234 戦争開始
「今回の合同試験はあらかじめ伝えていた通り、”上級生”と”中級生”の闘いになります」
クロエが淡々とした物言いで答える。
これは原作と同じだが、そこまで重要ではないただの合同訓練の一つだ。
いつものような全身全霊を賭けて絶対勝利を目指すものではなく、ある意味では雪合戦の時のように緩いもの。
学年で不利なこともあって、俺たちが取れるポイントはそこまでない。
だが今回は少しピリピリしていた。
本気の勝負をかけている奴らの熱に、人は感化されるからだろう。
俺やアレン、シンティアやシャリーの魔力が、漲っているからだ。
「やっぱりアレンさんはシャリーさんと組んだのですね」
「だな。気合が入りすぎて空回りしないといいが」
シンティアの言う通り、アレンはシャリーと。
その横にはデューク、驚いた事に奴の相棒はセシルだ。
筋肉と頭脳、ササミとブレイン、面白い組み合わせだな。
カルタはオリンと、トゥーラは――ほう、
「
その時、ミルク先生の言葉で、生徒たちが嬉しそうに騒ぎ出す。
俺たちは、ノブレスから少し離れた小国に来ていた。
だがそこに人は誰も住んでおらず、例えるなら無人国だ。
ここは他国との合同で新しく建設された訓練施設の一つで、実践を想定された大規模な試験会場になっている。
原作ではランダムで、森の場合もあれば、無人島の可能性もあった。
どれもメリットデメリットあるが、動きやすい分、俺にとっては悪くない。
ミルク先生に視線を向けると「勝てよ」と言葉を発せず言ってくれた。
静かに感謝し、呼吸を整える。
この試合は俺にとって重要なものだ。
リリスもそうだが、しいては破滅回避の為。
今一度、目標意識を高く持つ。
この世界でやるべきことの為に動いてきた。
それを、脳に刻む。
ニールは、いつもと変わらない表情を浮かべていた。
それはプリシラも同じで、ただの試験のようだ。
だが内心はそうじゃないだろう。
いくら奴でも俺たちに狙われて簡単に勝てるとは思っていないはず。
そして当然、奴には取り巻きが存在する。
ニールに心から忠誠を使っている連中は、必ず行く手を阻んでくるだろう。
それも全てなぎ倒す。
「ヴァイス・ファンセント。シンティア・ビオレッタ。前に出てきて下さい」
上級生は既に飛んでいて俺たちが後だ。
だが試合開始までは、お互いに認識阻害がかけられいて、動けないようになっている。
スタートした瞬間に魔力感知や全てが使えるようになるということだ。
クロエの転移魔法が発動する瞬間――「応援していますよ」と呟いた。
ハッ、事情を知ってたのか。
にしてもあいつがそんなことを言うとは珍しい。
「シンティア」
「はい」
「――勝つぞ」
飛ばされた先は、俺がよくしる創作物の国と同じだ。
小国と銘打っていたが、実際にはそうは見えない。
ご丁寧に王城まで残っている。
まるで人が飛び出してきそうだ。
転移魔法はランダムだが、ある程度は学年ごとで分かれているはず。
上級生たちもまずは集合を優先するだろう。
初手から無駄に体力を使う事なんてしないはず。
どっしりと構え、機をうかがう。
だが確実に勝機を見逃さない。
油断せず、目の前の敵を叩き続ける。
「シンティア、作戦通りだ」
「はい。いつでも動けますわ」
空から転移のエフェクトが次々と出現する。
セシルの予想通り、俺たちは各門の外側に配置されていた。
となると、王城付近には、上級生たちだろう。
どちらが有利か不利か、それは能力によるので一概には言えない。
守る方が得意な奴もいれば、攻撃が得意な奴もいる。
シャリーのような罠タイプもいるだろう。
空に魔法鳥が大勢放たれる。
撃破ポイントはもちろんあるが、今回はそれがメインじゃない。
