181 地下のサイドストーリー①

 オストラバ王都は、とても煌びやかな国だ。

 大勢の国民が住んでいて、沢山の観光客や名のある冒険者がこぞってやってくる。


 それにはもちろん夢があるからだ。

 少し街を歩けば、晴れやかな世界が広がっている。

 S級冒険者、宮廷魔法使い、王家直属騎士、特級召喚士、政界は言わずもがなだ。

 一生使いきれないほどの金を持つ貴族だって山ほどいる。


 誰もがここにいれば夢を叶えられるんだと自身を鼓舞することができる。


 だが現実はきびしい。ほとんどが王都から消えていく。

 しかしそれでも決して魅力が薄れることはない。


 敗者は静かに去り、勝者はただ声を大にするからだ。


 これは俺がいた元の世界でもそうだった。


 だが唯一違う所は、この世界、ノブレスの闇は深すぎるということだ。

   

    ◇


「失礼ですが、お名前は?」

「……ヴァイス・ファンセントだ」


 深夜二時、とある古ぼけた建物の地下通路、目の前にはフードを深くかぶった男が立っていた。

 ゼビスに頼んで、既に予約・・されている。


「――畏まりました。お連れ様は――」

「従者だ。1人ぐらい何の問題もないだろう」

「……畏まりました」


 そのまま扉をくぐると、更に長い通路がある。

 従者――ベルクはフードをかけたまま声をかけてきた。


「すげえ厳重っすけど、名前なんか伝えて大丈夫なんすか?」

「ああ、まだ悪役貴族だったらしい」

「どういうことですか?」

「知らなくていい。お前はフードを深くかぶっとけ。ここにいるのは、万が一でもありえない・・・・・からな」

「うっす。――その仮面、似合ってるっすね」

「黙れ」


 笑みは浮かべてないみたいだが、冗談は変わらない。

 といっても、この世界においてそれはいいことだ。


 ミルク先生もエヴァもそうだが、肝が据わっていることは強者の絶対条件でもある。


 どんな事が起きても笑える。それがなければこの世界は生きていけない。


 通路を超えると、大きな倉庫のようなところに出た。

 大勢の奴らがいる。


 こんな夜中に、それも、こじゃれた眼鏡や仮面をしながらグラスを片手に。


 ったく、創作物だと思えば普通だが、現実でみるとこれほど反吐が出るものはないな。


 

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