108 第三回(暫定)ヴァイス・ファンセントを語る会 in ノブレス魔法学園
「それでは私、リリス・スカーレットがまとめさせていただきます!」
ノブレス魔法学園の一室、白く丸いテーブルを囲んでいるのは、リリスの他に、シンティア、トゥーラ、セシル、カルタ、オリン、アレン、デューク、シャリー。
この時代にはそぐわないホワイトボードには【下級生首位ヴァイス・ファンセントの強さに迫る】と書かれている。
ちなみにヴァイスは、ノブレスの湯に入っている。ちなみに本日三回目である。
ちなみにこれは、食事後に誰かが言い出して急遽開催された学生ノリである。
最初に声をあげたのはシンティアだ。
「ヴァイスは自分にも他人にも厳しいですが、一方でとても優しい面もあります。私が、それが可愛くて可愛くてたまりません。強さは、内面の素晴らしさから出ていると思います――そして私は婚約者です」
最後をしっかりと強調した上で、シンティアは髪の毛をくるくるしながら言った。
隣のトゥーラは顔を大きめに振りながら、うんうんと頷いていた。
出会いこそ良くなかったものの、二人はすでに仲良くなっている。
その理由は、ヴァイスも知らない地下訓練室での秘密の戦闘のおかげでもあった。
勝者は僅差でシンティア、しかしそれは、別のお話。
「い、いいですか?」
恥ずかしそうに手を挙げたのはカルタ。
いつもの魔法の杖は、後ろの壁に立てかけている。この説明は、おそらく必要がない。
「わ、私も思うけど、やっぱり強い理由は、何事も一生懸命だからじゃないかな。も、もちろんみんなもそうだとは思うんだけど、ヴァイスくんにはすごい目標があるような気がして……ご、ごめんなさい! なんかあやふやで……」
「私もカルタさんに同意見かな。バトル・ユニバースの時もそうだけど、彼は一切手を抜かない。座学も、試験も。私と会話するときは、目を逸らさずまっすぐに話してくれるしね」
多少の含みを持たせて話を終えたのはセシル。
普段は温厚なシンティアの頬が、1ミリほど動く。
「ボクもそう思うなあ。それにヴァイスくんはブレない芯があって、凄くかっこいいよね」
オリンは頭の上にリスのピピンを乗せながら言った。ピピンは頭の上で一回転し、それを見たトゥーラが「おお」と嬉しそうに声あげる。
これ自体に、特に意味はない。
「いや、俺は上腕二頭筋だと思うな。身体を鍛えるってのは、自分をいじめ続ける努力ができるってことだ。俺は、筋肉説を押すぜ」
訳の分からないことを言ったのはデューク、そしてアレンが――。
「強いのは間違いないと思うんだけど、やっぱりカルタさんの言う通り、僕たちには知らない目標があるんじゃないかな。もちろん、ノブレスでトップを取りたいのはみんなが考えていることだけど、ヴァイスはその先を見てる気がする」
「私もアレンに同意。試験で助けてくれたとき、ヴァイスから凄い意思を感じた。絶対に負けない、っていう強い意思が」
シャリーの言葉に、みんなが頷く。
そこで、ずっと頷いていただけのトゥーラが手をあげた。ちなみにまだ袴を着ている。
制服が届くまで、まだもう少しかかるらしい。この話は、なくてもいい。
「私はまだ日が浅いのでそこまではわからないが、デュランで対峙したとき、ヴァイス殿からとても洗練された魔力を感じた。しかし違和感があったのは、やはり闇と光だろうか。異なる二人を感じ取ったのは、私だけか? それが、関係しているような」
「あら、私といるときは、いつも
シンティアの言葉に、この場にいる何人かの乙女心が、ドクンと脈を打つ。
それに対し、眼鏡をクイっとさせたセシルが――。
「……確かに、ファンセントくんは、
「……わ、私と飛行魔法してるときも、確かに皆には見せない
シンティアの頬が、1ミリ、2ミリ、3ミリと上がる。
デュークは心の中で「ほう、筋肉にも二面性があるのかな」と考えていた。
「ええと! 話がそれている気がするので、まとめますね!」
そこで一番察しのいいリリスが、大声をあげながら書きだす。
①ヴァイス様は強い。
②ヴァイス様には目的がある?
