297 ノブレス一番の人格者

 私が一番よく知っているのは、クロエ先生だ。

 厳格で容赦がないものの、真面目で優しく、魔力量の低い私に戦闘技術を授けてくれた。


 新たな能力を得られたのも、そのときの知見があったからだ。


 魔法はイメージの世界、構築技術さえあれば可能性は無限大だと教えてくれた。


「セシルさん、ダリウス先生ってもしかして……もふもふが好きなのかな?」


 そのとき、カルタさんが話しかけて来た。

 私たちは、物陰に隠れてダリウス先生を観察している。


 普段は知らない一面を見極めることで、次の試験を優位に運ぶ為だ。

 クロエ先生の事は良く知っているけれど、他の先生はまだ知らない事が多い。


「我も猫は好きだぞ。もふもふは最高だ。しかし、あの感じはちょっと……驚いたな」


 トゥーラさんは何事も動じない。なのに、かなりびっくりしていた。

 だけど、それは私もだった。


 なぜなら、ダリウス先生は――猫を一生懸命に愛でているからだ。


「んーどうちたのどうちたの、なんでここにいるのかにゃあ!? 紛れ込んだのかなぁ? いけないこでちゅねえ」


 猫が大好きなのだろうか。

 確かになんでここにるのかはわからないが、持ち上げて頬をすりすりとする理由にはならない。


 大きな身体を丸めて一生懸命に可愛がっている姿は、普段のイメージとはかけ離れている。


「どうする? セシルさん」

「そうね。もう少し様子をみましょうか。ダリウス先生は猫が好きでした、なんてファンセントくんに報告したら怒られると思うし」

「確かにな。お前らふざけてるのか? とお叱りを受けてしまうかもしれぬ。いやでも、いい情報だ。ありがとなお前ら、のパターンもあるか?」

「それはないと思うよ、トゥーラさん」

「そうか、そうかもしれぬなカルタ……」


 トゥーラさんがいると頬が緩む。

 緊張感のあるノブレス魔法学園では、彼女のような性格はめずらしい。

 私はファンセントくんと会うまで、人を避けていた。

 

 いや……どこかで妬んでいたのだ。

 どれだけ頑張っても到達できないと勝手に憧れて、区別していた。


 でもそうじゃないと、ファンセントくんが教えてくれた。

 皆と違って、私は彼の為に動いているかもしれない。


 彼が、手伝ってほしいと勝負を挑んできたあの日から。


 ……私って、思ってたより乙女だったんだな。


 なんて、誰にも言えないけど。



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