223 男の嫉妬

「久しぶり、元気してたかー」


 ノブレスの中庭、その横には、白衣のココが立っている。

 いつものような気だるい挨拶、タバコのような見た目のシガレットのお菓子を加えていた。

 そしてその隣には――。


「こんにちは。上級生のニール・アルバートです」

「プリシラです。よろしくお願いします」


 ニールと、奴隷紋を一切隠さないプリシラがいた。

 生徒が少しだけざわつくも、すぐココが声をかける。


「中級生になると勉強も、試験も難しくなる。魔法の個性も出てくるころだ。それに伴って無茶な事をする奴らが出てくるだろう。で、その前に一番大事な部分の基礎を練習してもらう」


 ココは、右手の人差し指をピンと立てた。

 左手で持っていた小さな針でブスリと刺し、あえて血を出す。

 その行動に、生徒たちがわっとざわついた。


「ニール」

「はい」


 ココの問いかけに、ニールが手で覆うと、傷が塞がっていく。

 ――治癒魔法だ。


「ニールたちに来てもらったのは私だけじゃ手が回らないからだ。各自、手持ちの消毒済みの針で指を刺し、交互に治癒の練習を行う。魔法はイメージだ。戦場では小さな傷が命取りになる。残念だが誰もができるとは思っていない。ま、がんばれー」


 相変わらず気だるい感じだが、ココの言う通り治癒は誰もができるわけじゃない。

 俺もほんのさわり程度。


 治癒は、それほど繊細なイメージを大切とする。

 授業が始まり、当然のように成功させたのは――。


「凄い。君はエリアス家のシャリーさんだね。精霊魔術を使えることは知っていたが、とても綺麗だよ」

「あ、ええと……ありがとうございます」


 器用なシャリーだ。

 当然このくらいはできるだろう。


 そのおかげで、めずらしい・・・・・ものが見れている。


 「…………」


 アレンが無言で怒っている。わかりやすい奴だ。

 ハッ、男の嫉妬ジェラシーはみっともないというのに。


 だが思っていたよりニールがいい奴になっているかもしれない。

 アレンにとっては違うだろうが。


 ……ん?


「うんうん、いいね。君はビオレッタ家の令嬢かな?」

「はい、そうです」

「見事な治癒だ。傷もそうだけど、魔力が最小限でここまでとは。もしかして……独学ではないのかな?」

夏休みエスターム中、西のゲドウ地方で学びました」

「なるほど、ゲドウは医療の発達が凄まじいからね。だけど一つだけ注意点だ。傷を治す前に血液の凝固を丁寧にしたほうがいい。それだけでも治癒後の傷が目立たなくなるからね」

「……わかりましたわ」


 完璧な考察と丁寧な言葉、屈託のない笑み。

 リリスから話を聞いていたシンティアは困惑していた。

 

 ……なんだこの腹の底から湧き出て来る気持ちは。


「お、おいヴァイス、俺の血が止まんねえ。は、早く治してくれ」

「待ってろデューク」

「深く刺しすぎたんだ。頼む血が――」

「黙れ」


 あのニール野郎……やっぱり気にくわねえな。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る