236 天才vs天才

「よし、ここなら見渡せる」


 王城の空高く。

 上には結界が貼られていて、いつもより高くは飛べないけれど、ここなら全員の動きがわかる。


「カルタさん、ボクは北門あたりをみるよ」

「わかった。私は反対側を視るね」


 オリンさんは、四竜との闘いのあと、すごく魔力が増えていた。

 今も飛行魔法で私についてきていたくらいだ。


 ただ、デュークさんとセシルさんがやられた事に、正直言葉が出ない。

 この試験が始まる前、私たちはどれだけこの戦いが重要なのか話し合ったのだ。


 絶対に勝つ、そのつもりで挑んだ。


 いや……嘆いても始まらない。


 セシルさんがいないなら、私がみんなの動きを把握したほうがいい。

 今回の戦いは、ヴァイスくん、アレンくん、そしてリリスさんが在学できるかどうかの凄く大切な――。


「飛行魔法は複雑な術式です。重力に反する力、揚力、その全てに抗う魔力を均等にし続けなければなりません。なのに、あなたはまるで道を歩くように出来るんですね」


 その時、王城の先端から姿を現したのは、プリシラさんだった。

 大きな黒杖、まるでシエラさんの鎌のように上に乗っている。

 次の瞬間、後方からオリンさんの叫び声が聞こえる。


「な、なんでここが!?」

「カルタ・ウィオーレ、君の飛行魔法はやはり凄いな。巧みな魔術操作、世界でもトップクラスだろう。そしてオリン・パステル。今回の試験で二番目に厄介かもしれなかったのは君だ。しかし試験に恵まれなかったな。もしここが魔物溢れる森ならば、僕たちは君を狙う事を躊躇していた」


 杖もない状態、あろうことかポケットに手を入れたまま、ニールさんが浮遊していた。

 私たちが王城へ行くと決めたのは、セシルさんが落とされたからで、更に誰にも見られないように気を付けていた。


 なのになぜ、待ち伏せされていたの!?


「有能な人の動きは簡単に読めます。最適解を常に出し続けますから」


 その言葉の後、プリシラさんは、両手を空に掲げた。

 私はシンティアさんに杖を折られて以来、防御シールドの研鑽を積んできた。

 どんな攻撃でも、絶対に折れないように、倒れないように。


 例え上級生だとしても、魔力には自信はある。


 全てを――受け止めてみせる。


 防御シールドで身体と杖を覆う。

 

 そしてプリシラさんが手を振り落とした瞬間――。


「――な、なにこれ!?」


 突然、視界が真っ逆さまになる。

 驚きのあまり立て直そうとするも、私が進んだ先は青空ではなく、地面だった。


 そこに追従してきたのは、プリシラさん。


「飛行従者を倒すには、まず重力の空気抵抗を変化させる必要があります。――申し訳ありません。これは、上級生の授業で習うことなので、あなたには対処方法がわかりませんよね」


 左右の手で火と水の魔法を出現させながら、私に向かって両方を放つ。

 そしてそれは――直前で爆発した。


 ――ドゴオオオオオオオオオオオオオオン


 とてつもない威力。直撃を食らえば一撃で強制転移が免れないほど――。


 ――いやだ。


 それでも目も瞑らず、まっすぐに魔法を見つめる。

 たとえ落ちていってるとしても、ここは、私の領域だ。


 私の魔法は凄いと、ヴァイスくんは褒めてくれた。


 こんなところで、負けられない!!!


 体勢を立て直し、魔力砲が直撃するギリギリで回避。

 そのまま空高く飛び上がった。


「……凄い。訓練もなく自力で抜け出すなんて。彼女が、飛行魔法の天才……」


 プリシラさんが高く飛び上がるには時間がかかるはず。

 私がやることは、オリンさんを連れてここから離れることだ。


 何でも立ち上がればいい。


 私は、それを知っている――。


「カ、カルタさん、逃げて……」


 空高く上がったところで、私は衝撃的な光景を目の当たりにした。

 あのオリンさんが、このたった数十秒の間に強制転移のエフェクトに包まれている。


「驚いたよオリン・パステル。まさか使役もなしに僕がこれほどのダメージを受けると」


 ニールさんの身体から、大きく魔力が漏出していた。

 かなりのダメージを与えたのだ。


 これは決して無駄にならない。

 ヴァイスくんなら、アレンくんなら、有利を広げてくれる――。


「残念だが、意味はない」


 しかし直後、漏出していたはずの魔力が戻っていく。

 まるで、何もなかったかのように。


「ど、どうして……」

「悪いが僕は訓練服と相性が良くてね」


『オリン・パステル脱落。ニール・アルバート、プリシラ・シェルツにポイントを付与』


 白い光に包まれて消えていく。


 だけど今、ニールさんは油断していた。


 勝機――。


 ――今だッ!!!


 私は、両手を向けて魔力砲を放った。


 もし彼が王なら、これで私たちの勝ちだ。


 この距離なら外さない。

 防御では防げない。

 

 さすがのニールさんも目を見開いていた。


「……凄まじい魔力だな。直撃だと、いくら僕でも危なかっただろう。――プリシラ」

「はい」


 しかし私の全てを込めた魔力砲の軌道を逸らしたのは、プリシラさんだった。

 火と水、そこに掛け合わせたのは――風!?


 爆発させた魔法に風が付与され、爆風で魔力を逸らす。

 そんな連携技が!?


 それより、一体いくつの属性を!?


「さようなら。カルタ、ウィオーレ」


 プリシラさんが――襲いかかってくる。魔法ではなく、近距離で仕留め切るつもりだ。

 右手には水剣、まるでシンティアさんのような巧みな魔術操作。


 力強く振り下ろされる、だけど私は、諦めていない!


「――防御シールドがまだ使えるなんて」

「プリシラさん、目を覚まして、あなたは――」


 奴隷紋が目に入る。

 これだけの力を得ているだなんて、どんな訓練を――。


 しかし次の瞬間、プリシラさんは両手を重ね合わせて、近距離で魔法を爆発させた。


「さようならです」


 ――――

 ――

 ―


「プリシラ、大丈夫か?」

「はい。――ですが、カルタ・ウィオーレに逃げられました。まさかあの窮地から脱出できるとは……すみません」

「驚いたが問題ない。彼女は魔力を大幅に消費した。この試合でまともな飛行魔法はもう使えないだろう。次だ」

「トゥーラ・エニツィですか。しかし、彼女の行動は予測不可能です」

「わかってる。数分以内に見つからなければ、所定の作戦に戻るぞ」

「かしまりました」

「……必ず勝つ。プリシラ、ここからが重要だ。油断するなよ」

「もちろんでございます」

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