143 勝負の行方は――

 デカい魔力砲が、空から魔族に連続で放たれる。

 地面にぶちあたると、轟音が響き、煙が舞う。


 おそらくカルタは、魔力切れ度外視で時間を稼いでくれている。

 もちろん、その猶予を無駄にしない。


「――行くぞお前ら。訓練・・の成果を見せる時だ」

「「「「了解」」」」


 その瞬間、俺とシンティア、リリス、シャリー、アレンの背中に氷の翼が生える。

 これは、シンティアの魔法だ。飾りに近いが、俺たちが空を飛ぶイメージをしやすくなる為のものだ。

 もちろんそれだけじゃない。シャリーが翼に精霊魔法を付与、各自が持っている浮遊の力を倍増させる。

 最後にアレンが模倣魔法で、ココの防御術式を氷に付与した。これで、魔法が強固となり、ちょっとした攻撃で翼は崩壊しない。


「シャリー、ソフィアを頼んだぞ」


 次の瞬間、シャリーを除く全員が空を飛んだ。シャリーには防御に徹してもらう。


 俺たちは学んでいる。前回の厄災で、空を飛ぶ魔族奴らをただ見上げることしかできなかった。


 今回はそんな失態はしない。


 これは、原作で一度も見たことがない連携技だ。


 ――今の俺たちだから編み出せた技でもある。


 ごくごく少ない魔力で、全員が飛行できるのだ。


「ほう、面白いですね」

「私は援護に徹するから、前は二人でよろしく~」

「ハッ! スルスは弱虫だな。ビーファ、能力は解禁か!?」

「まあ、様子見しながらということで」


 しかし魔族はまだ涼しい顔だ。

 だが余裕なのも今のうちだろう。


『上空でエヴァさんが戦っているけど、気にしないで。ミルク先生、シエラ――エレノア先輩も魔族と交戦中、王都から宮廷魔法使い、騎士、友好国からも次々と援軍が来てるらしいわ。時間を稼げば勝てる。無理はしないで』


 そのとき、セシルの声が入る。どんな時でも冷静に俺たちを安心させてくれるいいタイミングだ。

 ったく、優秀な奴らが多くて文句がない。


「ヴァイス!」

「わかってる」


 俺とアレンが、まず前に出た。できるだけタッグで動く。


 シンティアはリリスとだ。


 相棒が主人公こいつなのは気にくわないが、想定訓練での作戦成功率を考えたセシルの判断だ。


 駒として動く以上、俺は口を出さない。


 俺たちはビーファに狙いを定めていた。シンティアとリリスはラコム。以前、バカでかい炎の玉をぶん投げてきたやつだ。

 転移窓の女が後方支援するのも、すべてセシルの予想通り。


 俺とアレンは左右に散って、空中で方向転換しながら挟み込む。

 上に逃げても、下に逃げても、例え防御しても閃光タイムラプス腐食エコロケーションですべてを破壊してやる。


 ムカつくが、アレンも同じことができる。


「手加減するなよ、アレン!」

「あたりまえだっ!」


「いいですね。洗練された動きで驚きます」


 あの竜をも倒した連携だ。更にあの時よりも技は遥かに昇華している。


 死ぬか、それとも能力手の内があるなら出しやがれ!


