235 過小評価
強制転移された後、デュークさんと私は、予め決めていた作戦通り、みんなとの集合を優先しようと動いていた。
初期位置から考えると上級生は王城の近く、つまり中心に飛ばされている。
ならば、外門の近くなら安全だ。
この合同試験は、何よりもまず相性の良い面子で固まらなきゃいけない。
攻め、待ち、とにかくバラバラが一番危険。
つまり、ある程度の時間まではお互いに攻撃なんてしない。
集合を優先、それが、この戦術での一番の最適解。
けれども、ヴァイスくんは既に何人かの上級生を倒していた。
ほかにも、なんと中級生が上級生を倒したというアナウンスが聞こえてくる。
……何かがおかしい。
今は戦う時じゃない。
なのに、なぜこうも順調なのか――。
「セシル!!!」
目立たない外門近く、屋根伝いを駆けていたら、デュークさんが突然に私の名前を叫び、前に出た。
次の瞬間、とてつもない大きさの魔力砲が飛んでくる。
大きな魔法には必ず予備魔力が存在する。
攻撃の動作と同じで感知できるはず。
なのに、それが全く分からなかった。
「――ハァッアアア」
デュークさんは右拳に力を溜めて、体内で練った魔力を硬質化し、魔法を吹き飛ばした。
私たちはむしろ上級生から離れていたはず。
なのに、一体誰が――。
「君が一番厄介で、落としやすいからね」
「読み通りです」
そこに現れたのは、ニールさんとプリシラさんだった。
ありえない、どうして――。
「セシル、君は天才だ。バトル・ユニバースをたかがゲームだと思っているヤツもいるが、僕はそう思わない。むしろ実践以上の価値があるとさえ思っている。つまり君は、世界一の頭脳を持つと同義だ。――だがそんな君にも、
ニールさんの言葉の後、上級生が10人ほど、私とデュークさんを取り囲んだ。
先頭には、飛行魔法を使いながら右手に火、左手に水を溜めているプリシラさん。
転移魔法はランダムなはず、なのにどうして、私をここまで的確に――。
「人海戦術です。ランダムで飛ばされた後、上級生の全員が危険を顧みず、あなたの魔力だけを感知しようと、ただひたすらに動いていました。その過程で、ヴァイス・ファンセントや他に落とされてしまいましたが、その価値は――ありました」
私の頭を見透かしているかのように、プリシラさんが淡々とした物言いで答える。
集合を優先する。そのセオリーを無視して、上級生の全員が単独行動を開始した。
たった一人、私だけを落す為にリスクを選択した。
「セシル、逃げろ!」
デュークさんがとてつもない速度で動き、プリシラさんを狙う。
そこで守るように前に出たのは、驚いた事に、ニールさんだった。
だが受け止めることはせず、何と、そのまま腹部に直撃を食らった。
本気の一撃だ。魔力が離散し、漏出し、溢れ出る。
なのに、なのに――なぜか、そのすべてがニールさんの身体に――戻っていく。
「な、どういうこと――」
「流石ビリリアン家。いい一撃だな。――だが僕に、攻撃は効かない」
驚きの余り声が出ない。
デュークくんはそのまま攻撃を何度も嗾けるが、今度は軽々と回避される。
私の前に、プリシラさんがふたたび現れる。
この試験は、リリスの在学を懸けた、いえ、ファンセントくんやアレンさんの信念が懸かっている。
何としても負けられない、絶対に負けられない試合――。
「負けられない、私は! プリシラさん、あなたを倒してでも!」
「――残念ですが、意思の強さは勝敗に関係ありません。あなたは魔力を閉じて隠れるのが正解でした。ただそれだけで、私たちは負けていたのですから」
◇
『セシル・アントワープ、デューク・ビリリアン脱落。ニール・アルバート、プリシラ・シェルツにポイントを付与』
上空の魔法鳥のアナウンスが信じられなかった。
デュークが、セシルが、ものの数十分も立たずに撃破されたという事実に。
「ヴァイス、これは……」
事前の作戦では、俺とシンティアを除く面子がまずセシルとの集合を優先、それぞれが彼女の指示に従う予定だった。
それを守るのは鉄壁のデューク、俺たちからすればこれ以上の安心はない。
だがそれを上回ったのは、ニールとプリシラ。
おそらくだが……上級生たちは集合を優先しなかったのだろう。
さっき倒した四人は統率こそ取れていたが、なぜここにいたのかが不明だった。
つまり――セシルを探していた。
上級生といっても、全員が攻撃に特化してるわけじゃない。
後衛もいるし、罠を仕掛けたいやつもいるだろう。
それでも魔力探知を優先した。
もしセシルが見つからなければ、既に上級生たちは窮地に陥っていた可能性がある。
だが、奴らはその賭けに勝った。
更に前衛の要であるデュークをも落とした。奴単体なら逃げることはできただろう。
だがおそらくセシルを守ろうと無茶をしたはず。
これは、建物内での戦いが更に不利になるということだ。
だが――。
「わかっていたことだ。これは、命を懸けた戦い。まだ勝敗が決まったわけじゃない」
「……はい! すみません、少し動揺してしまいました」
俺の問いかけに、シンティアがふたたび目に炎を灯す。
だが今まで俺たちは多くの死地を乗り越えた。
このくらいでは揺るがないだろう。
問題は他の中級生だ。かなり動揺しているはず。
ならば今、やるべきことは――。
『ドルスティ・ブル、エリア・ホリ脱落。 アレン、シャリー・エリアスにポイントを付与』
『エモ・アン、カルゴス・ハルシ脱落 アレン、シャリー・エリアスにポイントを付与』
ハッ、最高のタイミングだ。
ドルスティは上級生の中でもトップクラスの実力を誇っていた。
間違いなく今の
さすが
軽々限界を超えやがって。
しかしあいつはわかっている。
セシルが落ちたことを嘆いても始まらない。
ただ前を向く事だけが、勝利のカギだと。
「セシルを落す為に動いていたとしたら、単独で動いてる上級生の残りがいるはずだ。そいつらを逃がさず叩く。忘れるなシンティア、この試験にもポイントがある。勝負に勝ち、試験でもトップで勝つ。俺はどんな時でも負けない」
「はい! ヴァイス、私はあなたの翼であり心臓です。どこまでも着いていきます」
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