299 猫好き

 ダリウス先生は存分に猫をモフモフしたあと、ノブレス魔法学園の事務の人に猫を預けていた。

 ちょっとだけ可哀想だったのは、涙を流していた事だ。


「ミケ、すまねえ、すまねえぞおおおおおお」

「にゃおーん」

「はい。責任をもって預かりますね。保護猫の関連の知り合いがいるので、すぐ引き取りてが見つかると思いますよ」


 貴族は猫が好きだ。

 気品があって手間がかからず、執事やメイドがいるので、外出してもお世話を任せられる。


 犬と違って飼い主に固執することがなく、好きな時に愛でられるからだろう。


 猫からしても幸せなはず。

 大きな家は探検のしがいがあるし、美味しい食事もあって運動もできる。


「ダリウス先生、おもしろいね。可愛くて笑っちゃう」

「我のもふもふ人形を一つプレゼントしてあげるか……」

「ん? もふもふ人形って?」

「な、何でもない! 何でもないぞ!」


 焦るトゥーラさんは、いつも可愛い。


 しかしまだ何も手がかりがない。

 試験はまだ先だけれども、授業が忙しくてあまり時間は取れない。


 ちゃんと、何か発見しないと。


 ……いや、だったら――。


「ねえ、トゥーラさん、セシルさん。私思ったんだけど、ダリウス先生に直接頼まない? 変な話だと思うんだけど……それが、一番いいかなって」


 そのとき、私が言いかけた言葉を、カルタさんが答えた。

 トゥーラさんも「同じことを考えていたぞ」と。


 ああ、みんな同じなんだ。

 ダリウス先生はいつも真正面から来てくれる。


 だったら、私たちもそうすべきだ。


 ゆっくり歩む寄り、声をかける。

 ダリウス先生は涙を拭きながら振り返った。


「おお! どどどどどど、どうしたお前ら!」

「色々と試験のことで聞きたくて来ました」

「失礼な話だと思っているのですが、ダメでしょうか?」


 カルタさんと私が伝えると、ダリウス先生は笑った。


「いいことだな。よし、どこかで手合わせ軽くするか」


 やっぱりいい先生だ。

 だけどそのとき、トゥーラさんが――。


「ダリウス殿! 我も正面から伝えます! もふもふが好きだ! そして、猫はいいですよね!」


 敬語を使っているトゥーラさんがめずらしい。

 いやそれより――。


 案の定、ダリウス先生が顔を真っ赤にした。


「え、み、みてたのか?」

「途中から! チャールを渡すところを見ておりましたぞ!」


 それ最初からだと思ったけれど、トゥーラさんはいつも正直者だ。


「……う、うう……」


 うずくまるダリウス先生は、やっぱり可愛かった。


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