③ヴァイス様には二面性がある。
④ヴァイス様には大切な婚約者、シンティア様がいる。
最後の書き出しの後、リリスはシンティアにウィンクをした。
シンティアの頬が徐々に戻っていく。
リリスは、そのまま話を続ける。
「私も感じていることですが、やっぱりヴァイス様からは強い意思を感じます。目標があるのは間違いないかと。ただ本人が言わないのに、あまり掘り下げるのも良くないかもしれませんが……」
その言葉にみんなが黙り込む。
だが意外にも沈黙を破ったのは、カルタだった。
「……本人に聞いてみるってのはどうかな? 確かにリリスさんの言葉もわかるんだけど……もし力になれることがあるなら、私は――知りたい」
その言葉からは、いつもの弱気な感じが一切なかった。
そこにセシルが同意する。
「いいかもしれないわ。もちろん、シンティアさんが良ければだけどね」
「私もカルタ殿の意見に賛成だ。遠回しに頭をひねるより、直接訪ねたほうが早いだろう」
「ボクも賛成! 心を理解するのは、使役でも大事だし!」
「私もそれでいいと思うわ、ねえアレン」
「ああ、僕もヴァイスの力になりたい」
その場にいる全員の視線が、シンティアに向けられる。
「……わかりました。婚約者である私が、聞いてみます」
しかしデュークだけは「筋肉を鍛えているからだと思うんだよなあ」と、シャリーにしか聞こえない程度でつぶやき、足を踏まれてしまう。
――――
――
―
それから数十分後、湯上りのヴァイスが扉を開けた。
だがそこは
「だから、筋肉だっていってんじゃねえかよ!」
「違うに決まってるでしょ!」
「ちょっと二人とも喧嘩しないで!?」
デュークとシャリーが言い合いして、アレンが必死に止めている。
「トゥーラさん、あ、ど、どしよう!? ご、ごめんなさい!?」
「ど、どこだ!? く、く、くすぐったいぞお!? そ、そこはあぁんっ! だ、だめだ////」
リスに興味を持ちすぎたトゥーラが真剣な瞳で見つめたところ、ピピンが怯えてしまい、何を思ったのか袴の中にダイブ。
出られなくなってしまったのか、袴の中で暴れまわっている。ちなみにトゥーラの頬は赤く、身体をビクンっとさせていた。
「え、あ、ああああ、ど、どこいくのー!?」
「カルタさん、その速度だと一生かかっても追いつけないかも。反対方向から回って追い詰めないと」
カルタは、空中で暴れまわる杖を必死に捕まえようとしていた。
みんなが騒ぎはじめたことに驚き後ずさり、そのとき、後ろに置いていた杖に背中があたり、勝手に飛行魔法が発動したのだ。
そしてそれを助けようと、冷静に未来予測するセシル。
リリスは、体全体を使ってホワイトボードに書かれたことを隠そうとしていた。
なぜなら、最後に出た意見で「ヴァイスはたゆんが好き?」と、リリスも学生ノリで書いてしまったからだ。
「ヴァ、ヴァイス様、お、おかえりなさい!?」
「……どういう状況だよ」
唯一落ち着いているシンティアが、ゆっくりとヴァイスに歩み寄る。
「ヴァイス、おかえりなさい。いいお湯でしたか?」
「ああ」
ん? なんだあれ? たゆんが好き……と言いかけるヴァイスの言葉を遮り、シンティアが真っ直ぐな瞳で見つめる。
「――ヴァイス、聞きたいことがあります」
「なんだ?」
だがその瞬間、シンティアはなぜか不安になった。
ヴァイスが言わないことを言わせようとしてるんじゃないかと、そして、いつか言ってくれるはずだと。
ならば、待ってあげるべきなんじゃないかと。
「どうした? シンティア」
「……私の事を愛してますか?」
「……は? いきなりなん――」
「教えてください」
「……ああ、当たり前だ。愛してる」
「ふふふ、それだけで大丈夫ですわ」
もし何かしらの目標や目的があったとしても関係ない。
シンティアは、どんなことがあっても着いて行こうと決めている。
その日、ヴァイスは、みんな俺がいなくても楽し気だなと、少し悲しかった。
もしかして俺が来る前は、みんな俺の事なんか忘れて、お菓子やフルーツでも食べていたんじゃないかなと。
聞きたい、でも聞けない、でも、原作で知っているみんなが仲良くしているのは嬉しく思えた。
いくら破滅回避の為とはいえ、自分のことばかり優先しすぎるのはよくない。
だけど少しでいいから、俺のことを考えてくれたら嬉しいなあと、少しだけセンチメンタルな気分になったのだった。
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