224 改変か、悪変か

「血、血が! 血が、助けてくれてヴァイスううう」

「ったく、お前が悪いんだろうが」


 デュークがうるさいので治癒を施す。

 普段あまり使うことはないが、このくらいは余裕だ。


 血が元に戻っていくと、デュークの顔に生気が宿る。


「は、はあ……これが、治癒、あったけえ……」


 この幸せ筋肉野郎にもムカついてきた。

 もう一度針を刺してやろうか?


 するとそのとき、後ろから声を掛けられた。


「もう少し丁寧にしたほうがいいです」


 プリシラだ。

 長い黒髪、間近で見れば見るほど綺麗な顔をしてやがる。


 原作では、あのニールのメイドにもかかわらず、人気投票では常に上位だった。

 ったく、カワイイってのは得だな。


「はい」

「……簡単な治癒だからといって甘く見ないでください。これだけでも命取りになりますから」

「わかりましたよ」


 少しだけムッとしていたのでおざなりの返事をしていると、頭にごつんと拳が飛んでくる。

 久しぶりの痛み、てかなんで俺の不可侵領域バリアが――。


「ヴァイス、ちゃんと上級生の忠告を聞け」

「……聞いてますよ、ココ先生。てかなんで俺のバリアが……」

「そんなことはいい。プリシラもニールも治癒魔法においてはノブレスでトップだ。ちゃんとそれをわかっているのか?」


 もちろん知っている。

 返事は適当にしたが、ちゃんとやることはやる。


「わかってますよ」

「それでいい。プリシラ、しっかりこの生意気な奴を見てやってくれ」

「はい」

「ヴァ、ヴァイス、次は俺だ! ほら、針を刺させてくれよ……なあ」


 すげえ嬉しそうなデュークが近づいてくる。

 何だコイツ。ああそうか、俺に一太刀浴びせられるのが嬉しいのか。


「ブスっとよお、俺が優しくしてやるからよお。――え、いたひゃああああ」

「とりあえずもう一回俺のターンだ」

「ひ、額から血がああああ」

「……丁寧に、丁寧にですよヴァイス君」


 俺の敵はアレンでもニールでも、プリシラでもない。


 ――魔王だ。


 それまでは過程に過ぎない。

 学園の悪だろうが何だろうが関係ない。


 全てを俺に糧にする。

 いつもより丁寧に、そして傷を治した。


 それを見てプリシラがニコリと笑う。


「はい、百点です」


 ったく、こんな顔もできるのかよ。


 そして静かに去っていく。

 ニールの野郎も笑顔で魔法を教えている。


 ……どうなってんだ?


「な、なあヴァイス、次は俺――ぎゃああああ」

「とりあえず三回目だ。お前は後でな」


 ちなみにこの後、すぐにチャイムが鳴って授業が終わったのは言うまでもない。


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