304 試験前

 ルナとの訓練の日々は順調に続いていた。

 試験はもうすぐだ。教員たちに、同学年の奴らにも面白いものを見せてやる。


 アレンのバカたちは水風船などというもので遊んでいたが、あいつらなりには何か掴んだらしい。

 で、更に訳が分からないのはセシルだ。

 猫が弱点だったわ、ということを真顔で伝えられたが、なんて返したらいいのかわからなかった。

 一応情報は彼女がまとめているので、最終的な作戦判断を下してくれる。


 今まで俺は奴らと組むことはあったものの、意欲的ではなかった。

 しかし今回ばかりは違う。

 プロテインやピーチク幼馴染、猪突猛進バカ主人公を犠牲にしてでも勝ちたい。


 ま、そんなことは奴らには言わないがな。


 笑顔で握手を求め、裏では舌を出す。それが悪役だろう。


 俺に使われてるとも知らず、能天気な奴らだ。

 

 たとえあいつらが一撃で葬られても俺には関係ない。

 作戦によっては盾になってもらう。


 それが誰であってもだ。


「あらヴァイス、久しぶりにゾクゾクする顔ですわ……」

「ヴァイス様はやっぱり悪くて強くてカッコいいです!」


 ……まあ、シンティアとリリスだけは生き延びてもらうか。


 久しぶりに三人で食事を取っていた。

 最近は忙しかったので、こういったコミュニケーションは貴重だ。


 シンティアはいつものパスタセットで、リリスはやっぱり唐揚げもりもりの漫画盛りご飯だ。

 一体この細い体のどこに入っているのかは気になる。


「試験はもうすぐだ。二人の調子はどうだ?」

「もちろん日々訓練していますわ。今回は、今までで一番の相手になりますから」

「私もです! 毎朝、毎昼、毎晩、気合を入れていますよ! それに……」

「それに?」

「お二人にご迷惑をおかけしましたから。今回は、絶対にお役に立ちたいのです」


 ニールとプリシラと戦ったとき、リリスは学園を辞めようとした。

 何もできなかった自分が歯がゆいのだろう。


 気負いすぎるのは不安だが、一方で頼もしくもある。

 彼女ならきっと、限界以上の力を出してくれるはずだ。


「無理はしすぎるなよ」

「はい! えへへ、優しいですねえ」

「そういえばヴァイス、クロエ先生については何かわかりましたか?」

「俺が知っていることはセシルには伝えたが、彼女は秘密主義だからな。普段は教員の寮に籠ってるし、一番仲が良かったのもセシルだろう」


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