面白いのは、これは戦争をイメージしている。
学年で【王様】が認定されているのだ。
それを倒せば試合は終了。
どれだけ数が残っていても、それで終わりだ。
ちななみに制限時間はない。
倒したタッグには、当然かなりのポイントが付与される。
そして、俺たちの王は――。
『考える必要はないなよなー』
『ああ、全員総意だろ』
『――ヴァイス、王を頼んだぜ』
話し合いにすらならなかった。
ハッ、俺みたいなやつに任せるとはな。
上級生は間違いなくニールだろう。
それを守るプリシラ、大勢の上級生。
どっしりと構えて、周りに騎士を置く。
これはさながらバトル・ユニバースと同じだ。
エヴァ・エイブリーもいるが、今回は参加せず高みの見物なはず。
気にせずいけばいい。いつも通りやるだけだ。
そして、試合がスタート。
魔力阻害が消えると、途端に大勢が出現したかのように感じた。
相手が合流する前にニールを叩く。
飛び出すように前に進むと、すぐ先に四人の上級生が現れた。
「――ヴァイスだ!」
「慌てるな。まだ二人だ! 今がチャンスだぞ!」
「囲め! 結界魔法に力を入れろ!」
「勝てるぞ!」
火、水、地、風の魔力を感じる。
なるほど、それぞれの弱点をカバーする為、別々で組んでいたか。
地面から魔法陣が光り輝くと、鉄格子のような結界が現れた。
あらかじめ付与していたわけではなく、遠隔での術式付与、更に高速詠唱。
1人で行っているのではなく、4人での連携技。
それも出会ってすぐに?
ハッ、おもしろい。さすがノブレスの上級生だ。
「今だ、一斉に攻撃しろ!」
次の瞬間、断続的な魔法が放たれる。
高密度の魔力、手加減が一切ない。
ああ――やっぱりこうでなくっちゃな。
今回の目的はいつもと違う。
だがその為に楽しまない理由なんてない。
全てを破壊し、乗り越え、何かも奪う。
リリスは俺のものだ。
「よ、よし。これであいつらも――え、ぎゃ、ぎゃあああああああああああああああ」
「消えろ」
一人目を首を狙って一撃で落とす。
訓練服の魔力計算により即死が確定し、魔力が漏出する暇もなく転移魔法のエフェクトで消えていく。
「な、なんで今の魔法攻撃を――」
「悪いが俺は――規格外なんでね」
俺の背中には、翼が付与されている。
だが以前と違って飾りではない。
シンティアと編み出した完全体に近い。
氷と闇の混合で作り出し――闇の翼。
重力に反した作用を翼が発することにより、俺自身の速度が何倍にも膨れ上がり、更に低空飛行ならば術式不要で飛び続けることが出来る。
「クソ、そんなのズルじゃ――」
「二人目」
だがもちろん、強くなったのは俺だけじゃない。
「一旦引くぞ!」
「ああ!」
「――逃がしませんわ」
飛行魔法で逃げようとする上級生に、シンティアが
そこに俺が遠隔で魔法を付与する。
上級生の足に突き刺さると、次の瞬間、飛行魔法が解除された。
「お、おいなんだこれは――」
「三人目」
シンティアの魔法に
並大抵の防御なら簡単に貫くだろう。
仲間を突き落とし、ここまで勝ち続けて来た。
だが死線をくぐってきた数が違う。
目的が、意識が、何もかも違うッッ!
「ありえない、まだ中級生のお前たちに――」
「四人目」
『アドレス・ミリ、トリティア・リリ脱落。ヴァイス・ファンセント。シンティア・ビオレッタにポイントを付与』
『オルス・ムウ、エレス・トリニス脱落。ヴァイス・ファンセント。シンティア・ビオレッタにポイントを付与』
俺は王だ。
だが座して待つことも、逃げも隠れもしない。
自ら前に突き進み、敵を討ち取る。
ニール、お前に本当の悪を教えてやる。
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