183 オークション①

 俺が初めてアレンと衝突したのは、奴隷についての歴史学だ。

 ヤツはバカみたいに真っ直ぐで曲がったことが許せない。


 一方で俺は、この世界が綺麗ごとだけじゃないことをわかっている。


 原作を知っているからこそ、世の中のことを斜めからみているからこそ、闇と光が表裏一体だということも。


 だがベルクは違うだろう。品行方正で生きてきたこいつにとって衝撃的な光景なはずだ。

 煌びやかな王都の裏で、こんな事が行われていることは。


 ついさっき身体が硬直したのは、仮面の下に見知った奴を見つけたんだろう。


 笑顔の裏には何があるかわからない。俺はそれを良く知っている。

 いや、おそらく元のヴァイスがよく知っているからだろう。

 心に深く根付いた欺瞞が、他人を信用するなと信号を強く発する。


 だからこそシンティアやリリスのように心から信用できるは人は貴重だ。

 こいつにとってのメリルのように、かけがえのない、代わりのない仲間は奇跡のような存在なのだから。


「さあ、まずはじっくりと見てください! 多少ならお手に触れることも結構です!」

 

 仮面をかぶった司会者は、まるで新しい料理を見せるシェフのように喜々としていた。

 スペースのない鉄格子に入った子供たちの反応は様々だ。


 恐れを抱いているもの、震えているもの、すべてを諦めているもの。


 共通している点は、尻尾がついていたり、皮膚が鱗だったり、頭が獣耳だったりということ。


 そう、彼らは亜人だ。


「ほう、七番なんていいじゃないか。うちは美味しい食事が出るぞお」

「六番の耳、私は好きですねえ」

「私は五番だな。あの目はゾクゾクする」


 耳が良いっていうのは、こういうときに損をする。

 だがベルクは目がいい。子供たちの挙動すべてが視えているのだろう。


 静かに拳を握りしめている。


「近くまでいくぞ」


 そう言いながら、俺はベルクの肩をとんと叩く。

 近くまでぎこちなく歩いたベルクは何を想っているのかわからない。


 けどこいつは、俺の言葉にしっかりと従っている。


「さあ、一番からいきましょう!」


 そして、オークションがはじまった。

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