222 人気者

「ニール先輩、私の勉強見てもらえませんか?」

「先輩、私とお弁当食べましょうよ!」

「俺と約束してるんだぞ!」


 登校日から数週間が経過した。

 食堂では、ニールに群がる後輩たちの姿がもはや日常的になっていた。

 女子だけではなく、男子もだ。


「今度勉強会をしよう。みんなでね」


 復学してからの奴はトップの成績を誇っている。

 更にノブレスでは面倒見のいい先輩は殆ど存在していない。


 切磋琢磨、貴族だということもあって縦の繋がりが面倒だからだ。

 その中でもニールは異質な存在である。


 公爵家でありながら爵位を盾にすることなく、品行方正だ。

 アレンと言い合いをしていたのも、歯に衣着せぬと、むしろ好印象になっているらしい。


 隣にはいつもプリシラが立っている。

 余計な口は出さず、常にニールを守るかのように。


 今の所、目立つところはない。

 はたから見れば人気者が戻ってきただけだろう。


 今のところ、見えるところ・・・・・・では。


 可能性としては著しく低いが、原作が改変している可能性もある。

 あいつが善人になるとは思えないが。


 だがそれより、視線の先で面白いものが見えている。


「あ、アレン、大丈夫?」

「シャリー、大丈夫だよ。僕はいつも通りだ!」

「俺より食べてるぜ……」


 アレンはニールが気にくわないらしい。

 いつもは食べない量のご飯をガツガツと胃袋に書き込みながらニールを睨んでいる。


 プリシラのこともだが、現役の合法奴隷商人だということも知ったらしい。

 まったくわかりやすい奴だ。


 周りを見渡すと、カルタ、オリン、セシル、トゥーラといった馴染の面子がいつものように飯を食べている。


 どいつもこいつも漲る魔力は以前の比じゃない。

 研鑽を積んできた場を披露したくてうずうずしているだろう。


「ヴァイス、ほっぺにソースがついていますわ。フキフキ」

「シンティアさん、また擬音が口から出ていますよ」


 一方でシンティアとリリスはいつも通りだ。

 リリスがニールの元で働いていた話にシンティアは驚いていたが。


「それにしても、ニールさんの周りはいつも賑やかですね」

「ええ、私が働いていた時も普段はあんな感じでした。ただ、ルールを破った人にはとてつもない制裁があり、それもみましたが」

「それはどんな……?」

「そうですね。とにかく痛めつけられます。奴隷落ちになった人もいました」


 リリスの話では、奴隷を大量に買い付けたり、それを右から左へ流すような事業もしていたらしい。

 俺が知っているよりも随分と金を稼いでいるらしく、王家にも大きなコネがあるとのことだ。

 彼女の仕事は奴隷商人との護衛と、楯突いた貴族への制裁だった。

 昔の事をとやかく言うつもりはないし、リリスの境遇を知っているからこそ何でもやってきたのだろう。


 しかし平民のアレンが可哀想になるほどの差だ。

 だからこそ、その壁を乗り越えるのが面白いんだろうが。


「放っておけばいい。すぐに試験もあるだろう。お前たちも気を抜くなよ」

「もちろんです。それにしてもヴァイス、また恰好よくなっていませんか?」

「変わらないが」

「確かに目が以前よりキリっとしています!」

「同じだ」


 まったく、この二人はほんと変わらないな。




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