301 完全無欠の漢 

 ダリウス先生は戦闘服を着ていなかった。

 それだけ自信があるのだろう。


 まず、トゥーラさんが先頭で駆ける。

 けれども、直前で一撃必殺ワンヒットキルを放つ。


 以前と違うのは、次の動作までの速度だ。


 追い打ちをかけるように真正面から突っ込む。


 同時にカルタさんが魔力砲を放った。

 左右に分かれた魔法が、先生に向かっていく。


 私がまずすべきことは、”視る”こと。


 魔力の流れ、揺らぎ、癖、すべてのパターンを見抜いて、適切な指示を出す。

 

 そうして私たちは勝ってきた。


「気持ちのいい攻撃で、俺も嬉しいぜ!」


 嬉しそうな笑顔で、ダリウス先生は、大剣で地面をカリカリしながら、勢いよく下から振り上げた。

 地属性のエフェクトが剣から溢れている。

 闘技場の土に魔力が付与されたのだ。


 四大元素の中でも、地は一般的に”弱い”とされている。

 物質を使う事が多く、使い勝手が悪いのが致命的だ。


 ――そう思っていた。


『みんな、防御シールド急いで!』


 トゥーラさんは私の指示をしんじてくれて、足を止めたあと、防御を詠唱する。

 飛んでくる土の一つ一つに凄まじいほどの魔力が付与されていて、凄まじい魔力の雨のようにふりそそいでくる。

 

 たったそれだけで、トゥーラさんの防御が破壊された。

 

 もちろん、後ろにいた私にも土が降りかかる。

 遥か後ろにいたカルタさんにも。


 地属性の大きな利点は、魔力の消費がごくごく小さくて済むこと。

 火や水と違って無から生成するわけじゃない分、身体能力に魔力を割ける。


 ダリウス先生が強いとわかっていたことだけれど、ここまでとは。


 防御シールドは消費が大きい。

 これを繰り返されるだけで負けてしまう。


「何だなんだ、受け身ばかりじゃ俺には勝てないぞ?」


 それがわかっているからか、手加減するかのようにどっしりと大剣を肩に構えた。


 わかりやすく例えるなら隙のないデュークさんだ。

 

 ……想像するだけでおそろしい。


 けれども、気持ちは折れてない。


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