040 子猫とササミ

「……お前たち、付き合ってるのか?」

「わ、私は呼ばれたから」

「ああ。で、なんでお前まで来た?」

「同級生が遊びにきちゃ悪いのかよ? 普通じゃねえか?」


 ……まあ確かに悪くはないな。

 言われてみれば普通かもしれない。


 とはいえ、連絡ぐらいは入れるだろ。

 

 夏休みエスターム期間の中頃、タッカーの件が終わって、俺はミルク先生の帰りを待ちながら日々を過ごしていた。

 空いた時間にシンティアともお茶したりはしているが、最近は家のことでも忙しいらしく、あまり会えてはいない。


 だがカルタが戻ってきた。

 早速俺は飛行魔法習得のために呼び出したのである。


 ついでにおまけ・・・も付いて来たが。

 づかづかと中に入って、天井を見上げている。


「屋敷デケェえな! でも、ちょっとこのあたり田舎すぎねえか!?」


 ……こいつには思考がないのか?

 反対にカルタは入口で固まっている。オドオドしながら杖を握っていた。


「……入れ」

「はい!」


 カルタ・ウィオーレとデューク・ビリリアン。

 チビと筋肉、幼女とプロテイン、子猫とササミ、何でも形容できるが、正反対すぎる。


 原作でカルタは退学になっているので、俺もこの組み合わせは知らない。

 もしかして相性が良いのか?


 なんか……気に食わないな。


「ヴァイスの家って意外にちゃんとしてんだな」

「何を想像してたんだ?」

「なんか、奴隷とかがテーブルの下で膝をついてるとか。後、首輪を繋がれた人たちが立ってるとか」

「バカが、そんな――」


 ……いや、確か本当のヴァイスはやっていた気がする。

 つまり過去の俺がやっていたということになる。


 ……こいつ、鋭いな。


「え、ヴァイスくん言葉に詰まってる……本当なの?」

「黙れ。そういえば前に、ばぁぶすくんとか言っていたな。カルタ、俺を舐めてるのか?」

「そ、そんなことないよ!? 私、ヴァイスくんのこと好きだもん!」


 ……好き?


「なんだ、お前ら付き合ってんのか? まあ婚約者は親が決めたりするからな。でも、しかるべき手続きを踏んでからにしろよ」

「殺すぞビタミン」

「なんでだよ……」


 いちいち訂正するのも面倒だ。

 カルタは頬を赤らめてモジモジしている、だがラブコメは求めていない。


「デューク、俺がカルタを呼んだのは飛行魔法を習得する為だ。お前がここにいるってことは、俺にメリットがあるんだろうな?」

「はっ、そういうと思ったぜ。俺はビリリアン家だ。わかってんだろ? ヴァイス、俺はお前を超えるつもりだ。その為に利用させてもらうぜ」


 こいつはアレンと似ているがまったく違う。

 本質は俺と同じで、自分が一番になりたいと思っている。


 それをバカ正直に宣言するところが、コイツのいい所だ。


 ああそうか、ヴァイス・・・・。お前、こいつのこと好きだったんだな。

 だから俺も、嫌いじゃないのか。


「……中庭に移動するぞ。カルタ、今日はいつもより厳しくするが、根をあげるなよ」

「あげないよ。絶対に」


 はっ、いつもはオドオドしてるくせにこういう時だけは真っ直ぐ俺を見つめやがる。

 ったく、善どもが。


 ▽


「二人がかりでもいいが、まずはデューク、お前から来い」

「よっしゃあ、初めから本気でいくぜえ!」

「デュークくん、頑張って!」


 屈伸しているビタミンに、カルタが両手で拳を握って応援している。


 ……殺すかァ?


 まあでも、【閃光タイムラプス】を使ういい機会だな。


 デュークはバカだが、頭は悪くない。

 俺に負けてからこいつは努力してる。


 原作でもアレンに続くほど強かった。

 今この段階でどこまでなのか、楽しみでもある。


「カウントはしない。いつでも来い」

「そうかい、なら遠慮なくいかせてもらう――ぜッッ」


 デュークビタミンが凄まじい速度で駆ける。


 俺は観察眼ダークアイを発動し、閃光タイムラプスをも発動させた。

 空気中に漂う魔力すらも視認できる。同時世界の動きがゆっくりと視えていく。


 何度か試してはいたが、動きの早い奴には特に有効だな。


 デュークは、かなりの速度で俺に向かってきていた。


 こいつの身体強化はかなり使い勝手がいい。


 本人は「身体強化パワーアップ!」とバカみたいにいつも叫んでいるが、本来は無詠唱で発動ができる。

 攻撃力、魔力はもちろん、防御耐性、魔法耐性、全てが向上する。


 持続中は魔力を消費するが、ありとあらゆる筋肉と魔力総量がそれを支えている。


 サバイバル訓練でも三日間、俺と共に行動していても魔力切れを起こしていなかった。

 単純なスタミナだけでいえばノブレス学園でもトップクラスだろう。

 

 速度と魔力が乗った全力の拳、当たれば大打撃だ。


 ――当たればな。


「遅いぞ」

「クソッ、お前はなんでそんな目がいいんだよっ!」

「動きがバレバレだ。お前は綺麗・・すぎる」


 デュークは幼い頃から騎士の英才教育を受けている。

 豪快な言動からは真逆、全てが正しい訓練によって施された戦闘技術を取得している。


 だがそれは時として自らに矛を向く。


 型通りの真っ直ぐな攻撃と、野性的で何をしてくるのかわからない攻撃、どちらが厄介なのかはわかるだろう。


 もちろんそれが悪いわけじゃない。だが俺のように見極めるタイプとは相性が悪いということだ。

 

