士家系と山育ちが出ているのだろう。
そして全員テーブルに着いたあと、いただきますとの号令で食べはじめる。
「んっ! ヴァイス、美味しいですわ。それに初めて手料理食べました」
「ヴァイス様、これすっごい美味しいです!」
「だろう?」
「アレン、デューク、やるじゃない! どっちもイケてるわよ」
「はっ、当たり前だ!」
「久しぶりだけど、やっぱりカレーはいいね」
「うむ、甲乙つけがたいな!」
「美味しいね。みんなの個性があって」
「ボクも全部好きだなー!」
「確かに、みんないい味出ているわ」
結局、ただの感想回になってしまい、勝負はうやむやに。
だがみんなの笑顔を見ていると、そんなことはどうでもいいように思えた。
原作を知っている俺からすれば、今の面子は奇跡としかいいようがない。
死ぬはずだったシャリー、退学予定だったカルタ。
この時期のセシルは人を信用していなかったし、オリンも別クラスだったはず。
リリスはノブレスにはいなかったし、トゥーラも学園には来るが、アレンにしか興味がなかった。
なによりシンティアが、俺の隣にいることが驚きだが。
「ヴァイス、ほっぺにカレーが。フキフキ」
「シンティアさん、また擬音が口に出ていますよ」
「悪いな、シンティア」
「いえいえ、このくらい」
今の俺のありがとうは、全てに感謝だったかもしれない。
そして夜、みんなでバトル・ユニバースの大会をする前、風呂に入ろうとなった。
「ダメだ。台風がすげえな」
だがそのとき、いわゆる台風のようのものが直撃し始めたのか、手紙鳥が一切述べない状況になっていた。
といっても屋敷はデカいし、何も問題はない。
問題はないが……。
俺には何かの前触れのようにも思えた。
◇
「メリル、台風だ。メリル起きろ!」
「え? ええええ!? ど、どうするのよ!?」
「く、くそ、俺が全部波を叩き切る、お前は魔法でカバーしろ!」
「え、わ、わわ!?」
「おい死ぬぞ! がんばれ!」
「わ、わかったわ!」
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