298 もふもふダリウス

「あ、動いたよセシルさん!」

「着いてきましょうか。みんな、気配を消してね」

「うむ」


 私たちは、同級生の中でも魔力を消すのが得意だ。

 カルタさんは山で体得、トゥーラさんは何となく、私は元から魔力量が少なかったおかげで。

 それと、前にニール先輩との戦いで真っ先に落ちたことも関係している。


 戦わないことが、時には戦うことになる。それを学んだのだ。


 どこへ行くのだろうと思っていたが、ダリウス先生は、猫を置いたまま教員の寮へと戻っていく。


 ……あれ?


 と、考えていたが、ものすごい勢いで戻って来た。



 そして――。


「にゃおにゃおんー」

「そうかそうか。美味しいか美味しいか。良かったよかった。こんなこともあろうかと、チャールを持っててよかった。それにしてもかわいいなあよちよち」


 ……もちろんだけれども、ノブレスでペットは飼っちゃいけない。

 なのにチャールを?


 こんなこともあろうかとって、何だろう。


 すると、カルタさんが横でふふふと笑った。


「ダリウス先生って、本当にいい人だよね。いつも生徒たちの事を真剣に考えてるし、誰よりも優しい。入学してすぐ、私は退学の寸前だったんだけれど、声をかけてきてくれて、大丈夫だから心配するな、俺がいつでも面倒みてやるっていってくれた」

「我もデュランからノブレスに来て世話になったな。毎日挨拶してくれた。ダリウス殿のおかげで、寂しいや不安を感じたことがない」

「……私もだわ。みんな、そうだったのね」


 馴染めなかった私は、教室の端や、図書館でよく本を読んでいた。

 そんなとき、いつもダリウス先生が笑顔で声をかけてくれた。


 また明日な、と元気で叫ぶ先生のおかげで、一人でもここにいていいんだと思わせてくれる不思議な魅力がある。


 縁の下の力持ちなんて言葉があるけれども、ダリウス先生はまさにそうだ。

 危険な試験なときにいつも心を痛めているし、まだ強くもなかったアレンくんにも付きっ切りで指導したと聞いている。


 そんな先生と戦うのは少し気が引けるけれど、それでも倒さなきゃいけない。


 ほとんどの学生は諦めている。胸を借りるだけで、勝つ気なんてない。

 だけどファンセントくんは違う。

 

 彼は絶対にあきらめていない。


 だから私も、諦めない。


「にゃおにゃおおん」

「むおおおお、可愛いのなぁあお前! 黙って飼うか……? いや、でもダメか……くうううう」


 ただ今の所、猫が凄く好きなことしかわからないので、どうしたらいいのか。


 ……猫の魔法ってあるかな?


 ―――――――――――――――

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