302 ズルい

『カルタさん、支援をお願い! トゥーラさんは――』

『――わかったぞ』


 私たちは、最低限の言葉で意図が伝わるように訓練している。

 トゥーラさんがふたたび駆ける。

 先生は、ふたたび同じ攻撃を放った。いや、”放ってくれた”のだろう。


 手鳥足取り、勉強させてくれているのだ。


「――さあ、どうするんだ?」

「何もせぬよ。――我は」


 魔力を含んだ土がトゥーラさんに降り注ぐ瞬間、後ろから防御シールドが詠唱される。

 カルタさんの防御は、誰よりも広くて力強い。

 更に二重に重ねがけ、それですべての土を防いだ。


「ほう、やるじゃないか。だが――それだけじゃ勝てないぞ?」

「ここからが本番だ――」

 

 トゥーラさんは、近距離で抜刀した。

 純粋な剣術なら、ファンセントくんですら手を焼くはずだ。

 なのにダリウス先生は、たった一瞬で見切って止めた。

 

 余りの力強さに、トゥーラさんの表情が歪む。


「むぅ、凄まじい剣圧だのぅ。――だが、我は一人ではないぞ先生」


 私は、あえて飛行魔法で空を飛んでいた。

 地下なので、高くは飛べない。


 けれども先生からすれば防御しづらいところでもある。

 私はカルタさんのような魔法を放てない。


 でも、トゥーラさんと編み出した技がある。


 空中で人差し指をダリウス先生に向けて、指先に魔力を集約させる。

 親指を照準にして、しっかりと狙いを定めた。


 高速で照射される魔力砲。

 従来の魔力原則に乗っ取らないまったく新しい魔法攻撃。


 一撃で相手をしとめる事はできない。

 だけど当たれば部分的に”壊す”ことができる密度を込めている。


 倒すことは考えていない。

 そんな私だからこそ作りだせた――。


「なるほど、面白い魔法だな」


 なのにダリウス先生は避けなかった。

 私の攻撃は、狙い通り利き腕である右手に直撃した。


 しかし――直前で魔法が離散した。


 トゥーラさんが続けて攻撃、カルタさんも後ろから魔力砲を放った。


 なのにすべてが直前で離散していく

 まるで、見えない壁があるかのように。


 しっかり目を凝らすと、すぐにわかった。


 溢れんばかりの魔力。

 身体強化に全てを注ぐことで魔力の鎧をまとっているのだ。

 こんなに凄い魔力の揺らぎは、見たことがない。


 思わず、トゥーラさんが絶句した。


「ダリウス殿……ズルではないか?」

「どうだろうな。でもま、百回ぐらい致命傷を与えてくれたら何とかなるんじゃないか? さあ、かかってきな!」


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