237 間引き

「ヴァイス……な、なんでお前はそんなに強いんだよ。おかしいだろ。これだからは天才は……クソッッ!」

「ハッ、俺が天才か。――面白いこと言いますね」


 生まれながらにして風魔法を扱える上級生が、そんなふざけたことをいいやがった。

 問答無用で首を狙って即死。


 今この場所は、元冒険者ギルド内だ。

 隠れて窓からこいつらが様子をうかがっていた事に気づき、襲撃した。


「私だって先輩としてのプライドが――」

「すみませんが、その攻撃は効きませんわ」


 その隣では、氷剣を片手に魔力砲を避けながら詰めていくシンティア。

 問答無用の一撃を与える。


 絶対零度は相変わらず驚異的だ。

 どれだけ研鑽を積んでも、人間の仕組みが変わることはない。


 もし生身なら凍傷で動かなくなる。最悪の場合は壊死するだろう。

 ある意味で優しい彼女にとっては使い勝手は悪いかもしれないが。


 天才とは、生来彼女みたいな人に贈る言葉だ。


『エリオット・アル、ローリエ・カル脱落。 ヴァイス・ファンセント、シンティアビオレッタにポイントを付与』


「外で魔力探知に引っかかっていた上級生たちが離れていきます」

「予め退却する時間を決めてたのだろう。カルタやトゥーラが落ちてないのが幸いだ」


 物事には順序がある。

 下級生から上級生になるにつれ、ノブレスの授業は難しくなっていく。

 特に魔法は厄介だ。格闘技の寝技のように、外し方がわからないと勝てない事がある。


 それが、俺たちと上級生の明確な差だろう。


 ニールとプリシラが旗を振っている事は間違いない。

 一番厄介なセシルとデュークを落とす事に成功し、オリンとカルタを狙った。

 だがカルタは一度トラウマを乗り越えた。そう簡単にやられるわけがない。


 次に奴らが狙ったのはトゥーラに違いないだろう。

 だが彼女の動きは野生と同じ。

 

 ある程度は予測できても補足は不可能。

 更に彼女は、魔力感知に殆ど引っかからない。


 デュランでは対魔法特化に重きを置いている。更にトゥーラは天才だ。

 よっぽど近づかなければ、誰も存在には気づかないだろう――。


「うちの子にお迎えしたいぐらいカワイイなこれは……」


 そんなことを考えていたら、冒険者ギルドの奥、棚に並んでいるヌイグルミを見ているトゥーラを見つけた。

 ぶつぶつと何か言いながら、笑みを浮かべて手を伸ばす。


「おい何してんだサムライ」

「え? な、なんだ!? ヴァ、ヴァイス殿!?」

「試験中だぞ」

「わ、わかっておる! か、隠れておったのだ!」

「そうは見えなかったがな」


 ご、ごほんとトゥーラが咳き込む真似をする。


「先ほど、プリシラさんとニール殿が私を襲ってきた。おかげでペアの相手とははぐれてしまったが」

「ほう、よく逃げれたな」

「相方のおかげだ。今ここで落とされるのはマズいと思い気配を断ち隠れていたのだよ」


 なるほど、流石野生の勘が鋭いだけがある。

 その時、後ろからシンティア現れた。


「あら、もしかして私はお邪魔ですか?」

「シンティア、冗談はよせ……」


 だがこれで鬼に金棒だ。

 一番出会いたかった奴といっても過言ではない。

 それに――。


『エビル・ライト脱落。 アレン、シャリー・エリアスにポイントを付与』


 今の魔法鳥のアナウンスでもわかった。

 人数差でいえば、今は中級生俺たちのほうが多い。

 セシルたちを落とす為に随分とバラバラになった弊害だろう。


 カルタが落とせなかったということは、予想以上に時間がかかったということ。

 そこへ来てトゥーラを逃がしてしまった。


 あいつらもかなり苦戦を強いている。


 もし俺たちが原作通りならやられていただろう。

 だが違う。修羅場をくぐってきたのだ。


 そして今ニールたちがいる場所はわかっている。


「王城へ向かうぞ。上級生ならそこを根城にするはずだ」


 いくらニールたちでも、上級生が少なければ開けた場所は不利。

 魔法には相性もある。どれだけ強くても、人数差は絶対有利――。


『オリ・トア脱落。エヴァ・エイブリーにポイントを付与』

『コウ・アンゴウ脱落。エヴァ・エイブリーにポイントを付与』


「……どうして、エヴァさんが」

「まさかニール氏の味方になったということか?」


 なぜ……いや、そうか。


「間引きだ」

「間引き? ヴァイス、どういう意味ですか?」


 俺は上級生の数、魔法、そして同学年たちの事も頭に叩き込んでいる。

 今残っている奴らの戦力を考えると、これでより互角に近づく。


 それがエヴァにわからない訳ないだろう。


 つまり彼女は――楽しんでいる。


 最終決戦を最高の展開で楽しみたいのだろう。

 ならばあいつも王城にいるはず。


 この試合のお膳立てをしたのはエヴァだ。


 さながら特等席のチケットを購入した富豪。


 このくらいの愉悦は当たり前だということかもしれない。


 忘れていたが、エヴァは味方でも敵でもない。

 いうなれば観測者だ。


 自己欲の為に動き、楽しんでいる。


 だが最後は見届けるはず。

 俺たちのどちらが勝利するのか。


 それが、一番のご馳走だろう。


「気にするな。エヴァはおそらくこれ以上手は出さない。――シンティア、トゥーラ、お前らは俺の後に続いて支援に徹しろ。ここから王城まで一気に目指すぞ」

「了解しましたわ」

「了解だ」



 しかしたとえエヴァと戦う事になっても、負けるつもりはない。


 ――――――――――――――――

 あとがき。

 次回、とんでもないヴァイスたちの猛攻により、過去一番の攻撃がニールとプリシラに放たれる!?


 後、エヴァはやっぱり厄介だ( ;∀;)




 そしてついに書籍版の『予約開始』しました!

 タイトルが変更になり『怠惰な悪辱貴族に転生した俺、シナリオをぶっ壊したら規格外の魔力で最凶になった』

 レーベル:角川ニーカー文庫 様。

 担当イラストレーター:桑島 黎音 様

 

 【Amazonリンク&イラスト付き】

 https://twitter.com/Kikuchikaisei/status/1755186344601804896


 【近況ノート&イラスト付き】

 https://kakuyomu.jp/users/Sanadakaisei/news/16818023213152743067


 よろしくお願いします☺

 



 

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