303 戦うのは好きじゃない

「も、もうダメ……」

「我も限界だ……」

「そうね……」


 30分足らずで、私たちは地面に倒れこんだ。

 いつももっと戦えるのに。


 理由はわかっている。

 ダリウス先生の攻撃は、一つ一つが致命傷クラスで、常に防御を展開しておかないといけないからだ。


 ファンセントくんのような不可侵領域バリアがあれば違うかもしれないけれど。


「まだまだな。でもまあ、光るものはあったぞ」


 カルタさんとトゥーラさんは、返事を返す事ができないほど疲れていた。

 無理もない。トゥーラさんにいたっては、前線で攻撃をし続けていたのだから。

 代わりに、私が尋ねる。


「光るものとはなんですか?」

「連携がかなり良かった。それに俺には聞こえないところで話もしてるんだろう? ちょっと先生……寂しいな……」

 

 突然、悲し気な表情を浮かべる先生。

 笑ってしまうほど喜怒哀楽がゆたかだ。


 でも本当に優しい。

 致命傷にならないように攻撃の手を緩めてくれて、最後まで戦わせてくれた。


 攻撃は通らなかった。


 でも、私だって何もしてなかったわけじゃない。


「ダリウス先生」

「なんだ? セシル」

「もしかしてですが、戦うのって、あんまり好きじゃないんですか」

「なぜそう思った?」

「……ハッキリとはわかりませんが、本当に何となくです。失礼だったらすみません」


 すると、ダリウス先生は、思い切り高笑いした。


「ははっ、ちゃんとみてんなセシル偉いぞ。確かに俺はこんな見た目だからよく勘違いされるが、戦うのは好きじゃない。過去に騎士をやっていたのも、家系で仕方なくだな」


 先生は、ミルク先生と別の国で騎士団長をしていたと聞いている。

 好きじゃないのにそこまで上り詰められるなんて、天才だ。


「ならどうして教員になったのですか?」

「んー、人と話すのが好きだからな。校長と顔見知りってのもあったが、俺の持てる知識で一人でも強くなればいいなと思ったんだ」


 がははと笑う先生からは、裏の部分が感じられない。

 ファンセントくんと同じで、まっすぐな想いは強い。


 ごめんねみんな、弱点は……ないかも。


 そのとき、どこからともなく「にゃおん」と聞こえた。

 すると、さっきの猫が現れる。


 その瞬間、ダリウス先生は大剣を無造作に投げて飛び掛かった。


「どうちたの、どうちたのかなぁ!? なんでここにぃ!?」


 それを見て、カルタさんとトゥーラさんと見合わせた。


『……今ちょっとだけ攻撃してみる?』


 私の言葉で、トゥーラさんが凄く弱い風の斬撃を飛ばした。

 カルタさんも、そよかぜのような魔力砲を放つ。


 ぐんぐんとのびていくと、それは無事に当たった。


 ……試験に猫連れて行こうかな。なんて。


 ダリウス先生に明確な弱点は存在しない。

 けれども、戦うのは好きじゃないとわかった。


 小さなことでも、真剣勝負では必ず勝利につながる。

 他にも気づいていない何かがあるはず。


 ……ファンセントくんに嫌われたくないし、夜通し考えてみよっと。


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