227 初心忘るべからず

 俺が一人反省会していると、セシルが立ち上がった。

 こいつが自分からゲームをやめるだと……?


「行きましょうか。アルバート家に」

「……どういうことだ」

「さっきの通りよ。想像では何もわからない。実際に会って話してみればわかるかもしれないでしょ」

「けど家の場所も何も――」

「近郊の邸宅よ。既に私の名前で取り付けてるわ。奴隷についてのことで話があるってね。もちろんファンセントくんが来るとはいってないけど、大丈夫でしょ。ほら、行かないの?」


 まったく、なんて優秀なんだ。

 俺は、ゆっくりと立ち上がる。


「もちろん行く。さながら俺は従者か」

「ふふふ、いいわね。何かあったら私の事守ってね」

「ハッ、それぐらいはしてやるぜ」

「ふうん? 言質取ったわよ」

「当たり前だ」


 確かに考察ばっかりしてるのは俺らしくない。

 原作での印象が強すぎたせいで動きが鈍くなっていた。


 先手、それがミルク先生の教えだ。


 それは何も戦闘のことじゃないはず。

 今一度初心に戻るとするか。


「……けど今日中に帰れるのか? 近郊っていっても遠いんじゃないのか?」

「その時は泊まりでいいんじゃない。どこか野宿でもいいし」

「冗談だろ」

「あら、どうかしら。ちゃんとシンティアさんには許可を取ってるわ。お借りしますってね」

「いつのまに……」

「さ、行きましょ」

「ああ」


 セシルのおかげだがまずは先手を取れるだろう。


 ニール・アルバートがどういう人間か、しっかりと見極めてやる。


 乗り合いの馬車まで歩いていると、途中でげぇむ屋を見つけた。

 セシルの歩幅が明らかに遅くなる。


「……何時に会う予定だ? セシル」

「まだ時間があるわ。少しだけ早めに着きたいところだけど」

「……なら少しだけあのげぇむ屋によっていいか? 見たいものがあるんだ」

「別に……構わないけど?」

「ありがとな」


 その後、セシルが鼻歌を歌いながら軽い足取りで店内に入ったのは、言うまでもない。

 

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