「――これは死んじゃいますねえ」


 そう言った瞬間、ビーファはあの時と同じように目の前から忽然と消えた。

 俺の傍に突然移動した時と同じだ。


 だがこれを見るのは二度目。


 そして俺たちは予想していた。だからこそ閃光タイムラプスを術式解析一番魔力を割いていた。


「アレン、どうだ?」

「――瞬間移動じゃない。――速く動いてるだけだ」

「ああ、同じ見解だ」


 そしてビーファは、空で目を見開いていた。

 はっ、魔族でもあんな顔すんのか。


「バレたじゃん。油断しすぎ」

「……ですねえ。魔王様の予想も外れることがあるとは」

「魔王様の悪口は許さないよ?」

「そういう意味ではありませんが」

「それに多分・・って、言ってたし」


 そして俺たちの隣では、シンティアとリリスが目にもとまらぬ攻撃をラコムに放っていた。

 デカい図体でパワーだけかと思っていたが、速度も速いらしい。


「おもしろいなぁ! 人間どもは、時間さえあれば強くなる! これは、魔族俺たちとは違うところだな!」


 キンブリーを倒したリリスの攻撃、シンティアの氷剣グラキエース

 どれも一撃を食らってしまえばただではすまない。


 だがそれでもすべてを回避し、牙のような八重歯を見せながら笑ってやがる。


 奴の言う通り、魔族は生まれながらにして序列が決まっている。

 だからこそ強い。だが俺たちは強くなれる。


 魔族お前らとは違うところだ。


「シンティア様!」

「――ええ、わかっているわ」


 シンティアが、リリスの投げたナイフに氷を付与した。

 速度と威力を兼ね備えたとんでもない威力。


 中級生に上がった俺たちは、今回の訓練とは別に連携を重視した授業を受けている。

 この世界、一人で戦うことのほうが稀だ。


 即席で組んだとしても、最適解を出せるように頭脳を鍛える。


 今この場にいないトゥーラやオリン、デュークも同じように戦っているだろう。


「ぬぅ、これは! 無理だな! 炎の鎧燃え尽きろ


 しかしそれをわかっていたのか、身体中に炎を纏いやがった。

 離れている俺たちでも思わず背けてしまいそうなほどの熱波。


 氷属性のシンティアにはひどく熱いだろう。

 何よりも攻防一体の能力、隙が無さすぎる。


「コラム、能力の使用は許可していませんが」

「お前も使ってただろう! 緊急事態だ!」

「言われてやんのー。――さて、いい加減にしておかないと、魔王様に殺されちゃうわ」


 その瞬間、スルスが手をかざすと、空に転移窓が開いた。現れたのは、上級魔物だ。

 甲冑を着込んだ人間と同じアンデットモンスター。


 というか、こいつは何回転移窓を開けるんだ?

 規格外の魔力量、一番後ろにいるが、最強はあいつに違いない。


 そのとき、シャリーの罠が発動する音が聞こえた。

 視線を下に向けると、アンデットモンスターが捕縛されている。


 だがシャリーは魔物に対して誰よりも強さを誇る。

 無数の罠、それが全てソフィアを守っていた。


 その瞬間、ビーファが俺たちに向かってくる。

 コラムもそれを見てシンティアとリリスに炎を纏ったまま両手に漲らせた。


「アレン、時間稼ぎなんて必要ない。――殺すぞ」

「もちろんだ」


 とはいえ奴らもここが正念場だとわかったのだろう。

 ビーファは、今まで隠していた剣を取り出した。

 それは、魔族が好んでよく使う黒剣だ。


 切ることにより魔力を奪い、そして強くなる。


 魔力量の変わらない魔族にとっては、破格の武器だ。


「そろそろ急ぎますよ。スルス、コラム」

「「了解」」


 ここからが本番だ。

 だが奴らも焦っているには違いない。


「デビ!」

「ユニ!」


 俺とアレンは、使役した魔物を空中に出現させた。

 デビはいつもの鞭と魔法盾。アレンのユニはただの白いユニコーンだが、先端の角から反射速度を大幅に向上させる加護の雷を自身に、そして俺に付与しやがった。


「ったく、余計なお世話だぜ」

「今は、勝つことが大事だろ」

「――ああ、その通りだ!」


 シンティアとリリスも最大限魔力を漲らせた。


 その瞬間、カルタがふたたび魔法砲を放つ。

 タイミングを見計らっていたのだろう。

 これ以上ない絶妙の援護アシスタント


 しかしスルスが、巨大な転移魔法を上空に展開させた。

 全てを飲み込んだ黒い転移は、なんと――シャリーとソフィア姫の上空に広がって、光を見せた。


 ――攻撃を、移動させたのか!?


「シャリー!」


 遥か下では、シャリーがソフィア姫を庇うように防御術式を唱えた。

 だがカルタの魔力砲は、それだけじゃ防ぎきれないだろう。


 最初からそれを出さなかったのは、奥の手に取っていたのか。


「させませんよ」


 助けにいこうにも、ビーファもわかってやがる。


 俺とアレン、デビで攻撃を仕掛けるも、とんでもない高速移動で攻撃を仕掛けてきやがった。

 そして、シャリーの上空に魔法が放たれる――。


「――防御シールド

「――完全防御フルシールド


 だがそれを防いだのは、クソ生意気な下級生ガキ二人だった。


「こっちは任せてくださいっ!ヴァイス先輩ッ!」

「シンティア先輩、任せてください。――四属性防御エレメンタルフォース


 屈託のない笑みを浮かべているベルクと、上級魔法ローブを身に着けているメリルだ。

 そしてアンデットモンスターを次々と駆逐していく。


 その動きは、俺とアレンの下級生の時よりも鋭く、強く、そして速い。


 てっきりアレンが呼んだのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 ま、なんでもいいか。


 そして魔力砲を放つのが危険だとわかったカルタが降りてくる。

 近くで戦うつもりだろう。


『デュークくん、トゥーラさん、オリンさんが魔物を駆逐しながら、ファンセントくんのところへ向かってる。もうすぐ合流できるわ』


 そして俺は笑みを浮かべ、剣をビーファに構えた。

 ビーファは今までの余裕な笑みはなく、苦虫を潰したような顔をしている。


「なんだ、いい表情できるじゃねえか」

「……人間の癖に生意気ですね」

「てめえらに、ゲームオーバーってヤツを教えてやるよ」




 


 

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