 ったく、お前はもっと素で動けばいいものを。


「クソッ、だったら――」


 何度やっても攻撃が当たらないとみるやいなや後方に跳躍し、距離を取った。

 そしてデュークは、手に魔法武器を精製しはじめる。

 俺にボコボコにやられてから生み出した改変オリジナルだ。


 けど……まだまだ雑魚だな。


「トゥ! トォ!」


 生み出されたのは小さな弓と魔法の矢で、俺に向かって遠距離から放ってくる。

 遅い、いや、お前の動きよりも遅い。


 まあでも、末恐ろしくはある。

 デュークの魔法はまだ発展途上だ。これからこいつが経験値を積めば、近中遠の全てに対応ができるオールラウンダーになるだろう。


 ……もしかしたら、戦場においてはコイツが一番強くなるかもしれないな。


「ったく、バカが」


 俺は瞬時に駆けると、デュークの後ろに回って木剣で一撃を入れた。


 前から思い切り倒れ込み鼻を打つが、鼻血は出ない。

 頑丈なのは良いことだ。


「いってえええええええええええ」


「次だ。カルタ、来い」

「はい!」


 たゆんたゆんと揺らしながら、カルタは杖に跨ると、空高く舞い上がった。


 ったく、ズルいな。色々と。


「ウホー! すげえな、こりゃ」


 デュークがゴリラみたいに吠えるのも無理はない。

 カルタは本当に天才だ。


 空を飛ぶというのは、両手両足で文字を書くようなもの。

 それをこいつは、涼しい顔でやってのける。


 だが――。


「飛ぶだけだと以前と変わらないぞ」

「――わかってる」


 カルタは上空から俺に向かって手を翳した。

 以前から魔力砲を放つことはできたが――。


「――はっ、大した威力だ」


 遠慮なく放たれた魔法の大きさと威力は、タッグトーナメントの時と比べて三倍はある。


 どいつもこいつも努力しやがって。


 そいつは俺の特権だろうが。


 けどまァ――。


「俺も怠惰を貪ってねえからな」


 黒い魔力を木剣に纏わりつかせて、更に光魔法を融合させる。

 あえて名をつける必要はない。


「この目はよく視える」


 閃光タイムラプスのおかげで、魔力の流れがよくみえる。

 魔力砲は丸い形をしているが、俺の目からはひび割れのように視えていた。


 それに沿うように剣を這わせると、ピキピキと綻びが広がっていく。


 魔法攻撃ってのは名の通り魔力による変換された攻撃だ。


 見た目上はただのデカい弾丸みたいに見えるが、その内側は術式で塗り固められている。


 俺が編み出した新技は、その術式を破壊する。


 つまり――。


「おいヴァイス、そりゃねえだろうよ」

「うそ……」


 ジェンガに手をくわえたかのように、カルタの魔力砲が粉々になって消えた。

 これは原作にもない、俺が編み出した最強魔法。


 今の俺は、魔法すらも破壊することができる。


 これも全部タッカーの閃光タイムラプスのおかげだ。

 ま、元をたどれば全員のおかげだがなァ。


「よっしゃあ、次はまた俺だ! ヴァイス!」

「その心意気は嫌いじゃない、来いデューク」


 ミルク先生が言っていたことを思い出す。


『師という行為は、同時に自らをも鍛えることができる。お前もいつかわかるはずだ。ヴァイス』


 こいつらの手ほどきをしてるわけじゃないが、今ならわかる。


 だが、強くなればなるほど、ミルク先生が遠く見えるが。


 ――――

 ――

 ―


「じゃあなヴァイス! 俺の身体強化パワーアップを上手く使えよ!」

「ああ、お前よりな」

「じゃあね、ヴァイスくん」

「カルタ、お前の飛行は流石だが、もっと近距離戦も練習しろ。俺もおかげで少しは飛べるようになったが、弱点から逃げるなよ」

「わ、わかった! あ、はい!」

「ああ」


 俺たちはライバルだ。

 決して慣れあいはしない。

 だが互いに研鑽を積めるのはいいことだ。


 ……ああ、俺はほんと優柔不断なやつだなァ。


 ん? そういえば……。


「お前たち、どうやってここへ来た? どうやって帰るんだ?」

「走って」

「飛んできたよ?」


 ……バカと天才が並ぶと笑えるな。

 走ってきたとしても、王都からここまで四時間はかかるぞ。


「……ったく。もう夜も遅い。カルタ、お前も流石に疲れただろう。飛行は危険だ。馬車を用意するから待て」

「まじかよ! ありがてええな!」

「……ありがとう、ヴァイスくん」

「ビタミン、お前には言ってない」

「おいそりゃないだろぉ!? 友達だろォ!?」


 ……こいつらなら、厄災のことを話しても信じてくれそうだな。


「ヴァイス様、ご用意ができました」


 その時、ゼビスが声をかけてきた。

 アイコンタクトしなくてもわかってくれているらしい。てか、俺の行動を予め予測していたな?


 どいつもこいつも優秀で困る。


「……ちょうど夕食の時間だ。ぼーっと待たせるのはファンセント家の名誉関わる。好き嫌いをしないなら食べていけ。その代わり、手は洗えよ」

「俺のおかんかよ……まあでも、ありがたく頂くぜ! 腹ペコだ!」

「はい! いただきます!」


 ああ、なんか俺は段々、いや、元からだが……この世界がより好きになってきたかもなァ。



 デューク⇒筋肉⇒プロテイン⇒ササミ⇒ビタミン⇒????


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